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レナちゃんとやさしい動物たち  作者: 高山 由宇
3/9

空の王者の天敵

 鷲は、驚いたようにこちらにその鋭い眼差しを向けています。けれども、女の子は少しも怖いとは思いませんでした。それよりも、こんなにも腹の底から声を出したことはいまだかつてなく、そのことに彼女自身が驚いていたのです。

 鷲は女の子を一瞥したのち、またも岩の上空を羽ばたきながら狙いを定めます。

「やめてったら!」

 女の子はまたも叫びました。

「どうして、その子を落とそうとするの?」

「お前こそ、なんだって止めるのだ?」

 鷲が、ぎろりとこちらを睨みつけながら言います。

「その子、さっきから助けてっていってるじゃない」

「それがなんだ? お前たち人間は知らないだろうが、自然界には共通の掟があるのだ。弱肉強食というやつさ。捕まるヤツが愚かなのだ」

「あなたは、その子をどうするつもりなの?」

「この亀は、硬い甲羅に隠れて身を守る。だから、あの岩に打ちつけて甲羅を割ってしまおうと言うのだ」

「そして、どうするの?」

「中身を引きずり出して喰うのよ」

「え…たべちゃうの?」

「そうさ」

「そんな…やめてよ。かわいそうだよ」

「なにが可哀想なものか。こいつらだってミミズを喰らう。ザリガニだって喰らう。他の生き物を喰らって生きているのだぞ」

「あなたもだれかにたべられちゃうことがあるの?」

「ワシは空の王者だぞ」

「なら、あなたはたべられることなんてないんじゃない」

「それは、ない。だが、ワシらにも天敵はいる」

「てんてき…?」

「ワシらを追いつめる者のことだ。それはな、お前たち人間よ」

「え…」

「ワシらは生きるために他の生物を喰らう。だが、お前たち人間は、娯楽のためにワシらを殺すではないか。鷹狩りなどと称して、これまでに一体どれほどの兄弟たちが犠牲になったことか」

「そんな…そんなの知らない」

「お前が知らなくても事実はそうなのだ」

 話は終わりとばかりに、鷲は亀を岩に叩きつけようと高度を上げていきました。

「やめてくれっ」

 それまでふたりの様子をうかがっていた亀ですが、いよいよ叩き落とされると思ったのか、鉤爪の下で哀れな声をあげています。

「なにをいっているのかわからないよ。でも、やめて」

 鷲は、さらに高度を上げます。

「もう…やめてったら!」

 ひときわ大きな声で叫んだ時、ごろごろどっしゃんと、閃光を放ちながらカミナリさまがご降臨されました。その直後、今までとは打って変わり、視界が霞むほどの豪雨に襲われたのです。

「こりゃたまらん」

 鷲は、やむなく河原に降り立ち、亀を解放しました。ほっとひと息ついている亀を横目に、女の子の持つ壊れた傘の中へと身を寄せながら言います。

「ワシの天敵はもうひとつあった。こんな雨の中では、空の王者も形無しだよ」

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