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9.王女と黒猫

 二人きりになると、スノウリリイは落ち着きなく目をきょろきょろと泳がせた。彼女の家臣たちはとても不安そうな顔をして部屋を出ていった。


「ごめんね。二人で話したいなんて言って。びっくりしたよね」


 彼女はぶんぶんと勢いよく否定の意味の首を振った。ここに来てからおよそ三日。こうやってまともに対面するのは実は初めてなため、少し緊張している。





「まあ、まずは改めて自己紹介するね。私は古き女神イヴァルチアの神獣です。こうやっていっぱいお話しは出来るけれど、生まれてから長くないので力を使うのは上手くないの。これからよろしくね」


「うん。驚いたよね。突然、一緒に暮らせなんて言われて。でも女神様の言っていた通り、私はあなたへのプレゼントだと思ってくれたら・・・。って、だいぶ図々しいね。タダで寝る場所もらっているのに。そんなことないって?ふふ、ありがとう。でも、私力を使うのは上手くないってさっきは言ったけれど、基本的にはこの力は貴女に何かあった時や誰かが困っているときにだけ使うつもりだよ。今はまだ勉強中だけれどね。私の目的というか目標は、貴女が笑って過ごせるようにすることだから」


「不思議そうな顔しているね。貴女は全然顔に表情が出ないと言われていたけれど、今日一日一緒にいたら少しだけ表情が変わるのがわかったよ。数学の先生少し苦手だよね?あ、やっぱり?ふふん、これで私も超能力者・・・。じゃなくて、不思議な顔の話だよね。貴女の疑問はこれかな?『どうしてここに来たか、自分を守るのか』」


「疑問に答えると、貴女に会いたかったからだよ。私はね・・・この世界に救われたんだよ。生まれたばかりなのにって思うかもしれないけれど、詳しいことは秘密で。まあ、この世界に来たは良いけれども、友達もいなくてさびしいからあなたとお友達になりたいなぁって。結局は自分のためなんだよね」


「納得してくれた?じゃあ、本題を話すね。最初にも言ったけれど、私のことお客様扱いしないで欲しい。私がここで一番偉いのは知っているけれど、私ここに結構長くいる予定だから、お客様扱いがずっと続くのはちょっと疲れるかなって。それにまあ、神獣になったばかりの私からすると、偉いのは女神様であって私じゃないからね。うん。他の人たちはともかくスノウリリイにだけは普通に話してほしいんだ。・・・うん。今は無理に話さなくても大丈夫。貴女が話したくなったらで、いいんだよ。」


「それについても話しておきたかったの。今、あなたはお話を誰ともしていないよね。それに対して私は今すぐどうこうとは思ってないよ。でも、何がきっかけになるかはわからないけれど、将来はまたお話ししてくれるようになると思うんだ。その時はちゃんと一度は自分の家族とも話してほしいの。絶対に家族と仲良くしろとまでは言わないよ。強制されたら私がどうにかしてあげる。でも、一回は自分の気持ちを伝える努力をしてほしい。私との約束、いや契約とも言えるかもね」


「それとね、今日は一緒にずっといたけれど、明日からは私色んな所を自由に見て回ろうと思うんだ。折角この世界に来たからね。でもたまには、またあなたの授業やお稽古の様子も見て回るかも。そうしたら外で聞いた話いっぱいスノウリリイに話すね。この毎日の二時間に話すよ。」


「せっかくの自由な時間に私がいて申し訳ないんだけれど・・・。私も気分次第でお話しするから、あなたも好きなことをしてね。本を読んでいるときに何か言ったりしないから」





 彼女に確認を取りながらだが、話をした。言葉は話さないのでどうしても一方的になってしまったが、彼女は特に不満もないようだった。そろそろ彼女が眠る時間も近付いてきた。寝る時は宮の人たちがこの部屋に用意してくれた大きなクッションで眠ることになっている。

 寝る前にスノウリリイにしてもらいたいことがあった。


「ねえねえ、私のこと撫でてみない?」


「?!」


 目を見開いた彼女は恐る恐る右手を伸ばした。私の胴の辺りに手が当たる。指が一本だけ触れていたのが、少しずつ本数が増えていき、手のひらを少しずつ動かした。その感触を確かめるように何度も撫でた。最初に会った時から触りたそうな顔をしていた気がしていたので、どうやらその通りで良かった。


「気持ちいいでしょ?ローラにさっきブラッシングしてもらったばっかりだからね」


 彼女はうんうんと頷きながらも、撫でるのを止めようとしない。かなり気に入ってくれたようだ。


「他の人より、私ならそれほど怖くないでしょ?」


 手の動きが止まった。見上げると困ったように眉が少しだけへの字になっていた。やっぱりこの子結構顔に出るのかも。


「スノウリリイ、人間が怖いんじゃないかなって思ったの・・・。あまり目を合わしたりしないし、あっても手をぐっと握りしめたりしていたし・・・。でも私にはしてなかったから、ヒトが怖いのかなって」


 見つめあった目は逸らされることはなかった。手も握りしめていない。これが肯定の意味なのは私にもわかった。


「あ・・・う、ぐぐ」


 うめき声のような声を出したスノウリリイはぽろりと一粒涙を流した。涙はそのまま溢れるように落ちた。


「うううう・・・・」


 彼女の声を聞いたのは、ここに来て初めてだった。何かを言いたげな顔。きっと彼女は泣きたかったのではなくて、私に伝えたいことがあったんじゃないだろうか。しかし、これ以上何か彼女に聞くことは出来なかった。かといって何か慰めの言葉も言えなかった。彼女の顔色が分かるようになったと思っていたけれど、今彼女が何を悲しんでいるか明確にはわからなかった。わかりたい。彼女の思いをいつか聞きたい。そんなことを思いながらこのふわふわな体を押し付けた。


「今日、一緒に寝たいな。いい?」


 彼女は了承した。赤くなった目が少しだけ細くなり、笑ったような気がした。彼女は明かりを消して、私を抱き上げ、ベッドに降ろした。そのまま二人で丸くなって眠った。スノウリリイがぴくりと肩が震えるたびに彼女の胸に頭を押し付けた。初めて抱きしめられた時と同じで彼女の胸は暖かかった。


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