第五話 ナイナはどこにあるのか
みんなはすぐに、手で水をすくい出しましたが、水はどんどん溜まるばかりで、どんなに急いでも、とても間に合いそうにありません。ウタオは、前方の石倉の島を指さして、「あの島にこぎつけよう!」と言うと、舟べりから手で一心に流れをかいて、舟をそちらに向けようとしました。
みんなも、水をすくい出すのはあきらめて、すぐに夢中で川面をかきはじめたので、舟はだんだん沈みながらも、しだいしだいに、石倉の島の方へと、近づいて行きました。
やがて、舟は島のすぐ横を通り過ぎようとしましたが、みんなが、いっそうがむしゃらに水をかき続けたので、どうにかこうにか、島の下手側の岸にたどり着く事ができました。
小人たちは次々に岩場に飛びつくと、そこをはい上がりました。落葉の舟は、もうほとんど水に浸かっていて、小人たちが残らず島に上ってしまうと、透き通った水の中に沈み、ゆっくり回転しながら下流に流されて行きました。
みんなはくたくたに疲れて、丸い岩のてっぺんに座り込みました。ケラが、すっかり遠くになった川岸を見つめて、「泳いでむこうに渡るのは無理だろうね。」と、つぶやきました。
確かに、私たち人間なら、歩いて渡れるほどの何でもない浅瀬なのですが、小人たちにとっては、海峡みたいな広さの大河を、流れや、渦に逆らいながら、泳ぎ続けなければいけないわけですから、とうてい無理なことでした。
「何か役立ちそうなものがないか、島を探検してみようよ。」
ウタオの提案に、ムスビは「何にもありゃしないさ。草一本生えない岩の島だぜ。」と言って、面倒くさそうに寝転がりました。
すると、ツキヨが、「ナイナ(探し物)はないと思う所にあるのよ。」と言って立ちあがったので、ケラとユニオも、腰を上げました。ケラは、「僕はここにナイナはないと思う。ということは、ナイナはやっぱりここにあるって事だと思うよ。」と、いかにも賢そうに言いました。
ムスビ以外の四人は、話し合って、ウタオとツキヨ、ユニオとケラの二手に分かれて、役立ちそうな物を探す事にしました。
そして、
「何か見つけたら、ムスビのところに戻って来よう。」と申し合わせてから、それぞれ、別の方向に歩いて行きました。
このうなぎ捕りの石倉というのは、漬物石くらいの石を、小山のように積み重ねただけの、人間なら一人でも作れる小ぢんまりとした仕掛けなのですが、小人たちにとっては、丘や崖ばかりの、高くて険しい岩山の島でしたから、ユニオとケラは、助け合いながら、汗だくになって、この急な上り下りを乗り越えて、進んで行かなければなりませんでした。
ずいぶん歩きましたが、なめらかな石の道にも、ごつごつした石の道にも、石と石の境目にある大きなすき間にも、役に立ちそうな物はもちろん、役に立ちそうにない物さえ、何ひとつ見つける事はできませんでした。
しだいに、からだは小さいけれど、身軽でせっかちなケラが、おっとりして運動の苦手なユニオより、少し先を行くようになりました。
ユニオはケラが、勢い余って崖から転げ落ちやしないかと、ひやひやしながら、ふうふうあえぎあえぎ、ついて行くしかありませんでした。
とうとう、二人は山の頂上近くまで来ましたが、ユニオは目の前のひときわそびえ立つ絶壁を見て、へなへなとその場にへたり込んでしまいました。
「ユニオはそこで待ってて。ぼく、上を探してくるから。」
ケラはそう言って、くぼみに足をかけ、伸び上がってでっぱりをつかみ、そのままひょいひょいと、小気味よく絶壁をよじ登って行きました。
つづく