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黒い石

 そこは見知った天井があった。木で出来た暖かみのある天井。やけに梁の構造が複雑なのが印象的だ。

 俺は身を起こした。間違いない、ここはルッカの宿屋だ。何度も世話になっている。


 窓から見える景色から察して、二階だろう。部屋には誰もいなかった。


主人(エーマン)。おはようございます』


 リーベが俺の胸から飛び出し姿を現した。変わらず神秘的だ。


「リーベ…俺は…どうなったんだ?」


 ふと左胸に手を当てた後、着ていた服の下を覗く。着慣れた宿屋の服だ。

 心臓には何の問題もなく見えた。いつも通りの俺の左胸、左乳首がそこにはある。


『少女を救った後、主人(エーマン)は倒れました。その後、センナ様が一度ここルッカに戻り、助けを呼びました。主人(エーマン)は宿屋に運ばれ、少女は父親の元へ戻りました』


「そうか…あの娘は助かったのか……」


 己の命を捨てて他人を救う道を選んで正解だった。結果、どちらも生きている。


「…センナはどこに行ったんだ?」


『現在どこにいるかは分かりません。が、一度この部屋を訪れています』


「え?何しに?」


『眠っている主人(エーマン)をじっと見た後、ありがとうございますと小声で言った、去って行きました』


 わざわざ礼を言いに来たと言うことか。見直したというか、意外とそういう所もあるんだな。ただ、俺が目を覚ましてないうちに礼を言いに来るあたり、相変わらずのプライドの高さだ。

 センナも無事と言うことは、あの魔物の大群は討伐できたということだろう。


 何はともあれ、全員が無事だということだ。


「そうだリーベ、一つ聞きたいことがある」


『なんでしょうか?』


「俺があの娘を助けるために使った…天魔絶障(アプレヌーグ)…とかいう魔法、あれは一体どんな魔法なんだ?」


『千年前に、大天使ミルエカが、堕天使レシファエラに行使した魔法です。堕天使レシファエラは元々ミルエカと同じ大天使でしたが、魔族の手に堕ち、身体を蝕まれました。魔障痣はレシファエラの全身を這い、その体色を黒く染めました。しかしミルエカが行使した天魔絶障(アプレヌーグ)が、レシファエラを救いました』


「天使の魔法まで使えるのか…」


『過去に存在していたという事実さえあれば、それが現存していても、現存していなくても、転生は可能です』


 使えない魔法や武器は無い…ってことか。


『勿論、転生には魔王が転生対象を認識している必要がありますが、魔王が認識していない対象など存在はしないでしょう』


 魔王とやらの力のデカさが窺える。千年前のことも、何があったのかは知らないが、とにかく俺は今、文字通り胸に絶大な力を秘めてるってことだ。魔王が世界を支配しようとしていたってことは、使いようによってはこの今の世界を滅ぼすことも可能だってことだ。


 俺は急に恐怖に駆られた。


『申し訳ありません主人(エーマン)


「別に良いさ。これからはぶっ倒れないように気をつけないとな…」


 その時、部屋の扉がノックされた。音に気付いたリーベは俺の胸の中へと身を潜める。俺は立ち上がり、扉へ近づく。特に立ちくらみも目眩も無い。


「はい?」


 扉を開けると、そこにはセンナが立っていた。


「…元気そうですね」


 センナは以前とは違う装備を身につけていたが、剣は同じだった。


「元気だぜ、俺は」


「戦闘中に倒れるなんてもってのほかです。私がいなければ貴方は死んでいたかもしれませんよ」


「そうだな。でも俺がいなきゃお前も死んでたぞ、きっと」


 センナはスライムのことを思い出したか、僅かに頬を染めて悔しそうに歯を食いしばる。


「あ、あれは別に…貴方に言われなくても気付けていました!」


「へぇ、スライムが飛び出てきたときはだいぶ驚いてたように見えたけど」


「そ、それは相手を油断させるための一つの―――――――」


「はいはい、わかったわかった」


 俺は徐にセンナの頭に手を乗せる。センナはさらに頬を赤く染め、俺の手を勢いよく振り払う。


「さ、触らないでください!ぶ、無礼です!」


「人が寝てる間に部屋に飛び込んでくるのも無礼だけどな」


「なっ、何故それを…!?」


「あれ?適当に言ったんだけど、図星だったかな」


 そんなやり取りを繰り返し、センナはやっと落ち着きを取り戻した。大きな溜め息を8回ほど吐いた後、真剣な目で俺を見る。


「少女の父親から、受け取ったモノがあります」


「父親から?」


 センナは掌に乗せた黒い鉱石の欠片のようなものを俺に見せた。十センチ程の小さな欠片だったが、妙に禍々しかった。表面には何やら見たことの無い文字が描かれていた。


「なんだこれ」


「少女が握りしめていたみたいです…少女も父親も、見覚えがないということなので、預かってきました」


 俺はセンナから鉱石を取り上げる。


 瞬間、左胸の心臓が、一度だけ激しく拍動した。俺は思わず口元を抑える。声が出そうになったが、何とか堪えた。


「…どうしました?……というか、今の音は……?」


 センナは辺りをきょろきょろと見渡す。今の心臓の拍動は、センナに聞こえるほどに大きかったと言うことか。

 ということは、この鉱石は間違いなく魔族・魔王関連の代物だ。


「とにかく、こういうのは鑑定士に見てもらうのが一番だ。俺たち素人には分からねえ」


「で、でも…鑑定士にこんな得体の知れないモノを見せたら…取引をせがまれるんじゃ…」


「じゃあ俺に任せろ。仲の良い鑑定士がいる」


 俺はその鉱石をとりあえずポケットにしまった。いつまたあの拍動が来るのかが恐ろしいが、とりあえずは大丈夫そうだ。


「では、お願いします。何か分かったら教えてください」


「おう…ってか、お前が普段どこにいるか知らねえんだけど」


「失礼な方ですね…。私を訪ねる時は、”シュメット”という名前のパーティを訪ねてください」


「シュメット…聞いたことあるな。確か割と有名な固定パーティだろ。そんなとこに所属してたのか」


「そうですよ、悪いですか?」


 別にそんなこと言ってないんですけどね…。


「分かった、そうする」


 センナは部屋を去った。


 俺も準備を整えて、宿屋を後にした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


主人(エーマン)


 ルッカの街中でリーベの声が響く。今は一人で歩いているし、街は賑やかだから話しても問題ないだろう。


「なんだ?」


『武勲について、お話しましょう』


 そういえば、忘れていた。


「8つだろ?別に話さなくてもいいぞ」


『いえ、当初は8つの予定でしたが、天魔絶障(アプレヌーグ)の行使により、更に77つの武勲を追加したため、獲得数は85です』


「は?」


 え、85?

 一度で85個の武勲なんて…取ったこと無いぞ?


「嘘でしょ?」


『本来であれば天魔絶障(アプレヌーグ)という非常にリスクの高い魔法の行使には更に多くの武勲を追加するべきなのですが、主人(エーマン)の総武勲獲得数を考慮すれば、77が限界でした』


「え…じゃあ、例えばセラだったらどうなってた?」


『…武勲2000個は最低でも獲得されるかと』


 2000…だと…!?

 さすがは武勲の生みの親と言ったところか…。もしかすると俺はとんでもないヤツを味方につけてしまったのかもしれない。その分ぶっ倒れるリスクはあるが…。


 これで俺の総獲得武勲数は205個になった。まだまだ武勲表掲載にはほど遠いが、大きな一歩だ。


主人(エーマン)、立て続けに申し訳ありません』


「なんだ?」


『緑魔湖へ行かれることを勧めます』


「え?なんで…?」


『エアウテータの処理が行われていません』


 はっ!!

 そうだ、エアウテータで水を吸って放置したままだから、今緑魔湖の水はすっからかんだ。リーベが声を掛けなければ忘れていただろう。

 危うく自然破壊をするところだった…。


「そうだったな、直ぐに向かおう」


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