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30.マリンブルー

 建国祭が始まった。活気に満ちたアクアノーツは今日はいつにも増して華やかで眩しい。水の国らしく王族の髪色と同じ爽やかなブルーで町中彩られていた。そんな中スノウリリイの顔は浮かない。婚約者候補との顔合わせのことを考えているのだろう。


「帰りたい」


「スノウリリイの家はここなんだけどね。まあまあ、そんなに気負わないで」


 うーん、目が死んでいる。せっかくの綺麗な衣裳なんだけどな。彼女は今日は珍しくツーサイドアップにしていて女の子らしさ全開というかかなりキュートないでたちだ。全部王妃様が指示した。かなり趣味に走ったのがわかる。


「スノウリリイ」


「叔父様」


 おお、久しぶり。ご苦労様です。ルカは本当にギリギリで帰って来た。慌てて支度をしたのか、ぐったりとしている。


「ローラ、可愛いね。似合ってる」


「ありがとうございます・・・。姫様のおかげです」


 そう。毎度お世話になっているルカに何を返そうかと考えた結果、パーティーのパートナーを付けてあげることにした。その相手こそがローラだ。彼女は経済的理由で社交界デビューをしていない。スノウリリイが後ろ盾になって、式典とパーティーに参加できるようにした。お金もスノウリリイの自腹だ。


「それ、どこから持ってきたの?」


「ん。リーヴスの叔父様の実験で貰ったお金」


 ・・・。あのおっさん・・・。ローラも最初は断ったのだけれども、やはり憧れが勝ったのか参加すると言ってくれた。私にはああ言っていたけれど、綺麗なドレスを着てみたいよね。ルカのパートナーというとまた渋りそうになったけれど。無理もない。ルカのパートナーとか他のご令嬢に刺されそうだもの。だから普段はスノウリリイが風よけをしているのだ。スノウリリイが後ろ盾なのは公表されているし、攻撃してくる人間はさすがにいないだろうが・・・。


 ローラは今日はなんだか大人っぽい。いつもは三つ編みの髪は緩やかに巻かれていて、真珠が編み込んである。何よりそのドレスだ。十六歳の彼女が着るには、だいぶセクシーな背中の開いた綺麗なブルーのマーメイドドレスを纏っていた。明るい髪色もあって、いつか現世で見た映画の人魚姫の姿に似ているなぁ。


「叔父様、趣味いいね。綺麗なドレス」


「そうかい?君が言うならそうなんだろうね!でも、こんなに可愛いローラを皆に見られたら減っちゃうよ」


 何言ってんだ、こいつ。ルカは疲れているのか、好きな子と一緒にいられるのがよっぽど嬉しいのか、テンションが異常に高い。たぶんどっちもじゃないかと私は思う。彼女のドレスは彼が選んだのだが、何というかその・・・。


「それじゃ、俺たちは行くから。また後で」


 ローラの手を引きながら、意気揚々と人ごみの中に消えていった。


「あのドレス、すごいドクセンヨクだよね」


 スノウリリイがくすくす笑いながらそう言った。彼女の言うことはかなり当たっている。あのドレス、ゲーム内でヒロインに着せたドレスとそっくり。年が離れた彼女に背伸びした格好をさせて、他の男どもをけん制していた。まさかここで見ることになるとはなぁ・・・。本当にルカだけは予測が付かない。


「スノウリリイ、少し来なさい」


 いよいよ、出番が来たらしい。王様の呼びかけに顔をしかめる。歩き出しても、無表情が一歩踏み出すたびに更新されているみたい。大丈夫だろうか。




 最初に挨拶に来たのは、王妃様の実家こと森の国だった。国王と王子が二人とも来ていた。

 森の国の王様は兄妹ということもあって王妃様によく似ていた。エルフ特有の尖った耳に涼しい目元の年齢不詳の美しい男性だった。

 二人の息子たちもまた父によく似て綺麗な顔立ちであった。第一王子のアルフォンスは父王そっくりのクールな少年で、第二王子のランディは生意気さが顔からにじみ出るような少年だ。二人ともあまりスノウリリイには興味がなさそうで、王様の方がよくしゃべっていた。二人ともスノウリリイより少しだけ上だからか今の年齢時点ではスノウリリイに魅力を感じないのだろう。

 それよりも王妃様と兄である国王の折り合いは本当に悪いらしく何度も火花が散るような静かな戦いが繰り広げられていて怖かった。こことの縁談はまあたぶんないだろうな。




 次に挨拶したのは性格のキツイ叔母上の国こと、星の国だった。その叔母上こと、現王妃マルチダ様はわざわざ孫たちと息子を連れて堂々と参戦して来た。といっても王妃は輿入れしてからも建国祭にはほぼ毎年参加しているそうで、来ること自体は不思議なことではないらしい。マルチダ様は還暦を超えているとは思えないほど若々しくて美しい。この人こそ何かの妖精とかなのかもしれない。見た目は大公様や王様よりは、ゲームのルカに似ている。そして、肝心の二人の孫たちは・・・。


「可愛い!!本物の妖精だ」


「・・・」


 王太子の息子こと、次の、次の王様のエドワード君の方が声に出してスノウリリイの美しさに感嘆を上げる。もう一人の孫、公爵家のジェイル君は顔を真っ赤にして祖母の後ろに隠れた。二人は十二歳と十一歳。先ほどの二人同様少し年上だが、あちらの二人とは打って変わってかなりスノウリリイが気に入ったらしい。明確に好意の感情を向けられて、真顔だったスノウリリイも思わず恥ずかしなってしまったのか、頬を染めて下を向く。


「まあまあ、二人ともスノウリリイちゃんが一目で気に入ったみたいね。どうかしらアルト?」


「何でしょうか、叔母上」


 不機嫌な様子を隠す素振りもない。苦手な叔母様も二人の様子も自分の娘の態度も何かも気に入らないんだろうな・・・。でも、もうちょっと王様は隠した方がいいと思うけど。


「うふふふ、とぼけちゃって。この子たちもスノウリリイちゃんも満更でもないみたいよ?どちらかなんて今は言わないわ。のちのち相性のよりいい方と結婚すればいいの。うちに来ることだけを確定してくれればいいわ。いいと思わない?兄さま」


 そう言って隣で見守っていた大公様に話を振った。静観の構えを見せていた大公様は一瞬動揺した表情を向けたが、すぐに真面目な顔になった。


「わしに言われても、何の権限もないぞマルチダ。お前の仕切りたがりは美点でもあるが、欠点でもある。子らは何も言ってはいないだろうが。事を成したいのならばそんなに急ぐな」


「あら、お兄様に久しぶりにお説教されてしまったわ。そうね、良くなかったわ。ごめんなさいね、アルト。でも、私孫同士で結婚できると思ったら嬉しくなってしまって・・・」


 大げさな動作で謝ると、反省するようなしょんぼりとした顔をする。どことなく少女のような雰囲気もある人だ。


「ではうちの孫と縁談を組むか?」


「まあ、嬉しいわ。カロリス家になら安心して孫を送れるわ。これでスノウリリイちゃんがうちに来れば完璧ね」


 おいおい、また勝手に言っているよ。カロリス家には確か女の子もいるのに、もらう方じゃなくて嫁ぐ方前提なんだ。たぶんカロリス家ってまだ会ったことないけど、攻略対象の一人の彼のことだろうなぁ。またしても運命が変わってしまう・・・。


「叔母上、後日二人それぞれとスノウリリイと二人だけで話す機会を作ります。スノウリリイに決定は任せていますし、時間はまだありますから」


「ええ、それならいいわ」


「スノウはそれで大丈夫なのか」


 二人きりという言葉に真っ青になっていたスノウリリイに助けを出したのは、大公様だった。ぱちりとチャーミングなウィンク付きである。


「途中までお兄様と一緒で、ずっとヴィーとは一緒がいいです」


 恐る恐るスノウリリイが言うと、まあ~仲良しなのねとマルチダ様は了承してくれた。スノウリリイ人見知りだからね。会ったばかりの人間と二人きりはきつい。星の国ご一行は今度はルカに絡みに行った。


「ルカちゃん、まだ独身なの?私がいい人紹介しましょうか?」


 だから懲りてってよ。


なかなか書き溜めが増えない・・・

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