第九話 スッカラン村に行こう
ユニオはさっきから、じっと目を凝らして、あたりの水面を見まわしています。
ツキヨも波がおさまるのを待ってから、立ち上がって遠くの流れや、岸辺の川沿いをくまなく見わたしました。
けれど、ケラの姿はどこにも見あたりませんでした。
「ひょっとすると、一人でスッカラン村に行ったんじゃないか。」
ウタオの舟に乗ったムスビが、大声でみんなに言いました。
みんな夢中でケラを探していたので、すっかり忘れていたのですが、彼らが目指していたスッカラン村は、もうすぐそこだったのです。
そこで、小人たちは、ひとまずスッカラン村に行ってみることにして、岸辺の水際に敷きつめられたウキクサをかきわけて、チドメグサの丸く柔らかな葉の茂った草むらの奥に舟をこぎ着けました。
河原の縁の土手下に、一本の若いひょろ長のクヌギが立っているのが、草むらの葉っぱをすかして小人たちに見えました。
あのクヌギは、アンチャン村の大クヌギのどんぐりから育った子供で、スッカラン村がある場所の目印でもありました。
ケラ以外の小人たちは、川下りをして、この村に来た事が何度かあったので、歓迎のご馳走がどんなに美味しいかや、お返しの、ポロンや歌や踊りの披露がどんなに面白いかを、ケラにも話していました。だから、その話をケラが思い出したなら、スッカラン村の場所も、だいたい見当が付くはずでした。
ところが、小人たちは、草むらをだんだん進んで行くうちに、ケラがスッカラン村にたどり着くなんて、どうしたって無理じゃないか、と思うようになりました。
それはなぜか、というと、あの色とりどりの草花でいっぱいで、秋の収穫だって、きのこや木の実や、村人総出でも集めきれないくらい集まった、すてきな楽しい河原が、ずぅっと先の先まで、赤いレンガで真っ平らに敷き詰められて、まるで、干からび切った砂漠みたいな、さびしい景色に変えられてしまっていたからです。
クヌギの木の横には、二本の鉄柱で大きな看板が立ててあって、そこには、『大自然のさわやか散歩道』と書いてありました。
小人たちには、人間の文字が読めませんでしたから、もちろん、その看板に何と書いてあるのかも、分からなかったのですが、でも、もし、私が仮に小人たちに、それを読んで聞かせて、意味を教えてあげたとしても、ぜったいに納得してくれなかったでしょう。
つづく