第六話 強く
晴明と朱夏は楼閣の部屋を後にし、廊下を歩いているとタバコを吸っている禅師の姿を発見する。
「禅師さーん!私の弟子です!」
禅師は一瞬だけ、晴明を憎む様に睨む。
だが禅師は頭を振り直ぐに目を逸らした。
晴明は禅師に睨まれた事で身を硬くしその場で固まる。
「おう。まあ楼閣様に聞いてる。俺は関わらないから、適当にしてくれよ」
「何でそんな言い方するんですか!?」
「この件は話す気はねえよ。じゃあな」
そう言うと禅師は足早に去っていった。
これが禅師との最後の別れになるとは2人は思わなかった。
「僕、あの人に嫌われてますよね。やっぱり迷惑ですよね」
ポツリとポツリと晴明は下を向きながら言った、そんな晴明に対し朱夏は
「気にしないの!晴明君は私の弟子何だから誰にも何もさせないからさ、だから大丈夫だからね?」
「でも・・」
「とりあえず私の部屋で修行について話すから行こう」
晴明は禅師に嫌われていると思い意気消沈していた。
朱夏の手の暖かさは晴明の沈んだ気持ちが少しだけ上向きになった。
晴明と朱夏は手を握りながら、朱夏の部屋まで続く廊下を歩いていると
「朱夏嬢久々だねえー。うんうん元気そうで何より。そちらの方は誰かね?」
黒いシルクハットに黒いスーツ黒いステッキを持った、長身細身の男性がいたのだが酷くあやふやな存在。
ここに居るのに居ないような存在。
この男の目は怪しく、暗く、まるでこの世の闇の様な存在。
「げっ、帰ってきてたのね来須さん。私の弟子にちょっかいださないでよ!」
「クフフ。朱夏嬢も言うようになりましたねえー。うんうん弟子かあ、弟子ねえ?異質な力に見合わない器、これはこれは興味が尽きないねえー。研究したくなるねえー。クフフ君お名前は?」
来須の声色は晴明には酷く不快な音に聞こえた。
「神宮寺晴明です・・あの貴方は?」
晴明は絞り出した様に答えた。
「クフフ私はく、る、す。来須だよー。覚えてくれなくても良いけど、覚えてくれたら嬉しいねえー」
ニヤリと笑いステッキをクルクルと回す。
「朱夏嬢ー。彼凄く研究意欲をそそるねえー。彼をくれないかなあー?」
晴明を新しく見つけたおもちゃの様に、舐め回す様に観察する。
朱夏は庇うように晴明の前に立つ
「だめ!絶対に!貴方に選ばれた人皆んな皆んな帰ってきてないじゃない!」
来須は笑みを崩さないが、眼は笑っていない。
「クフフ面白い事を言うねえー朱夏嬢は。そのふざけた口を縫い付けてやりましょうかねえー」
「ーーーー来須さん少々おイタが過ぎますよ」
いつの間にか現れた爺に来須は表情を崩し舌打ちする。
「チッ。クフフまあ良いでしょー。また会いましょう晴明君、それと朱夏嬢あまりいらない事を話すとその口本当に縫い付けますから、お忘れなくねえー」
そう言うとその場から姿を消す。
「ーーーー晴明様お気をつけ下さい。あの者は異質、土御門の歪みの様な人間なので」
「爺!ありがとう!助かったよ」
「ーーーー朱夏様前にも忠告しましたが、あの者の挑発や口車に乗るのは危険なので辞めておきなさい。私がいなければ、あの者貴方の口を縫い付けていましたよ」
爺にきつめに指摘され顔をしかめる
「うっ、それはさ」
「ーーーー朱夏様貴女は弟子を持ったのです。何時迄もおてんばお嬢のままではいけませんよ?弟子である晴明様の為にも」
「はい。ごめんなさい」
朱夏がシュンとなり爺に謝罪していた。
「あっあの、ありがとうございます、その朱夏先生は僕を庇ってくれたんですよね?だからあの朱夏先生を怒らないでください、お願いします」
「ーーーーこれは、晴明様に一本取られましたな」
この時晴明の胸中には小さくだが、強くなりたいと言う気持ちが始めて芽生えた。
今までは芽生えなかった思い、護りたい人を護る為の力が欲しいと。
「晴明君!ありがとうね、私を庇ってくれて!私ももっとちゃんとしなきゃ。だから晴明君一緒に頑張っていこう」
朱夏に花の様な可愛い笑顔を向けられ、晴明は照れてしまう。
「ーーーーこれから朱夏様のお部屋に行かれるのですよね?ところで朱夏様お部屋の片付けはしたのですか?」
「あっ!?やばい!ちょっと先に行って片付けるから、爺その晴明君と一緒にゆっくり来てえええお願いいいい」
話している最中で猛烈なスピードを出し走り出す朱夏
「ーーーーでは晴明様、爺と一緒に歩いていきましょうか」
「はい。あの質問何ですけど、僕みたいな人でも強くなれますか?」
「ーーーー強さの種類によりますけど、強くなるには努力は必要でしょうな」
「家族や朱夏先生をあの、僕護りたいんです!だから少しでも、少しでも良いから強くなりたいんです」
下を向き自身の手をきつく握る晴明
「ーーーー強くなりたいなら、顔を上げなさい、前を向きなさい、下ばかり見ていたら、大切な者を見落としてしまいます。後ろを振り返らずにひたすら前を見て愚直に走りなさい」
爺の言葉が晴明の頭から身体の先まで響いていく
「ーーーー他人を大事に、自分を大事に、後悔の無き様に生きていくのです」
爺は微笑みながら晴明を見ている。
「ありがとうございます!僕やれるだけ、やってみます!」