第三話 マールマールの抜け出し方
ツキヨは舟べりに腰かけて、素足を水にひたしながら、ススキの葉っぱのこずえを透かす、まばゆい陽の光を見あげました。
「プチの光は、葉っぱも花びらも光らせる。私のからだも光らせる。」
手のひらで陽の光をさえぎると、ほんとうに指のふちのところが、火でも燃えているように、ぼんやり光って見えました。
ツキヨは自分が、葉っぱや花びらと同じものでできているという事が、何よりも素敵だ、と思いました。
その時、船首に立って、ゆく手を見はっていたウタオが、ムスビを振り返って、
「マールマール(うず)があるぞ。とり舵いっぱい!」と言いました。
ムスビは「とり舵一杯!」と答えながら、右舷に飛んで行って、水にかいを差し、せっせとこいで進路を変えようとしました。でも、その時にはもう、うずの力が舟をしっかりとつかまえて、舟はだんだん速度を増しながら、ゆるやかな弧を描くように、うずの方へ引き寄せられて行きました。
このうずだって、私たち人間から見れば、川底の小石が作ったただのちっぽけな流れの変化でしかないのですが、小人たちにしてみれば、大海峡で船の航行を妨げる魔物のように大きなうず潮と、たいして違いはないのでした。
葉っぱの舟は渦のまん中まで来ると、くるくるくるくる、同じ所で回っているばかりになって、ちっとも前に進まなくなりました。
舟に振り回されて川に落っこちそうになったケラは、ユニオから服をつかまれて尻もちをつくと、まるで公園の遊具で遊んでいるように「とまれぇー。」と言いながらすっかりはしゃいで笑いました。
めいめい、振り落とされないように身を低くしていた小人たちは、ケラの赤ん坊のようにかん高い笑い方があんまり愉快だったので、思わずつりこまれて笑ってしまいました。
それにしても、どうやってこの渦から、舟を抜け出させたらよいのでしょう。
「一つ方法はあるんだ。でもあんまりいい方法じゃないよ。」
ウタオが言ったので、ムスビが、「何も方法がないより、いい方法じゃない方法の方がましだな。」と言って、ウタオをうながしました。
そこでウタオは言いました。
「漁をする時の要領で、オプオプをおびき寄せるんだ。舟の下でオプオプが泳ぎ回れば、流れが変わって、マールマールから抜け出せるかもしれないよ。」
漁というのは、水面をかいや棒切れなどで叩いて、小魚をおびき寄せる、小人たちの昔ながらの漁法でした。
「とってもいい考えだわ。ねえユニオもそう思うでしょう?」ツキヨがたずねたので、ケラを抱えたユニオは、もちろんと言うようにうなずきました。
つづく
2枚目の挿絵は、陸六さんに作って頂きました。
フェルトで作った貼り絵です。
マールマールもちゃんと描いてくれています。^^