第1章 はじまり
あるところに魔法の国があった。
そこで生まれた子供たちは大きくなるとみんなだれでも魔法を一つ使うことができるようになるのだった。
空を飛ぶ魔法、光り輝く魔法、体を癒す魔法。だれもがそれぞれに自分が持っている魔法を使って生活をしていたのだった。
その国に、ある男の子が生まれた。
その子は賢く、他の子よりも早く文字が読み書きできたりした。運動も上手で、足は速く、石つぶてを遠くの的に当てられたりもした。
しかし、なかなか魔法の力があらわれてこなかった。
お父さんもお母さんも、その男の子に精いっぱいの愛情を注いで生活してきたが、いつまでたっても、その男の子は魔法を使うことができなかった。
その男の子が10歳になったときには
もう村のだいぶ年下の子供たちも自分たちの魔法が使えるようになっていた。近所の子供たちは「お兄ちゃんまだ魔法が使えないの?」、「早く使えるようになったらいいのにね」などと口々(くちぐち)に言われてしまうのだった。
ある時、そんな男の子のことがお城の王様の耳にも噂として届いてしまった。折しも、王様に仕えていた予言魔法を使える家来が、ここ10年のうちに、魔王がこの魔法の国を脅かすのだ、という恐ろしい予言を王様に伝えていたのだ。
王様は、これまで聞いたこともないような、考えられもしなかった、魔法を使えない子供の噂を聞き、それが、何か、この平和で豊かな魔法の国を脅かす、魔王につながっているように思われてならなかった。
王様は、とても不安になり、側近の家来たちと相談した。そして、王様は、その男の子の父母と、彼らが住む村に対し、次のように命令を出した。
「この国で魔法が使えなかった者はいない。
魔法の使えない男の子が10歳になるまでに
魔法を使うことができなければ
それは邪悪なものの手先になるに相違ない。
その男の子は、この魔法の国を守るため
魔法の国から追放してしまうことにする。
この命令に従わなかった者は、
だれでもみな牢屋に入れてしまうぞ。」
その男の子の父母も、男の子も、この命令を聞いて、とても悲しんだ。そんなひどい話があるのかと嘆いた。村の人たちも、そんな家族を見て、かわいそうに思ったが、王様の命令には逆らえない。家族も村人たちは、どうにか男の子が12歳になるまでに、魔法を使うことができるようになってほしい、と祈るばかりだった。
けっきょく、男の子は、10歳の誕生日が来ても、魔法を使うことができなかった。まもなく、お城から兵隊たちがやってきて、男の子の住む家に来た。お父さんもお母さんもどうにか息子を家に置いてもらえるように頼んだが、王様に逆らったという理由で、二人とも牢屋に入れられてしまった。
そして、男の子は3人の兵隊に連れられて魔法の国の国境まで行った。そして、男の子はそこから人間の国へ追放されてしまったのだ。