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レナちゃんとやさしい動物たち  作者: 高山 由宇
5/9

レナちゃんの事情

「そういうわけだから…ねえ、ワシくん。ただの迷子と言って捨てるのは、少し冷たいのじゃないかな。レナちゃんにとっては、これは大問題だよ」

「むう。まあ、そうかもしれん」

「さあ、レナちゃん。話してごらん。どうして迷子になってしまったんだい? お父さんやお母さんと離れてしまったのかい?」

「そもそも、こんな嵐の日になぜ出歩いていたのだ?」

 亀と鷲が口々に尋ねます。亀はもちろんのこと、口は悪いですが、鷲もまたレナちゃんのことを心配しているようでした。

「レナちゃんね、今日はマリちゃんのおうちに泊まるはずだったの」

「マリちゃんというのは、お友達かい?」

 亀の問に、レナちゃんは無言でうなずきます。

「マリちゃんね、レナちゃんととってもなかよしなのよ。それでね、昨日からマリちゃんのおうちにあそびにいっていたの。ほんとはね、今日の朝にはお迎えにきてくれるはずだったのよ。でも、これなくなったんだって。電話があったの」

 話しているうちにも、一度は引いた涙がまたも溢れ落ちようと、レナちゃんの瞳の中でゆらゆらと揺れています。

「レナちゃんは、お泊りするのは初めてだったのかい?」

 亀が優しく尋ねると、レナちゃんはこくりとうなずきました。

「昨日は、頑張ってお泊りできたのだね?」

「一日だけのはずだったから…」

「レナちゃんのお父さんかお母さんに、今日も泊まってくるようにと言われたのかい?」

「うん。今日は午後から嵐がくるからって…」

「それはアタリだな。ごらんの通りのお天気だ」

 鷲は、傘の下から、どんよりとした空を仰ぎながらつぶやきます。

「もう一日だなんて、むりぃ…っ」

「それで、マリちゃんとやらの家を出てきてしまったのかい? こんな嵐の中をさ」

 呆れたように言う鷲に、

「ちがうよ」

 レナちゃんは、ふるふると首をふります。

「レナちゃんがマリちゃんのおうちを出た時はね、まだぱらぱら雨だったのよ」

「だが、風はかなり吹いていただろう?」

「そよそよ風しかふいてなかったわ」

「うん? 雨はついさっきまで小雨だったが、風はだいぶ前から強かったと思うが。マリちゃんの家は、そんなに遠いのか?」

「昨日、おとうさんと一緒にいったときはね、お歌をみっつうたうあいだに着いちゃった」

「歩いて行ったのかい?」

「うん」

「なんだ、近いじゃないか。お歌って、まさか演歌とかじゃないだろうなあ? それなら、一曲あたりが長そうだが…」

「ワシくん、ワシくん。さすがに、演歌はないのじゃないかなあ」

 ふたりの会話を聞いていた亀が、横から口を挟んで言いました。鷲と亀を交互に見つめながら、レナちゃんはきょとんとした表情をしています。

「だからさ、つまり、迷子なのじゃないかい? レナちゃんが、さっきそう言っていたじゃないか」

「ふうむ、そうか。そいつは弱ったな」

「ねえ、レナちゃん。もう泣かなくていいよ。おいらたちがさ、レナちゃんのおうちまで送って行ってあげるよ」

 亀の言葉に驚いたのは鷲です。

「ちょっと待て、カメよ。おいらたちというのは、まさかワシのことも含まれているのではないだろうな?」

「もちろん含んでいるとも」

 亀はこともなげに言い放ちました。

「なにを勝手なことを…」

「だって、レナちゃんはおいらの命の恩人だもの」

「それはお前の話だろう」

「それなら、ワシくん。きみが今、羽を休めている傘はいったい誰のものだい?」

「……」

「レナちゃんは、おいらにとってもワシくんにとっても大恩人なのだから。なんとか力になってあげようじゃないか」

 亀の言葉にしばらく考えていたらしい鷲ですが、ひとつ深いため息をつくと、こくりとうなずいて言いました。

「いいだろう。いろいろ考えたが、ワシも今ここで傘を取り上げられたら困る」

「よかったね、レナちゃん」

 亀が見上げると、レナちゃんはにこりと笑って、

「うん!」

と、元気いっぱいにうなずくのでした。

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