4.死後の世界のお茶会
時は少しだけ遡る。私がまだ猫ではなく、魂の姿だけだった時の話だ。
「では、小娘。わしらはとりあえず何をするべきだと思う?」
ティーカップを優雅に傾けて女神は問う。白い猫足のテーブルとイス、青地に小花柄のティーセット。彼女の趣味とは思えないかわいらしい物に囲まれたお茶会が和やかに行われていた。「恋と魔法のヒストリア2」のあらすじを軽くさらった後、女神はこう聞いてきたのだった。
「もちろん、最後の魔神の乗っ取りを防ぐことです。」
「それは結果ですよ。その方法を聞いているのですよ。」
スーツを着た真面目そうな赤と黄のオッドアイの美男子、リヒトさんが私に即座に突っこみを入れた。女神様の秘書で事務長らしい。せっかくとても整った顔をしているのにずっと疲れた顔をしている。
「方法・・・。もっと早い時点で、スノウリリイを一人にさせないとかどうですか。」
「ふむ・・・。悪くはないがお前、あれの心を開くのは大変だぞ。」
でも、私がやらなきゃ主人公が現れてからじゃ遅いですよと答えると、腕組みしながらそれもそうかとうなずいた。
「それに、生まれたばかりの彼女の所に行けば周りの人間も説得できますし、そもそも乗っ取りが起こらないんじゃ。」
「あ。それはダメじゃ。お前が行くのは七歳の誕生祭だ。」
「私もその日がいいと思います。色々都合がいい。」
「な、なんで生まれた時はダメなんです?そっちの方が確実じゃないですか。」
「色々あるのだ・・・。こちらにも。」
教えてはくれないけれど、大人の事情があるらしい。リヒトさんは彼女が周りから本当の王女でないと疑われていること、実際は先祖返りで姿が家族と違うため孤立してしまうことを教えてくれた。
「七歳の誕生祭にわしもついて行って、事情を説明してやろう。その後からはお前の仕事だがな。」
「一人にさせないことと誰が一体スノウリリイを追い込んでいるか調べることですね。」
普通に考えると、悪役令嬢とその兄が犯人に決まっている。しかし、この二人が言うには悪役令嬢とその兄が動かなくとも、スノウリリイは同じ日、同じ時間に似たような状況になって命を落とすらしい。そこが女神様たち的には解せないらしい。二人はまた誰か黒幕の第三者がいると踏んでいるみたいだ。バリバリとティーセットに全然合わない魔法の粉がいっぱいかかった有名市販菓子を食らいながら女神は言った。
「恐らくわしとは敵対勢力が送り込んでいる可能性が高いから気を付けろよ。」
「敵とかいるんですね・・・。同じ神様なんですよね?」
「そうなんだがな。なんか勝手にあっちに好かれているんじゃ。」
「何ですかそれ。怖い。何か他に注意することはありますか?」
「あまりお前の世界の知識を教えるな、それはお前の仕事じゃない。たぶんあちらで一番偉いのはお前になるが力の使い方は間違えるなよ。後は、そうじゃな。お前がヒトだったことも黙っておけ。うちは秘密主義なんじゃ。もしどれか一つでもやらかしたらすぐに回収して、地獄に送ってやるぞ。」
めっちゃ注意あるし、シンプルに怖いな・・・。私が聞かなかったらもしかして教えてくれなかったんじゃ・・・。危なすぎる。
「まあ、とにかくやりすぎるなってことよ。お前の転生は他の連中とは目的が違うからな。普通にわし以外から天罰下る可能性もあるから気を付けろ。あ、お前神霊に転生させると言ったが、何の姿がいい?」
「オススメは妖精タイプです。いかにもって感じがします。」
「何がいかにもじゃ。お前の意見は聞いていない。」
二人が言い合う。確かにいいかも妖精。ティンカーベルとかかわいいよね。あ、そうだ。
「私、それなら猫がいいです。うちで飼ってましたし、好きなんですよ猫。白い美少女と黒猫とか絵になりません?!」
「でも、黒猫とかなんか不吉じゃないですか?」
「いいじゃろ、別に。不吉とかそんなの都合のいい迷信じゃよ。わしは良いと思うぞ。」
「なら、決定ですね!」
そこから七歳の誕生祭に関する打ち合わせをした。あんまり私のセリフ多くなさそうで良かった。秘書は自分の主に紙の束を手渡した。彼女はさらっと読み流すと、また彼に返して手を宙にかざした。心の準備は出来たかと聞かれ、私はうなずいた。
「では、行くぞ!十年がかりの大勝負、張り切っていくぞ!」
「「はい!!!」」