道の先には
しばらく進むと、鷲の言っていた意味がわかりました。
鷲は、「行き止まりだった」「抜け穴があった」と話していましたが、そんなものはありません。あったのは、木の枝が絡まってできたトンネルです。しかも、それは抜け穴と呼べるほど小さなものではなかったのです。大人ならば少し腰を曲げないと通れなさそうですが、レナちゃんぐらいなら悠々と大手を振って通れるほどの広さはあります。
なんなくトンネルの中に入れたことに、鷲が一番驚いているようでした。何歩かトンネルの中を進んだ時、
「そうか。今は、レナちゃんの肩に乗っているからだ」
と、鷲が叫びました。鷲は気づいたのです。飛行中、目の前に壁が現れたと感じたのも、その下に抜け穴があると思ったのも、人よりも遥かに高い視点で見ていたからです。実際は、木の枝が絡まり合って作られたトンネルなのでした。
「わあ、この中だと、雨も風もあまり入ってこないね」
レナちゃんがはしゃいで言います。
「本当だ。ねえ、どうだろう? ここでひと休みといかないかい?」
トンネルに入って喜んでいるレナちゃんを見て、にこにこ顔の亀がそう提案します。朗らかな空気の漂う中、鷲だけは眉間にしわを寄せながら言いました。
「おいおい、休んでいる場合か? 雨も風も、これからもっともっと強くなるのだぞ」
「そんなことがわかるの?」
レナちゃんが尋ねると、
「空の王者たるワシの勘を侮ってはいかん」
と、鼻息も荒く鷲が言うので、レナちゃんはトンネルの中を歩き続けました。
トンネルを抜ける手前、レナちゃんは立ち止まると、すうっと空気を吸い込みます。そして、
「いくよ!」
ひとつ気合いを入れると、大きく一歩を踏み出したのです。その途端、激しい風雨が再びレナちゃんを襲います。
「…もう、いやぁ…」
先ほどと同じように泣きべそをかきはじめた時、鷲がとんとんとレナちゃんの肩を叩いて言いました。
「レナちゃん、ワシらがついてる」
亀も続いて言います。
「おいらたちが、必ずレナちゃんをおうちまで連れて行ってあげるよ」
実際に鷲と亀を連れて歩いているのはレナちゃんなのです。けれども、ふたりの言葉に、レナちゃんはとても救われました。レナちゃんが今しがた発した言葉は、状況がまったくよくならないことに対しての泣きごとでしたが、実はそうではなかったのです。
「だいじょうぶ。だって、レナちゃんには、ワシさんとカメさんがついてるもの」
そう言うと、レナちゃんは力強い一歩を踏み出します。その姿には、先ほどまでうずくまって泣いていた女の子の面影は見られません。一歩、また一歩、さらに一歩と、着実に前へ進んでいきます。
突風が、レナちゃんから赤い傘をもぎ取ってしまいました。レナちゃんの肩の上では、遮るものをなくした鷲が風雨に耐えています。レナちゃんは、傘を持っていた手に鷲を乗せると、亀と同じように胸に抱え込みました。
「レナちゃん…」
亀が心配そうにつぶやきます。
「もう少しの辛抱だぞ、レナちゃん」
なにも根拠はありません。ただ、この道の先にレナちゃんの家があって欲しいとの願いを込めて、鷲は言いました。その願いが通じたのか、激しい雨の向こうに一軒の民家が見えてきたのです。