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レナちゃんとやさしい動物たち  作者: 高山 由宇
4/9

鶴は千年亀は万年

 傘の下で鷲がぶるぶると身をふるたびに、水滴が飛んで女の子の顔を濡らしました。

「わっぷ。ちょっと、やめてよ」

 鷲から顔を背けた時、亀がひとり、滝のような雨に打たれている姿が目に入りました。

「ねえねえ、カメさん。カメさんもこっちにおいでよ」

 しかし、亀はその場を動こうとしません。

「ワシさんも、いまはもうなにもしないよ。ね?」

 傍らの鷲に尋ねますが、鷲はすまし顔のまま、うんともすんとも言いません。そんな鷲の態度に、女の子は見る見る頬を膨らませて言います。

「そんないじわるするなら、レナちゃんのカサかしてあげない!」

 女の子は、「レナちゃん」と言うらしいのです。

 レナちゃんのこのひとことには、さすがの空の王者にも焦りの色がうかがえました。

「まあ、待ちなよ、レナちゃん。うん、わかった。ここはひとつ、取り引きといこうじゃないか。ワシはもう、あの亀のことは諦める。少なくとも、今日はもうあの亀を追い回さないと誓おう」

「今日だけ?」

「それはそうだ。ワシとて、他の生物を喰らわねば死んでしまうのだ。それで勘弁しておくれ」

 鷲は、よほど傘から追い出されたくないようでした。

「カメさん、今日だけだけど、もうワシさんはカメさんにひどいことしないよ。だからおいで」

 レナちゃんが呼ぶと、亀は甲羅から頭と手足を出しました。そして、小さな目をこちらに向けると、のそりのそりとした足取りで歩み寄ってきます。

 しゃがんでいるレナちゃんの膝元にきた時、レナちゃんは怯えている亀を抱き上げて胸元に抱え込むようにしました。すると、亀はいくらか落ち着いたようで、安らいだ表情を浮かべるのでした。

 しばらくそうしていると、雨足がわずかに弱まりました。ですが、滝のように降り続けていることには変わりありません。傘から断続的に滴り落ちる雨粒を眺めながら、

「そういえば、レナちゃんとやら。あんたみたいなお子様が、なんだってこんな日にこんな所にいるのかね?」

と、鷲が尋ねました。すると、レナちゃんの大きな瞳にはみるみる水溜りができ、ひとつ瞬きをすると、それは堰を切ったように溢れ出したのです。

「レナちゃん…」

 亀が心配そうにレナちゃんを見上げます。

「おいおい、レナちゃんよ。いったいどうしたって言うんだい?」

 鷲も、大粒の涙を流すレナちゃんが心配になりました。

「レナちゃん…レナちゃんね…」

 レナちゃんは、しゃっくりを繰り返しながらも懸命に言葉を紡ごうとします。

「レナちゃん、迷子なの…っ」

 言い切った途端にわあっと盛大に泣き出したレナちゃんを見て、鷲は、

「なんだ。ただの迷子かよ」

と、ため息混じりに言うので、レナちゃんはさらに激しく泣き出してしまいました。

「…ワシくん」

 亀の言葉に、鷲は亀をぎろりと睨みつけます。

「おい、カメ。お前は今なんと言った? ワシのことを、ワシくんだと?」

 亀は一瞬ぶるりと震えたようでしたが、レナちゃんに守られているので先ほどよりもいくらかは強気に言い返しました。

「言ったとも。なんたって、おいらはワシくんよりもずっと長く生きているのだからね。『鶴は千年亀は万年』という言葉を聞いたことがないかい?」

「亀が万年だと? 嘘をつけ。そんなに生きられるヤツなどいるものか」

「それはそうさ。万年というのは長寿を表すただの例えだけれどね、それでも亀は百年や二百年ぐらい生きるものなのさ」

「…百年…それは、凄いな」

 驚いている鷲を見て、亀は鷲に気づかれないようににやりと笑いました。

 亀の言ったことは、半分が本当でもう半分は間違いです。確かに、ゾウガメのような大きな亀の寿命は百年以上と言われます。ですが、今、レナちゃんの胸に身を寄せている亀はミドリガメ…その寿命は三十年ほどなのです。オオワシと呼ばれる彼と同じぐらいかわずかに長いぐらいの寿命しかないのですが、亀はあえてそれを口にすることはありませんでした。

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