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第二話 エンジョイ!フライ!

第二話

「あいたた…………え?」

 ダンボールからなんとか抜け出した蒼疾は気がつけば自分が裁判所の証言台に………いや、被告側に座っていることにはじめて気がついた。

 がやがやとした声が聞こえてきており、それに対して嫌気が差してきたのか、裁判席に座っている人物は木槌を打ち鳴らす。

「…………え〜静粛に!これより、判決を言い渡します!」

 裁判長は女性のようで、彼女と同じ高さの席に六人が綺麗に座っているようだ。中央の裁判長は背中に赤い………いや、紅い翼を生やしており、他の六人は白い翼でどの人たちも個性あふれる仮面をつけて静かに法廷を見下ろしていた。

「…………天道時蒼疾を牢屋に放り込むことを決定します♪」

 裁判長は嬉しそうにそう告げる。そして、なんだか軽いノリで決められてしまったことに憤ることも出来ずにせっかくダンボールから出た蒼疾の脇には背中から白い翼を生やした警備員二人組みがやってくる。あっという間に脇を押さえられると彼らは蒼疾を持ってどこかに連れて行こうとした。

「ま、まってよ!僕は何で!何で…………」

 何もわからずに彼は赤いじゅうたんの上を宙に浮いたまま連れて行かれる……とおもったのだが、いきなり一つの影が彼らの前に立ちふさがった。

「ぐわっ!」

「がはっ!!」

 その影はあっというまに紫色の棒のようなもので二人の警備員を即座に殴打。彼らは急所に攻撃を加えられたことでその場に倒れてしまったのだった。

「まったく、いつもここは力で解決しようとする………だから、私は嫌いなのだ」

 頭のよさそうな印象を受ける男がそう呟く。そして、書類にペンをどこからか取り出すと男は蒼疾へとその二つの道具を渡す。

「え?」

「ここから抜け出したいんだよね?空を飛ぶには翼が必要………今の君が使える方法は飛び降りて人間界に戻るぐらいさ。だから、この誓約書に悪いけど住所、名前、電話番号………ここの感想を書いてくれないか?」

 絨毯の上で構わないからさと男は呟くと廊下の先のほうを見る。つられて蒼疾もそちらを見たのだが警備員が波となって押し寄せてきたのだった。

「ひっ!」

「おっと、あわてないあわてない………君がその書類に記入している間、僕はここで彼らの相手をしてあげてるからさ…………ゆっくり書いてくれたって構わないよ」

 男はそういうとわーっ!!といいながら押し寄せてくる…………と、防火シャッターらしきものが上から降りてきて警備員たちが蒼疾の前にやってくることを阻んだのだった。

「これで大丈夫………書いたかい?」

 まったく相手なんてしていない男はそんなことを後ろにいた蒼疾にたずねる。

「あの、ここの感想って?」

「ああ、ここは天界の裁判所………君の素直な声を聞かせて欲しいんだ。まぁ、受付のところにも感想を書くところがあるんだけどね」

 男のわかりにくい説明によるとこの裁判所についての第一印象をそこの欄に書いておけばよいようだ。蒼疾はとりあえず率直にその紙にペンを動かす。

『理解不能』

「だろうね」

 男はそうやって笑うと蒼疾から紙とペンを返してもらうとこれまた近くの扉を開けた。扉には『危険!開放禁止!』と書かれているのだがお構いなしだった。

「じゃ、また会うかもしれないけどそれまでばいばい!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 男は蒼疾の背中を強く押し、暗黒の暗闇に蒼疾をたった一人で旅立たせたのであった。勿論、蒼疾は叫び声を発しながらただ真っ暗の空間を一人で堕ちていった。行き着く果てがどんなところであっても、彼はこの叫びを止められないだろう。

『呟け!』

「な、何を?」

 叫び声をあげるだけの蒼疾に変化が起こったのは男に落とされてどのくらいたった後だろうか?そんな声が聞こえてきたのだ。

『わからぬならば復唱せよ!………紅き翼を持ちたい!と!』

「あ、紅き翼を持ちたい!」

 蒼疾は言われたとおりにただそう呟く………ただ、呟きにしては相当声が大きかったのだが………とりあえず、それは成功した。

「…………うわっ!!」

 落ちる感覚はなくなり、代わりに浮遊感を感じる。

「え?」

 気がつけば自分の背中からは紅い翼が生えており、それが羽ばたくということはないのだがそのおかげで間違いなく落下がゆっくりとなっていた。

「…………」

 下にはよく見知った光景が広がっていたのだが……………

「雪!?」

 自分と共に地面へと向かっているものをその視界に捉えると今の季節が冬であるということをいまさら知った。どうやら、クリスマスが間近のようだったのだが………蒼疾がエッチな本の罠にかかったのは七月の初めぐらいだったはずなのだ。

「………あれから………ええと、八、九、十、十一、十二………五ヶ月もたったのかな?」

 そういいながらこの光景を人に見られたらまずそうだったので蒼疾の町の近くにある錆びれてしまった町のほうへと向かった。そこには不良たちがたまっていることが多々あるのだが、街の人たちよりは幾分ましのような気がしたのだ。

 そちらのほうに行きたいと思えば自分もその方向にいけることに気がついた蒼疾は急いでゴーストタウンと化したその町へと向かったのだった。

―――――

「………五ヶ月なんかじゃない!一年以上たってる!」

 寂れてしまっていた町にも勿論、コンビニなどがある。不良のたまり場となっていて、店員も不良だったのだが蒼疾は気にせず大声を出した。

「…………」

 ふらふらとしながら歩き出し、そんな茫然自失とした蒼疾を不良たちは見逃していなかった。

「なぁ、兄ちゃん!クリスマスプレゼント代が欲しいんだ!俺たちのサンタに鳴ってくれねぇか?」

 そんなことを不良たちが言ってくる………だが、蒼疾はそれを無視して歩を進める。

「おい!聞いてるのかよ!」

 蒼疾に手をかけようとするが…………その前に、その手がつかまれ、不良が壁に叩きつけられる。

「ぐへっ!!」

「え?」

 別に蒼疾が手を出したわけではなく、他の誰かがその不良を吹き飛ばしたのだった。

「へぇ、人間界で久しぶりに同種を見るな〜っておもったけど………どうかしたのかい?」

「え?」

 再びそう呟く蒼疾が声のしたほうに視線を送るとそこにいたのは見た目が蒼疾よりも二歳ほど幼そうな女の子だった。

「くそ!エンジェルか!今日こそこの前の財布を返してもらうぜ!いけ!野郎共!」

「「「「おーっ!!」」」

 不良たちがいっせいに女の子に襲い掛かる…………多勢に無勢だとおもっていた蒼疾だったが、その常識は吹き飛んでしまった。

「くそっ!せめて動きを止めろ!」

 参戦せずに後方で指令を出している不良が別の指令を出した。他の不良たちは言われたとおりにそれぞれが女の子の足や手に群がろうとしたのだが………

「無駄無駄無駄!このあたしをとめたいのであれば………」

 少女は何か手にしており、それは紅く輝く。彼女が一閃しただけで向かってきた連中はすべて気絶してその場に倒れ付したのだった。勿論、後方の不良までも………

「…………ビデオカメラでとって静止ボタンを押すことだね!」


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