第六話 ケラが見つけたナイナ
間もなく、ケラはてっぺんまで登りきると、さらにその上に積み上げられた、お椀をさかさにした形の、まっ黒な大岩を見上げました。ケラは、「ナイナはここになさそうだから、きっとここにあるんだな。」と、自分に言い聞かせるように言うと、その大岩のふちに沿って、ひとまず一周歩いてみる事にしました。
しばらく行くと、大岩の端が、足場の崖っぷちよりも外にせり出していて、行き止まりになっているところがありました。でも、ケラは、大岩の下にわずかなすき間を見つけると、そこを腹ばいになって、身体をくねくねくねらせながら、上手にくぐり抜けて行きました。すると、その先に、少し開けた場所があって、そこの大岩の壁には、雨風もしのげそうな深くて大きなほら穴が、一つ開いていました。
ケラはそのほら穴の中をのぞき込んで、なんだかわけのわからないキーキー声で叫びました。
なぜって、ほら穴の奥には、色々な種類の枯葉が、きれいな形のまま、たくさん入っていたからです。
無人島に取り残された小人たちにとって、これ以上に素敵な光景が、他にあるでしょうか。
ケラはさっきの絶壁に大急ぎでとって返すと、崖下で石ころにもたれて休んでいたユニオを見おろして、さかんに手まねきしながら言いました。
「よりどりみどりの舟があるよ!」
こういう時、私は、からだが小さいという事は、本当に素晴らしい事だな、と、思うのです。
なぜなら、私たち人間が、もし岩だらけの無人島に取り残されたとしても、こんなふうに、岩のくぼみに、よりどりみどりの舟が置いてある、なんてことは、めったに、あることではありませんからね。
だから、ユニオもすっかりよろこんで、勢いよく崖をのぼろうとしたのですが、一二足のぼったところで、たちまちずり落ちてしまって、てっぺんまでたどり着くなんて、どうしても無理そうでした。
そこで、ユニオはケラに、手振りを交えて、「そこで待ってなよ。」と言うと、もどかしそうに足踏みをしてから、いっさんに山を下って行きました。
ふもとの岸辺では、ムスビがあいかわらず、そっぽを向いて寝転んでいましたが、すぐそばには、探検から戻ったウタオとツキヨも、ひざをかかえて、腰を下ろしていました。
そこへ、よたよたとユニオが駆けて来たので、ツキヨが立ち上がって言いました。
「私たちの方は、途中で行き止まりになっちゃったのよ。」
「君たちの方は、何かあったかい?」
ウタオが聞くと、ユニオは、荒い呼吸の合い間から、
「舟が、あった。」
と答えました。
「そりゃすごい!」
ウタオはムスビを揺さぶると、耳元で、「舟があったぞ!」と大声で教えました。
ムスビは半分目を開けて、
「おれも今、舟を見つけるところだったさ。」
と寝言のように言いました。
「夢の話じゃないよ。ユニオが見つけたのよ。」
ツキヨがムスビの手を引いて、座らせてから言ったので、ユニオはあわてて頭を振ると、
「ケラだよ。」
と小声で訂正しました。
ムスビが大あくびをして腰を上げたので、小人たちは、そろってユニオが下りて来た道をたどり、間もなく、さっきの絶壁の下に到着しました。
崖の上では、ケラが「舟はこっちだよ。早く来て!」と言って、踊りながら飛び跳ねていました。
けれど、ウタオもツキヨも、それからムスビも、崖があんまり険し過ぎるので、何度登ろうとしても、半分も行かないうちに滑り落ちてしまって、どうしてもケラのところにたどり着けませんでした。
つづく
2枚目の挿絵は、陸六さんに作って頂きました。
フェルトを使った貼り絵です。
たくさんの落葉の舟を見つけたケラ、目が輝いています。