「たすけて!」
「ねえ、どこにいるのっ?」
大声を出したつもりでしたが、風にそのほとんどを奪われてしまいました。切なさが女の子の胸をしめつけます。鼻の奥がつんとして、一度は引っ込んだ涙が目尻に浮かび雫となって溢れ出しました。ついには、声をあげて泣き出そうとしたその時、
「や、やめてくれっ!」
と、はっきりと聞こえたのです。希望にうつむいていた顔を上げたのも束の間、一羽の大きな鷲が女の子に迫ってきました。
声も出せずに呆然とする女の子には目もくれず、鷲は一目散になにかを追っていきます。岩の陰に身を屈めたと思った刹那、鷲はすぐさま飛び立ちました。
「うわあ! たすけてっ」
女の子は、辺りをきょろきょろと見渡しますが、誰もいません。そこで、飛び立った鷲の姿を探しました。上空で羽ばたく鷲の鉤爪が、黒っぽいなにかを捕えています。
―石かな…?
初めはそう思って見ていたのですが、よく見ると、石のような塊の中から手や足のようなものがちらりとのぞいているのです。それがばたばたと動くのに呼応するかのように、
「たすけてくれぃ」
と、声があがるのでした。
鷲は、大きな岩の上でばさばさと羽を動かしています。まるで、なにかのタイミングを見計らってでもいるかのようでした。女の子は直感します。
―あの子を落とす気だ…!
「やめてっ!」
女の子は鷲に向かって叫びました。