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28.運命の相手

 状況を説明すると、ルカはとても驚いた。当たり前だよね、誰もドラゴンが大国の皇太子なんて思わないし。目の前で変身するのを見た時は、びっくりもだけれどそれ以上になぜか興奮していた。男のロマンだ何だか言っていた。この人もまともそうに見えて大概変な人だ。


「まあ、でも君が一人で解決しようとしなかったから良かったのかな。ねえ、神獣様」


「そうだね。変わったよスノウリリイは」


 私たち二人の言葉に、スノウリリイは少しだけ照れた顔をした。アーサーは焦れた顔をしてこちらを急かす。


「それで・・・ルカ殿下、何か解決法あるんですか?」


「ああ、そんなにかしこまらなくとも。何というかまあ、本当に間が良かったよ。その誕生祭俺も呼ばれているんだ」


「えっ、あなたを?」


「こちらも驚いたよ。何か行事があってもいつもは誘ってくることないのに。ブラッシャー公爵の弟と俺同級生だからかなって思ったけれど、たぶん君に関して聞きたいからだったんだろうね。もし、どこかの国に君がいるのならって」


 アーサーはしゅんと小さくなってしまった。自分のせいで迷惑をかけているのを実感したのだろう。子どもとはいえ、彼の行動は本来許されるものじゃない。ルカは更に続けた。


「君のことは俺の従者として連れて行こう。君は目立つから少し変装してね。早めに行こうと用意していたから、明朝出れば他の国にバレる前に誕生祭に間に合うだろう」


「明朝・・・」


 スノウリリイの顔が曇る。


「本当にありがとうございます」


 感謝を述べるアーサーに送り届けてからでと言い、ルカは片手を振った。ルカが準備のために早々と出ていくと、部屋はしんと静かになった。


「・・・」


 えーっと。


「急にお別れになっちゃったね」


「うん・・・」


 今はもう夜なのだ。というか子どもの二人はもう寝る時間だ。


「スノウリリイ、そんなに悲しい顔しないで。また会えるって言ったじゃん」


「だって・・・せっかく仲良くなったのに」


「俺は約束を守る男だよ」


 アーサーはふんすと胸を張った。その様子を見て、スノウリリイは少しだけ笑みを浮かべた。


「そろそろ寝ようか。明日早起きしないとだね」


「そうだな。ねぇ、スノウリリイ。・・・手を繋いでもいい?」


 少し照れた顔をしながら、アーサーは提案する。スノウリリイは嬉しそうに頷いた。


「お休み、二人とも。いい夢を・・・」







 アーサーと出会ってから時々変な夢を見る。頭の中に知らない人の声が響き続ける夢だ。


「その手を離すな」

「だめだ」

「絶対に捕まえて」

「助け・・・て」


 何かを伝えようと私に言っている。声は一つの声じゃなくて、色々な年齢や性別の人の声に聞こえる。その夢を見た後に目が覚めると必ず頭が痛くなった。誰かに言おうかなと思ったけれど、アーサーの顔を見ると治るから、余計な心配かけるのもなと思い、黙っていた。


 アーサーの旅立ちの前日は少しだけ夢の内容が違った。いつもは真っ暗闇でひたすら声が聞こえるだけなのに、今回ははっきりとした何かの夢を見た。




 そこはどこかの戦が終わった後の崩れ落ちた街だった。『わたし』は一人その中を踏みしめるように歩いている。たくさんのがれきの中にぽつぽつと人の姿が見える。誰もが泣くのはもう止めてぼんやりとがれきになった街を見ていた。


『わたし』の視点は高い。男性なんだろう。歩くたびに腰の剣が揺れる。その時、ぴたりと足が止まった。


 女の人が崩れかけた壁に背中を預けていた。いや、預けているというよりは倒れそうな身体を壁で支えているようだった。足を豪快に投げ出して、腹には真っ赤な傷跡が目立っていた。


「やあ、レイ。会いに来てくれたんだね」


 血だらけの唇から言葉が発された。『わたし』―いや、レイと呼ばれた男は眉をひそめた。女は笑った。


「そんな顔をするなよ。男前が台無しじゃあないか」


 レイの姿が女の近くの水たまりに映っていた。確かにレイはかなりの美男子であった。白い雪みたいな髪、濃い切れ長のブルーの瞳、作り物みたいに整った顔は恐ろしく美しかった。こんなに綺麗な男の人は、アーサー以外に初めて見た。でも、わたしはもっと別の彼の既視感に薄々気が付いていた。


(この人わたしに似ているんだ)


 見た目の特徴もだけでなく、この女の人に今なにも言えないところも。わたしはレイの中にいるのに、何も出来ない。ただ、レイとして見ているだけだ。


 目の前の女は血だらけの身でこちらの言葉を待っている。こんなにも薄汚れて血だらけながらも、女もまた人並み外れて美しかった。華やかで豪華、それでいてどことなく繊細さも感じる女性だ。真っ赤な長い髪が炎のようで綺麗だ。


「ミル、お前は・・・、どうしたい」


 かすれた声で絞り出すようにレイが問いかけた。ミルは嬉しそうに答えた。


「じゃあ、私の胸を君の剣で貫いてくれ」


「嫌だ」


 即答だった。はははっと更に高らかにミルが笑った。


「そう言わないでくれよ。君にしか頼めないんだから」


「まだお前は生きている。どうしてそれを止める必要がある?」


「もう無理だよ。自分でわかっているんだ。喋っているのも正直やっとだ」


 ミルの声が先ほどのレイよりかすれているのは明らかで、見ているこちらが苦しい。


「死ぬなら君に殺されたいんだ・・・お願いレイ」


「・・・わかった」


 視界がぼやけている。レイが泣いているんだ。そう思っていると、彼の腕が上がった。


「ああ、ありがとう。次はちゃんと迎えに来てね」


「当たり前だ」


 剣が振り下ろされる。嫌だ、見たくない。そう思ってぎゅっと目をつぶろうとした。最後に見たミルの顔は、死ぬ前とは思えないぐらい穏やかな顔をしていた。




「う、うわああああああああああああああああ!」


 アーサーの声で飛び起きる。ちょうど夢の終わりの瞬間だった。隣の彼を見ると、同じように起き上がっていた。足元のヴィーはこの大声を聞いてもぐっすり眠っていた。図太い。


「ごめん・・・。起こしたよね」


「ううん。ちょうど目が覚めそうだったの、わたしも」


 良いと言ったのにまだ申し訳なさそうな顔をしている。


「わたし今怖い夢見ていたの。一番怖いところが見えなかったから良かった。もしかしてあなたも怖い夢を?」


「うん。夢だけれど本物みたいですごく怖かった。ねえ、スノウリリイ」


「ん?」


「眠るまでまた手を握ってくれる?」


 寝る前に繋いだ手はとっくに離れていた。


「いいよ」


「また怖い夢を見るかもよ?」


「そんなの寝てから考えればいいよ」


「テキトーだなぁ」


 アーサーの強張っていた顔が緩んだ。わたしまで笑顔になっていた。


「スノウリリイ」


「俺は絶対失敗しないからね」


「?何のこと?」


「わかんなくていい。覚えてくれれば」


「わかったよ」


 そのまま、よくわからないまますぐに眠くなってしまった。







 そして朝になり、アーサーはルカに連れられ、城を出た。意外とスノウリリイは落ち着いて、別れを告げていた。アーサーは別れのハグをしたかったようだったけれど、ルカに阻止されてむくれていた。また会いに来ると言っていたけれど厳しいだろうな。けれども、何故だか彼がそう言うと叶うような気がした。それが彼が主人公たる所以かもしれない。何となく不可能を可能にするように期待させるんだな、これが。この出会いは、きっと良いものだったと思う。


「アーサーと離れて寂しいのに、また会うのが楽しみ」


 スノウリリイがこう言ったからだ。こんな言葉がでる出会いが悪いことだなんて思いたくない。ただ一つ、アーサーの『ゲーム』のヒロインは気がかりだった。彼女のためのフラグを思いっきり折ってしまったから。


「まあでも。運命の相手ってやつなら、無理やりにでもどっかで会うことになるのかもな」







「外に出てもいいけれど、余り遠くに行ってはいけないよ」


 そう言ってルカさんは出て行った。親切な人だな、本当に。


 ルカさんは俺を新しい従者として城から出したが、この旅に共に出た人達には別の紹介をした。


「この子は俺を助けてくれた子でね。従者と言ったが、本当はこの子を故郷に帰してあげようと思うんだ。着くまでは従者として働いてくれる予定だから。皆よろしくね」


 これで帝都に着いて、俺の姿が消えても不思議がられることはないだろう。ルカさんのおかげで同行者たちは皆親切だったけれど、一応は働いている人間なので甘やかしてはくれなかった。初めてする『仕事』というものは慣れるまで大変だったけれども、新しいことを学ぶことが出来て楽しい。だけども、そんな日々ももうすぐ終わる。明日には帝都に着くのだ。


「せっかくだし、外見てみるか」


 そう一人呟いて外に出た。




 ここは国の端っこの小さな町。初めて来る町だし、たぶんもう来ることのない場所だろう。歩いてみると、ここに来るまでに何度も見たような何の変哲もない街だった。とてつもなく田舎というわけじゃないが、都会というには少し寂しいそんな所。俺は少しだけがっかりしながら、歩みを進めるがやっぱり目新しいものはない。気が付くと街を通り過ぎて、森の前に来ていた。


「しまった。遠くに出過ぎた」


 来た道を戻ろうとすると、何か立札があるのを見つけた。長い文章が書いてある。


「なになに、『竜の宝玉』の聖地?」


『竜の宝玉』は帝国でも有名な物語で、スノウリリイともその本を読んだ。解釈を話して欲しいというから、俺の考えを言ったら「無粋だ」と彼女が怒りだしたんだったな。その時の怒った顔が可愛くて、思い出すとにやけてしまう。スノウリリイは普段は凛として表情を変えないのに、俺やヴィーの前ではころころ表情が変わる。それがもう嬉しくて嬉しくてたまらない。自分が特別なんだと感じるから。特別であることは、以前は俺にとって嬉しいものではなかったはずなのに、彼女に対してだけはそうでありたいと思う。これを彼女が見たら、喜ぶだろうか。それとも俺の無粋な解釈を思い出して、また怒り出すだろうか。どちらでも可愛いだろうな。


「ねぇ、何を笑っているの?」


 急に誰かに声を掛けられた。びっくりして、声のした方を見ると森の方に可愛らしい少女が立っていた。


「べ、別に。この立札に興味があっただけだよ」


 着ていたローブで顔が見えないよう隠す。帝国の民相手は俺が誰だかわかってしまうかもしれない。


「あなたも『竜の宝玉』が好きなの?」


「俺じゃなくて俺の友達が好きなんだ」


 俺がそう言うと、ふーんと言って彼女は首を傾げた。普通の町民にしてはいい服を着ている。金持ちの娘だろうか。でも手に持った籠から山菜と薬草が見えているし、何だか不思議な子だ。珍しい桃色の髪をしていて、くりくりとした緑色の大きな目は好奇心旺盛な様子でこちらを見ている。


「ねぇねぇ、この聖地ってね、森の中にあるの。もし良かったら見に行かない?」


「えっ」


 ルカさんの言葉を思い出す。少し気になるのは確かだが、あの人に迷惑をかけるのは嫌だ。


「あ、もし遠いことを心配しているなら大丈夫。そんなに遠くないからすぐ帰って来れるよ」


 彼女がそう言うし、やっぱり気になるのでついて行くことにした。俺の了承を聞くと、彼女は嬉しそうにこちらの手を引っ張った。


「やった!早く行こう!もう夕方だしね。私も遅くなったら怒られちゃう」


 彼女に手を引かれながら、俺は気になっていたことを聞いてみる。


「君、名前は?・・・俺はアーサー」


 何か偽名をとも思ったけれど、本名を言うことにした家名は黙っておく。彼女はああ、言っていなかった!と笑って答えた。


「私の名前はね――――」


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