第四話 オプオプが集まるとどうなるか
小人たちは、舟が傾かないように、左右に分かれて舟べりにうつぶせると、手やかいで水面をぱちゃぱちゃ叩きはじめました。
こんなことで、ほんとうに魚が集まるのかしらと、みなさんは首をかしげてしまうかもしれませんね。だけど、人間と違って小人たちの立てる音はごくごくささやかですから、魚たちもびっくりするよりは、何だろうと思って、かえって確かめるために、こぞって集まって来てしまうのですよ。
ほら、さっそく、短い針のようなハヤの子供たちが、ススキのやぶ影からちらほら出てきて、もやもやした雲のような群れになりながら、落葉の小舟に近づいてきましたよ。
あんなちっぽけなハヤだって、小人たちにしてみれば、両手でやっと抱えられるくらいの大物なんです。だから、そんな大物たちが、舟のまわりに集まってきて、重なり合うように泳ぎ回るようすは、大した見ものでしたし、もっとたくさん集めようと思って、小人たちが水面をいっそう力いっぱい叩き続けたとしても、無理はありません。
それで、どうなったかというと、沖の方の水草の中で眠っていた、(小人たちにとっては)鯨のように大きな真っ白な鯉が、その騒ぎを聞きつけて、のそりと体の向きを変えると、ゆっくりと舟の方に近づいて来たのです。
ウタオは、そのまぶしく光る白い鯉が、水面近くを泳いで迫っているのに、ようやく気がつくと、ぎょっとして、「みんな静かに!」と小声で言うと、鯉の方をせわしく指で示しました。
鯉は舟のすぐそばまで来ると、水から顔を出して、オプオプと口を動かしながら、さらに手探りするようにふらふらと近づいてきました。
みんなは舟のまん中で、お互いにしっかり抱き合ってふるえていましたが、とうとう鯉が口先で舟をつつきはじめたので、ムスビが鼻息も荒く立ち上がると、「あっちへ行け!」と言いながら、鯉のくちびるを、握りしめたかいで思い切りひっぱたきました。
不意打ちにたまげた鯉は、バチャッと身をひるがえして逃げて行きましたが、その拍子に小人たちの舟は、鯉の尾で高々と宙に跳ね上げられて、羽根つきの羽根のように、山なりに勢いよく、川下の方へ飛ばされてしまいました。
その時、ちょうど、川上から、川風が吹き渡ったものですから、落葉の舟は、風に乗って、するする、空をすべり、やがて川の中ほどに人間が作った、うなぎを捕るための石倉の近くまで来たところで、水の上に落ちました。
小人たちは、落葉の縁をつかんで、張り付くように伏せていましたが、おそるおそる顔を上げたムスビが、
「全員無事か?」
と聞いたので、みんなも用心しいしい顔を上げて、それぞれのようすをうかがいました。ツキヨは、息をのんだウタオとユニオを見て、それからまだ見てない顔がないか探しましたが、はっと気がついて、「ケラちゃんがいない!」と叫びました。すると、小さなケラは、幸いなことに、ユニオの陰から顔を出して、「僕はここだよ!」と言ったので、それで、みんなはようやく安心して、笑顔になりました。
でも、ほっとしたのも、つかの間でした。
「あっ、浸水だぞ!」
ウタオが、舟のまん中あたりに、ひびが入って、そこから水があふれ出しているのを、見つけたのです。
つづく