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第零話 夢で逢えたら

少し先の未来

私は君に向こうの力を渡す、君は向こうで私に協力する。


共犯者と言っても良いだろう。


君は死んだ、そして世界を越えて別の世界へ行く。


君の世界で言う、ファンタジーな世界。


だがその世界は停滞している。


君に世界を動かす風になって欲しい。


君は君のやりたい様に生きてまた死ねばいい。


私は君が別の世界で何を成すかが見たい。


陰陽を彼女達から学んだ君がこの世界に何を齎らすかが見たい。


私と会うのはこれが最初で最後だろう。


さようなら愛しき異界の子


ありがとう、さようなら愛しき異界の神よ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


京都府 某所


僕の名前は神宮寺晴明(じんぐうじ、はるあき)

15歳今年の2月21日で16歳になる、京都市にある、県立学校の1年生だ。


僕は何をしても人並み以下、運動もダメ、勉強もダメ、努力をしても才能が無い、おまけに運も悪い。


名前を揶揄してからかわれる事もあった。

陰陽師が流行った時は最悪だった。


「ポンコツセイメイ~」


謎の札もどきをぶつけられたり、除霊しろと言われ墓場に置き去りにされたりもした。

墓場に置き去りされた時は泣いてしまった。

除霊何て出来るはずもないのに。

墓場で泣き喚く僕を発見した管理人さんにめちゃくちゃ怒られる始末。

何故か置き去りにした犯人達はお咎めなし。


僕はお化けや妖怪が怖いし苦手だ。

ホラー映画やホラーゲーム、お化け屋敷何て物は僕にとっては地獄と変わらない。

夜は部屋を真っ暗にしたら寝れないくらいのビビリストだ。


僕は今まで夢を見た事がない、正確には見ていても起きたら忘れてしまう。

そんな僕が高校に上がり、良く夢を見る様になった。

内容はいつも決まって同じ。


大きな大きな、赤い鳥居。

鳥居をくぐると大きな社がある。

白い玉砂利が敷き詰められている、綺麗な場所。

神聖な空間。

その場所に居ると嫌な事を忘れられる気がしてくる。

僕はいつも社の前に佇んでいる。

夢だからかはたまたこの空間のおかげか、立っていても疲れる事は無い。

社の中に入って見たいとは思うが、いつも入ろうとすると目が覚める。身体中にぐっしょりと寝汗をかいた状態で。


今日の夢はいつもと違った。

いつもの様に赤い鳥居をくぐると、見える筈の社も玉砂利も無い。


歌が聞こえてくる。


『通りゃんせ 通りゃんせ

ここはどこの 細通じゃ

天神さまの 細道じゃ

ちっと通して 下しゃんせ

御用のないもの 通しゃせぬ

この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります

行きはよいよい 帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ』


僕は恐怖し、自分の耳を塞ぐ、その場から逃げようとするが足が氷の様に固まり動かない。


歌が近づいてくる。


歌声がどんどんどんどん大きくなる。


僕は恐怖で頭がおかしくなりそうだった。


助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


『みぃつけぇたぁ』


不意に肩を掴まれる、僕は必死で目を瞑る


『こっちをみてよぉ』


『ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ』


僕は負けじと必死に目を瞑り耳を塞ぐ、目を開けたら終わり、必ず死んでしまう


「おや~?おや~?こんな所に古の悪鬼と童の組み合わせ~?珍しい~実に珍しい~童の僕~お困りの様かなあ」


その場に始めて聞く、綺麗な女性の声がする。耳を塞いでいる筈なのに、脳に直接響いてくるような、優しい声。


『邪魔をするな邪魔をするな邪魔をするな邪魔をするなああああああああああ!!もう少しでくぇる食える食える食える食える食える食える食える食える食える食える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰える喰えるのにいいいい!』


「葛の葉の名に置いて命ずる 《朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍 》悪鬼の穢れを祓い奉る」


葛の葉が呪を唱えると古の悪鬼は途端に苦しみだす


『ああああああああ!!くずのばあああ』


目を瞑っている筈なのに強烈な光を感じる。

やがて悪鬼の声や気配がなくなる。


「童の僕よもう怖いのはいない~よぉ~しよぉ~し~」


葛の葉に抱きしめられ、彼女の女性特有の柔らかさ、匂い、暖かさ、全てが僕を包み込み、僕の恐怖で縛られた心を優しく甘やかに溶かしていく。


僕は泣いて縋り付いた


怖かった、助からないと思った、殺されると思った、死を感じたと縋り付きながら言った。


「童は此処は来ては行けない場所よぉ~?入っては行けない断りから外れた場所」


僕は話した、何時もの夢と違う、同じ赤い鳥居だけど、いつもはもっと綺麗な場所に行くと


「おやあ~それは彼の子が眠る場所に誘われてぇ~間違えて此処に来てしまったのかしらあ~それともぉ~魔に魅入られたのかしらぁ」


僕は寝ただけだ、魔に魅入られるも何もあんな事はじめて何だと一生懸命伝える。


「おや~おや~?僕の魂を見せてねえ」


そう言って僕の胸に彼女の額を押し付ける。


「晴明ちゃん貴方は~不思議な子~彼の子と同じ名前を持ち同じ才を持つ~これから待ち受ける運命は~酷くう残酷かもしれな~い」


「だけど、私は~貴方の味方~、残酷な運命が来る前にぃ会えたのはぁ彼の子の導きぃかしらあ?貴方の~力の封印を解いてあげるう~」


力?封印?何のことか分からない。分からないけど葛の葉の身体から僕は離れない、離れられない。

離れたらまたあの恐怖が来る気がしたから。


「甘えん坊な晴明ちゃん、可愛い可愛い~我が子の忘れ形見。さてさて~。

葛の葉が命ずる 《朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍 》今封印を解放し力を解き放つ」


彼女の手が僕の胸を貫き、僕の中の何かを壊して行く。


次第に僕の意識は薄れて行く


「晴明ちゃんがあ~力を使うのは~いつか来る日まで~お預けえ~。今はゆっくりいゆっくりい母の胸で眠りなさぁい」


葛の葉に抱かれ僕は夢の中で意識を無くす。


「彼の子にもお話しが必要ねえ~」


晴明が居なくなった夢の世界で葛の葉はゆったりと歩く、これから晴明に待ち受ける酷く残酷な運命を偲びながら


「晴明ちゃんの未来に幸あれ~」


夢から覚めると、《くずのは》について調べる。

ネットで検索し、図書館にも赴いた。

嫌っていた、晴明神社にも赴き神主様と話をしたりもし、葛の葉が祀られている神社を見つけた。


あれ以来夢は見ていない。


会いたい、逢いたい、あの人に御礼がしたい。恋い焦がれるような、憧れのスターに会いたいような不思議な感覚。


家族に話をした、大阪に行きたいと。

彼が自発的に何かをしたいと言う事は稀で、家族も賛同してくれた。

週末に家族で大阪に行く事が決まった。


毎日の様に本読み、調べていた。

そして週末いよいよ、大阪に行ける日。

葛の葉が、祀られている神社に行ける日。

心は踊っていた。

早く早く行きたい。


大阪に行く車中で母に聞かれた。


「晴明は最近何を調べているの?」


「葛の葉に着いてだよ!怖い夢を見た時に助けてくれたんだ!凄く凄く綺麗な人で、凄く優しくて、凄く強くて!憧れてるんだ!」


母は困った顔をしていた。


「そうか、晴明を助けて貰ったなら俺からも応援しなきゃ行けないな」


運転しながら頭を掻く父、父は晴明の話を否定をしないどんな夢物語でもいつも優しく肯定してくれる。

晴明は父に憧れていた、人に優しく、誰からも好かれ正義感の強い父が大好きであった。


「そうね、晴明が助けて貰ったなら私からもちゃんと御礼をしなきゃね」


母は優しく笑いながら言った。母は時に厳しく、時に優しく、晴明が腐らないように晴明を支えてくれている。

晴明は母の芯の強さが大好きであった。

父とは違う、尊敬の念を母にいだいていた。


「昔はお母さんと結婚するって言ってたのに、葛の葉さんはよっぽど綺麗で優しい人なのね」


母に言われ晴明は照れて俯いてしまう。


「からかわないでよ!助けてくれた日以来夢に出て来てくれないからせめて祀られている神社で御礼がしたいだけだよ!」


「はっはっは晴明もちゃんと男って事だなあ」


父は笑って言った。


「もう!」


晴明は拗ねて、持ってきた本に目を落とす。

葛の葉を描かれた絵はどれも晴明の興味を引かなかった。

晴明が見た葛の葉とは似ていなかったからだ。


「葛の葉って人は安倍晴明のお母さんだろ?確か狐の妖怪って話じゃなかったか?」


「やめてよ!葛の葉さんを妖怪何て言わないで!いくらお父さんでも怒るよ!」


「悪い悪い、悪気は無いんだよ。おっとそろそろ着くぞ、晴明外を見てみろ」


「信太森葛葉稲荷神社、凄いわね。狛犬さんじゃなくお狐様が鳥居の前にいるのね」


車を駐車スペースに停めて直ぐに、晴明は家族の制止も気がずに走り出した。


石碑を見ると


『恋しくは訪ね来て見よ和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉』


それを読むと、自然と涙が出てくる。

何故かは分からない。胸の奥かズキンと傷む。


鳥居が連なる場所を潜り抜けると社がある。

夢で見たような大きな社ではない、シンプルな作りの社。

社の中に何かを感じる。暖かな何かを感じる。

社の中に手を伸ばそうとしてしまう。


「やめて置きなさい、貴方は彼女に導かれたのか魅入られたのかはわからないが社を開けてはいけないよ?」


晴明を止めたのは神主さんだった。


「未だ人々を魅了する、葛の葉様はとてもお力のある方のようだ」


晴明は慌てて頭を下げる。


「ごっごめんなさい、あの僕その」


「良いんですよ、間違いは誰にでもあります。特に貴方は彼女に惹かれているようだしね」


神主さんは朗らかに笑いながら言った。

晴明は葛の葉に助けられた事、御礼を言いたくて来た事を神主に告げる。


「そうか、彼女に逢い助けられたのか。貴方の名前を伺っても?」


「神宮寺晴明と言いますすみません、僕名乗りもせずに」


「晴明君失礼だが、漢字はどう書くのかな?」


「晴れるに明るいで晴明と書きます」


「成る程成る程、きっと君は縁があるかもしれないね。ほら、お母さんとお父さんが心配しているよ?」


父と母が晴明を見つけ駆け寄ってくる。


「晴明急に走り出して一人で行ったらだめじゃないか」


「すみません、うちの息子が何かご迷惑をおかけしませんでしたか?」


「いえいえ、彼晴明君はとても信心深い様ですね。得難い事ですよ。最近の子にしては珍しいので少しお話しをした次第ですよ、晴明君姿見の井戸や白狐化身の木を見てくると良い、君なら何か感じる物があるやも知れないよ」


「ありがとうございます!行っても良い?」


「ああ行っておいで、今度は走らない様にな?」


「うん!」


僕は急ぎ足で向かう。


「お父様、お母様少しお話しをしても?」


「はっはあ。私どもは大丈夫ですよ」


「晴明君は昔から陰陽師や安倍晴明や葛の葉に対して昔から興味があったのですかな?」


「いえ、無いよな母さん?」


「はい、あの子は凄く怖がりなので昔からそういう類のものには関わったりはしなかったはずです」


「そうですか。晴明君、葛の葉様が残した歌を見て涙を流し、社の中に祀られている。御霊石や白狐石に興味を強く抱いていた様なので」


「あの晴明は大丈夫なんでしょうか、あの子が自発的にここに来たいと、夢で助けられた御礼が言いたいと言っていたので連れて来たのですが」


「ふむ。では此方の連絡先をお渡ししておきましょう。

私からの紹介と言って頂ければ直ぐに話が通じる様にしておきますので。」


「すみません、ありがとうございます。」


二人は神主に御礼を言い、晴明の元へ向かう。


晴明は白狐化身の木に拝んでいる。


「ありがとうございました、また夢で会えたら嬉しいです」


神社を後にし、家族で大阪観光をし帰路に着く車の中で晴明は眠ってしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「晴明ちゃんや晴明やちゃんや」


柔らかな声がする。待ち望んだ葛の葉の声だ。


「あっああ!葛の葉さんの声だ!葛の葉さんの声だ!」


感極まり晴明は大声を出す。


「今でえ、逢いに行けずごめんねえ~。彼の子と話をしていたからねえ~」


ふわりと笑い、晴明を抱き締める。


「こないだは、助けてくれてありがとうございます!僕御礼が言えなくて!」


「良いの~良いの~。気にしないでえ。晴明ちゃん貴方に伝えなきゃいけないのお。もう貴方には会えないのお~。貴方と私のお時間は違うからあ、関わり過ぎると良くないのよお」


困った様に言う葛の葉に僕は駄々をこねる


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


「あらあらあ~困った子ね、晴明ちゃんじゃあ貴方に私の神紋をあげるわあ。特別よ~彼の子にも内緒~」


「しんもん?」


「そうよお~私との~家族の証い~何処にいてもどの世界にいても~晴明ちゃんと私は~家族よお、だから泣かないでえ」


背中がじんわりと暖かくなる。


「晴明ちゃん良く聞きなさい~これから本当に本当に大変な運命が来るわあ~。私は助けてあげられないのお。負けないでねえ。強くなるのよお」


夢から覚めると、僕はまた泣いていた。

母が心配し僕を抱き締める。


「大丈夫?晴明?」


「うん、うん。大丈夫。大丈夫」


晴明は酷く震えていた。


「家に着いたら暖かい物でも飲もう。」


家に着き晴明はココアを飲み、お風呂に入る。


「母さん、晴明の背中に今日神社で見たような模様があった。今日頂いた番号に電話をしよう。晴明にあんな痣はなかった。車の中でも酷く震えていた。何もないならそれでも良いだけど私達は専門家ではない。専門家に相談しよう」


「そう、そうね、それが良いわ。」


「もしもし、あの葛葉稲荷神社から紹介された神宮寺なのですが」


『あー、葛の葉に魅入られちゃってるかもって子供の親御さんかな?話は聞いてるよ、何かあったのかい?』


電話に出た男性の声は低く嗄れていた。


「はい、実は息子の背中に神社で見たような模様がありまして」


『それはいつからだ?』


男性の声からも緊張感が伝わってくる。


「帰って晴明がお風呂に入る時に背中を見たらありました!晴明は晴明は大丈夫何ですか!?」


『直ぐに行く。いいか?息子には気取らすな。私達が行くまで痣の話もするな』


「はい、分かりました。うちの住所は京都府京都市の」


『わかった。近付いたらこの番号に電話をする』


ぷつりと通話が切れる。

父と母は何とかいつも通りに晴明に接した。

息子を痣に気付かせない様に。

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