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レナちゃんとやさしい動物たち  作者: 高山 由宇
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右か左か

「さて、早速だが」

 先陣を切って話し出したのは鷲でした。

「マリちゃんの家に行く時にも、この河原を通ったのか?」

「うん」

「今はどちらから歩いてきたんだ?」

「あっち」

 レナちゃんは、後ろを指さして答えます。

「とすると、レナちゃんの家はこちらの方角ということだな」

 鷲は、前方を見据えて言いました。

「一歩前進だね」

 亀は、レナちゃんに笑いかけます。レナちゃんも少しだけ安心したのか、亀と一緒ににこにこ笑っています。そんな和やかなふたりに、

「なにが一歩前進だ。レナちゃんの家の方角が少しわかっただけで、ここにしゃがみ込んでいたってなにも解決しないだろうが」

と、鷲が苛立ちながら言い放ちました。

「ほら、レナちゃん、立ちな。とりあえず、この河原を抜けようぜ」

 鷲の言うことももっともだと思ったのか、レナちゃんは立ち上がりました。左手には亀を抱え、左肩には鷲を乗せ、折れ曲がった赤い傘を右手で差しながら、強風に煽られながらも一歩一歩と河原を進んでいきます。そして、ついに河原を抜けたと思った矢先のこと、次に待ち構えていたのはふたつの分かれ道でした。

「どちらだろう? レナちゃん、わかるかい?」

 亀の問いかけに、レナちゃんは不安の表情を浮かべます。

「なあ、レナちゃん。家から歌を歌いながらきたと言ったな? 何曲目でここまできたんだ?」

「えっと、最初のお歌がおわってね、ふたつ目をうたいはじめたときぐらいかな」

「なんだ、もう目と鼻の先の距離じゃないか」

「え…?」

「レナちゃんの家にはもうすぐ辿り着けるって言ったんだよ。だから、まあ、そうしょげるもんじゃないよ」

 そんな鷲を見て、亀がほろりと涙を流しました。

「ワシくん、きみったら、実はいい鷲だったんだね。口は悪いけれど、ただ悪ぶっているだけだったんだね」

「悪ぶってなどいないさ。というか、亀よ。ワシがお前を喰らおうとしていたことを、もう忘れたのか?」

「まさか。あんな恐ろしい体験、忘れられるはずがないよ。ただね、おいらも考えたのさ。ワシくんの言うように、おいらも生きるためにミミズやザリガニを喰べているんだ。だから、ワシくんがおいらを喰べようとしたことを、おいらは責めることはできないんじゃないかな」

「ほお。なら、レナちゃんを家に送り届けたら、お前はワシに喰らわれてくれると…そういうことか?」

「どうしてそうなるんだい? そんなのは絶対に嫌だよ」

「ねえ、ワシさん。もしかして、おなかがすいているの?」

 レナちゃんが尋ねると、鷲は少しばかり照れたように顔を背けながら、こくりとうなずいて見せました。

「そうなんだあ。なら、おうちに帰ったら、ごはんをあげるね」

「なに? 本当か?」

「うん」

「ねえねえ、レナちゃん…」

 亀がおずおずと声をかけます。

「カメさんにもあげるよ」

 鷲も亀も大喜びです。

「なら、とっとと道を探すか」

 鷲が気合いたっぷりに言います。

「ワシは、左の道だと思うがな」

「いや、左はやめたほうがいいと思う」

 鷲の考えに、真っ向から異を唱えたのは亀でした。

「なぜ違うと思うのだ?」

「おいらは、左の道を通って河原に辿り着いたのだよ」

「ほお。それで、どうだった?」

「とっても恐ろしい目にあったんだ。ワシくんに追いかけ回されるのとはまた違った恐ろしさだよ」

「どんな恐ろしさだ?」

「左の道を進むと、それはそれは大きな屋敷が見えてくるのだが、なにかがおかしいのだよ」

「おかしい?」

「その屋敷には大きな門がある。それが、鋭いトゲを湛えたツタでぐるぐるに覆われているのだ。屋敷全体が灰色で、そのあたりだけ異様に重苦しい空気が立ち込めていた。そして、風がびょうと吹いてきた時、屋敷の中からは大男が現れたのだ。大男はおいらを見つけると、手にした大きなノコギリを構えたのだよ。おいらは、もう恐ろしくて恐ろしくて、夢中で逃げたさ。そうして、この河原に辿り着いたというわけなのだ」

 ひと息に話す亀を見て、レナちゃんと鷲は首を傾げます。

「おいおい、カメよ。そんな、ホラー映画に出てきそうな館が、こんな田舎町にあるとは思えないんだがなあ」

 鷲の言葉に、その情景を思い出したのか亀は身震いして言いました。

「おいらは、右の道だと思うね」

 その意見に今度は鷲が、異を唱えるように首をふります。

「いや、右の道はやめたほうがいいだろう」

「どうしてだい?」

「行き止まりなのさ」

「行き止まり?」

「下のほうには抜け穴らしいものが見えるが、どこに繋がっているかわからないものに入る気にはならない」

「抜け穴か。レナちゃん、抜け穴を通ってきたのかい?」

 亀に尋ねられ、レナちゃんはふるふると首をふって答えました。

「レナちゃん、穴なんか通ってきてないよ」

「やはり、左の道じゃないか?」

 鷲の言葉に、亀は盛大に首をふります。

「右の道を行こうよ。穴があるなら、この雨や風から身を守れるのではないかな」

「それは、根本的になんの解決にもなっていないと思うがな」

 鷲と亀の話を聞きながら考えていたレナちゃんですが、

「カメさんがそんなにいやがるなら、いいわ。右の道をいきましょう」

と、にこりと笑うので、亀も安心したように笑いました。そうして、一同は右の道を行くことになったのです。

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