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39.約束

 次の日、朝早くからアーサーはスノウリリイの宮までやって来た。この日は一日中視察で一緒に遊べないから、先に顔を見に来たそうだ。彼は絶対にまた後で会おうと約束して、従者に引きずられるように帰って行った。


 朝食後、スノウリリイはまたしても国王様に呼ばれた。彼女の顔を見ると、複雑な表情をしながら早速本題に入った。


「スノウリリイ、アーサー皇子のことをどう思っている」


「好きだよ」


 即答されると、益々顔が歪んだ。ちょっと可哀想だな・・・・。スノウリリイに悪意はないし、そういう意味で言ったんじゃないけれど。


「・・・・そうか。実はな、アーサー皇子も婚約者候補に入れて欲しいとのことらしいんだ」


「 ?! 」


 なんと。こちらから言ってみようかとしていた婚約が勝手に目の前までやって来たぞ。二人顔を見合わせていると、何を勘違いしたのか国王が慌てて補足した。


「いや、お前が嫌ならもちろん受けなくてもいいからね。これは国交正常回復の記念という意味もあるし。あちらの姫とアルベルトでもいいし・・・・、何ならソフィアとアーサー皇子でもいいから」


 二作目ヒロインと一作目メインヒーローのカップリングはシンプルにすごい。ゲームじゃ考えたこともなかったな。いや、それはダメ。アーサーの暴君化を止められないじゃん。


「考えておくわ」


 どちらとも言えない答えでスノウリリイは返した。本当は決まっているけれどね。ギリギリまで言わないつもりなのか。


「まあ、お前ならフラムかリオートにするだろうね。自分の感情を抜きにしても」


 そう言って彼女の頭を撫でた。そして、こう続けた。


「お前は賢いな。そしてこんなに国のことを想っている。でも、アーサー皇子のことで、お前に処分を下したことだけは俺は後悔してはいないよ」


「わかっている。お父様は間違っていない」


「そうか。でも俺に話してくれなかったのは少し悲しかったな」


「・・・・」


 スノウリリイが口を開こうとすると、それを遮った。


「お前は俺がフラムに関わりたくないだろうと思って気を使ってくれたんだよな」


「うん。わたしもそれを話さなかったことを後悔してはいないよ。ただ、彼がドラゴンということをわたしはもっと重視すべきだったね」


「そうだな。お前はあのドラゴンがどこに行ったか知っていても、俺たちは知らないからな。危険生物を野に放してしまったかとヒヤヒヤしたぞ。それなのに神殿に連絡しても、何を賠償させられるかと思えば、大丈夫だの一点張りでどうなっているかわからなかったよ」


「ごめんなさい」


 改めて彼女は父に謝罪した。彼女の藍色の瞳は少し潤んでいた。それを見て少し焦るようにこう付け足した。


「まあ、お前は頭がいいからな。次はちゃんと計画を立てて、もっと周りを信用して行動しなさい。自分の言動に責任を持つことも忘れずにな」


 彼女は父の言葉に納得したようだった。少し気まずかった二人の空気がまた戻ったように感じた。


「わかったわ。これからはバレないようにするわ」


「いやそうじゃなくて」


「そうだわ、お父様」


「何だい?」


「わたし、アーサーと婚約したいわ」


「・・・・・・」


 しばらく何を言われたかわからず、呆然とする国王様。え?なんで今言ったの、言わないんじゃなかった?どうも、彼女は父がアーサー返還事件の報告をされなかったのを悲しんだお詫びに、別な機密情報を代わりに教えてくれたようだ。でも、それ致命傷にしかならないような・・・・。


「そ、そうか。お前の選択を尊重するよ」


「うん、ありがとう。じゃあ、行こうヴィー」


 ああ、うん。そうだね・・・・。視線の端でため息をつきながら項垂れる王様を横目に、部屋を後にした。




 フラム帝国の二人との会食が終わると、寝る前ギリギリまでアーサーと一緒にいることを許された。アーサーは、アルベルトともだいぶ仲良くなったようで魔法の専門用語の話をしていた。あの一件以来、アルベルトとスノウリリイは気まずいため、アーサーは三人でと言ったけれど彼は丁重に断って自分の部屋に戻っていった。


「二人は仲が良いと聞いていたけれど、ちゃんとケンカもするんだね。何だか安心した」


「アーサーも兄弟と喧嘩するの?」


「うん。三人もいるからね。妹は特にうるさい。すぐ下の弟とは今までしたことなかったけれど、帰って来てからすごいケンカになったよ」


 すごく殴られてびっくりしたよと何ともないように笑った。すぐ下の弟・・・・前にアーサーが王位は彼が継げばいいと言っていたね。『無印』にも出てくる攻略対象の一人の第二皇子だ。アーサーとは真逆の性格で、二人の間には壁があったとかなんとかそんなストーリーが第二皇子ルートの主題だった。もしかして解決したんじゃ?


「そういえばアーサー、帰って来た時のこと聞いてなかったけれど大丈夫だった?」


「いや、全然大丈夫じゃなかった。一か月部屋から出して貰えなかったし、父上には何時間も正座させられて怒られたし、母上は号泣してそのまま一週間寝込んだ」


「その上、弟にも殴られたと」


 わたしがそう続けると、こくこくと彼が頷いた。スノウリリイは不安そうにアーサーの顔を覗き込んだ。


「帰って良かったと思う?」


「もちろん。ちゃんと皆と話したから。概ね皆が俺を避けていたのは君と似た理由だった。母上も謝罪してくれたよ」


「なら、良かった。ずっと心配していたのだから。わたしはヴィーの力を借りたけれど、アーサーは一人だったし」


「ごめんね。連絡出来たら良かったんだけれど・・・・。急に俺から君宛に来たらびっくりするだろうし」


「でも、結局は帰る手伝いのことを話しちゃったんだよね?お父様にも知られたし。黙っていてもいいって言ったのに」


 彼女が不思議そうに言うと、少し彼は目を泳がせた。何か言い訳を探しているようだった。


「だって、一人で帰ったっていうのも何だか不自然だったし・・・・。言わないと俺の気が済まなかったんだ」


 うちの親だってそんな遠慮はきっとされたくないはずだと続けた。まあ、悪い方向には転がらなかったしね。


「そういうものかな」


「そういうものだよ。そういえばさ」


 急に話の方向を切り替えると、アーサーは金色の瞳を更に鋭くしてこちらを見た。


「君の婚約者、ディーノ・リーヴスに決まっているって本当?」




「何それ、どっから出てきたの」


 思わず私が詰め寄ると、アーサーは自分じゃないと首を振った。


「フラム内でも噂になっているよ。一番はアルベルト殿がそう言ったからなんだけれど」


「お兄様が?」


「ああ。ディーノ殿を俺に紹介して、『妹の将来の夫だ。妹の友人なら仲良くしてくれ』って」


 スノウリリイは唖然としている。アーサーけん制されてるじゃん。あの子、外堀から埋めるつもりだ。でも、フラム内の噂まではアルベルトの仕業とは思えないのだけれど。


「ねえねえ、そのフラム内でってのはどこで聞いたの?」


「ああ、ここに来る出発前のパーティーだよ。誰が言ったのかわからないけれど、なぜか皆その話をしていた」


「そんなにフラムの貴族って、スノウリリイに関心があるわけ?」


「スノウリリイにというよりは俺の婚約だな。スノウリリイが神の愛し子と分かってから、もしかすると俺たちが婚約するのではという憶測が飛び交っていたからな。その中でのアクアノーツ訪問は怪しまれるのも無理はない」


 うーん、でもやっぱりおかしいよ。他にも年頃の高位貴族の男子がいるのに完全にリーヴス家だって指定されているなんて。もしかして、フラム側に私のような存在がいる?まさかね。


「で、結局どうなの」


 不満をにじませながら、アーサーは答えを急かした。スノウリリイはそれにたじろぎながらも、答えた。


「違うよ。全部噂。わたし、彼とはほとんど話したこともない」


「じゃあ、何でアルベルト殿はあんなことを?」


「お兄様はわたしをこの国に置いておきたいみたいなの。だからわたしと仲が良いアーサーを警戒したんじゃないかな」


「なるほどね。じゃあ、俺が今からスノウリリイを婚約者にしたいというのも間に合うというわけだ」


 アーサーはそう言うと、スノウリリイにぐっと顔を寄せた。宝石のような美しい二つの目と目が合う。


「スノウリリイ、悩んでいるなら俺を選んで」


 アーサーの真っすぐな目を眩しそうにしながら、スノウリリイは目を逸らした。それを見て、否定と捉えたのか悲し気にアーサーは付け足した。


「・・・・俺の事、嫌いならいいよ。ごめん、忘れて」


「ッツ、違う!!」


 大声でスノウリリイはもう一度前を向いた。最初より顔が近づき、今度はアーサーの方がたじろいだ。


「スノウリリイ、近っ」


「そんな訳ない・・・・。わたしがアーサーを嫌いになることなんてない・・・・」


「じゃあ」


「だってアーサーがいつかわたしのこと嫌いになるんだもの」




「嫌いになる? 俺が? 君を? どうして?」


 心底不思議ということを隠せない様子をアーサーは全面に出して、言葉の節々に疑問符を付けるようにスノウリリイの言葉を繰り返した。しかし、もうスノウリリイはぐずぐずに泣き出してしまい、返事が出来ない。それを見て益々アーサーが混乱する。


「どうして、そんな事言うの ? なんで ? 君には何か見えているの ?」


「ごめんね、アーサー。スノウリリイ、ちょっと最近気分が落ち込んでいるから物事を全部悪く考えちゃうみたいなんだ。この事は忘れて・・・・」


「そんなの出来るわけない。こんなに泣いているのに。ねえ、スノウリリイ」


 彼女の目の前に来ると、そのまま正面から抱きしめた。一時的にスノウリリイの涙が止まる。


「俺は絶対君の事嫌いになったりしない。約束する」


「・・・・」


「君が何を見て、聞いたかわからないけれど一番俺を信じて欲しい。と思うんだ。それじゃダメかな」


「わたしも・・・・あなたを信じたい」


「ありがとう」


 ほっとしたアーサーだったが、また不安そうな顔に戻ると恐る恐る彼女に尋ねた。


「じゃあ、俺のお嫁さんに将来なってくれるってこと・・・・?」


「う、うん」


「やったぁ!!!!」


「うわっ」


 満面の笑みを浮かべたアーサーは彼女を持ち上げてぐるぐると振り回す。そこへ彼を迎えに来た皇帝と王様が入って来た。


「こらっ、何やっているんだ。アーサー、早く降ろせ」


「はーい」


 皇帝に言われて、アーサーはそっとスノウリリイを下に降ろした。皇帝は軽く彼の頭をはたいた。


「痛い」


「全く・・・・。一体何を浮かれていたんだ?」


「スノウリリイが俺のお嫁さんになってくれるって」


「ええ?!」


 驚いた声を上げたのは王様だった。さっき聞いたのに・・・・。本気だと思ってなかったのかな?二人の顔を何度も見比べている。


「それはよくやった、じゃなくて。本当のことだとしても誰にも言わないように。まだ正式な婚約はしていないからね」


「む。わかりました」


「アルトはそれで大丈夫なのか?」


「ああ、婚約自体はまだ先になるがね。二人が納得しているみたいだし、それでこれからの話をして行こう」



「まあ、とりあえず今日はお開きだな。ほら、行くぞアーサー」


「はーい。じゃあねスノウリリイ、おやすみ」


「おやすみ」


「そろそろお前も寝なさい。アルベルトも」


 そう言って後ろに向って、話しかけると扉の後ろからアルベルトが現れた。え?ずっとそこにいたの?気が付かなかった。静かにおやすみなさいといって彼は自分の部屋に帰った。ちらりとこちらを見た目は驚くほど冷たかった。


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