第三話 疑惑
一週間もあいだが空いちゃいました。やっぱりこの時期は忙しいですね。
今回は新キャラが二人登場します。
「…とりあえず繁華街まで出てきたのは良いが、これからどうするつもりだ?」
「だからさっきも言ったでしょ?ノープランよ」
俺達は今、氷雨ABUの情報を集めるために街の繁華街を訪れていた。
繁華街というだけあってカップルや家族連れ、友人同士のグループやスーツ姿の会社員と人で溢れかえっている。
「ノープランっつてもな、凛。流石にプラン建てないとまずいだろ。無闇矢鱈に聞きまくるようじゃかえって目立つぞ。」
俺がそう問いかけると、凛は何やら企んでいるような顔でこちらを向いて言ってきた。
「変に目立たないで情報を集めるにはどうしたら良いと思う?」
――なんだか嫌な予感がするぞ。
「おい、まさか…」
「そうだね、神崎流色仕掛けだね。」
「…ちょっと待って聞こえない。もう一回言ってくれ。」
「だから神崎流色仕掛けだって!」
「嫌だぞ俺は!絶対にやらん!」
「え~だってこの方法しかないじゃない~。」
なんでこいつは俺の黒歴史をエグッてくるッ!?
「断じてお断りだッ!!」
神崎流色仕掛けとは、俺が編み出したハニートラップ寸前の尋問方法である。
確かに効果的ではあるがこの方法には大きな欠点が二つ。
一つは男にしか通用しない事。これはまぁ、ハニートラップだしね。仕方ないね。
それより俺にはこっちのほうが重要な問題だ…
もう一つの欠点は―――俺が女装をしなければならないこと…
は?なんで?凛がやればいいじゃんと思う方も多いと思う。
だがこの神崎流色仕掛けの大部分が俺の会話テクで成立している。
俺は確かに無愛想でぶっきらぼうだ。だがこの仕事の性質上、情報を集めるためには会話テクニックを磨かなければならない。情報というのは人が発信するからな。その点は仕方ないと思う。
問題は俺にテクニックがありすぎることと、凛の経験が浅いためテクニックがなさすぎるということだ。
この街に拠点を置く上で、神埼涼としての極端に目立つ行動は避けなくてはならない。
そのため上記のテクニックを駆使していろいろな職業に化ける事がある。
その一環として身につけたのが女装だ。だがこれはあくまで最終奥義であり乱用は避けたいのだが…
「え~良いじゃない~女装しましょうよ~。絶対似合ってるわよ~。」
「似合ってる似合って無いの問題じゃねぇだろ!!俺の精神が持たねぇよ!!」
というようなくだらない言い争いを続けていると突然、誰かに名前を呼ばれたような気がした。というより呼ばれている。
「…崎くーん!おーい!」
――まさかこの声は…
「おーい神崎くーん。こっちこっち!」
「…奇遇だな、月影。」
「本当!さっきぶりだね~神崎君。」
――なんでよりによってこいつと鉢合わせないといけないんだよッ!!
…今のやり取り見られてないだろうな。
いやまぁ、どちらにしろ会いたくはない相手ではあるから状況は変わらないと、思うけど…
しかもこいつ、後ろに他のクラスメートを連れてやがる。
「神埼か。偶然だな。」
「…あぁ、本当に偶然だな。水森。」
月影と一緒にいるこいつは水森純。男っぽい女。
まずこいつはまず見た目がイケメンだ。男装させれば確実に男と見間違う。
性格もクールで余計に男に見えるから不思議。服装は女だが。
「んで、水森の後ろにいるのが…」
「チーッス神崎、元気してたかー。」
「…さっき学校であったばかりだろ。」
やたらとテンションが高いこいつは森田恭平。
クラス一のお調子者 (バカ)
こいつといるととにかく体力を使う…
「それでさぁ神崎君。さっきから隣にいる女の人誰?」
少し低めのトーンで月影に問いかけられた。
ここは変に取り繕ってもしょうがない。それっぽい理由でもつけつつ紹介した方がいいな。
「…あぁ、こいつは火山凛。俺の彼女だ。」
「は!?」
「本当!?」
「なっ!?」
女子三人が何故か一斉に声を上げる。
かと思ったらすぐさま凛が
「ちょっ、ちょっと!冗談言わないでよ!いい加減にして!」
とツッコミを入れてきた。ソッチのほうが後々楽だからそれでいいだろうが…
「…冗談だ、さっきのお返し。本当は彼女じゃない。俺の…親戚だ。」
そう訂正しつつ改めて俺とこいつの関係を述べると、何故か月影と水森がホッとしたような表情をしていた。
「…なぜ安心したような顔をする?月影、水森。」
「い、いや、なんでもないよ!気にしないで!ただ彼女がいるって信じてびっくりしちゃっただけだから!ねっ!」
と月影が答えると続けて水森が
「そっそうなの神崎!私もミレと同じ!」
と答えてきた。
「…そうか。なるほどな…ところで話は変わるがお前ら三人はなんでここにいるんだ?」
――せっかくだ。こいつらから氷雨ABUの情報を自然な感じで引き出してみよう。
「俺はなー、家に帰って暇だったからなー、このへんブラブラしてた!」
森田がそう答えると続けて月影が
「私たちはね、洋服を買いに来てたの。純ちゃんが一緒に選んでくれって。で、歩いてたら森田君と出会ったから一緒に行動してたの。」
「…なるほど、それで三人共ここにいるわけか。」
「そういうことだなっ!」
そういう理由か、コレなら凛をうまく使ってなんとか情報を集めることができそうだな。
後はどうにか切り出して…
「そういえば凛さんは神崎君の親戚だったよね?この街に住んでるんですか?」
こちらがどうやって話を切り出すか考えていると、逆に月影の方から俺と凛に質問を投げかけてきた。
…これはありがたい。情報収集のチャンスだ。
「いや、凛はこの街に住んじゃいないよ。ただあるものを見に来ただけだ。」
俺がそう答えると今度は水森が
「あるものって?」
と疑問を投げかけてくる。
――さて、これで後は凛が察してくれればいいが…
「…!あ、えーっとねほら、最近この周辺でキャンプファイヤーみたいな炎が上がったり雷が落ちたりしてるじゃない?それがなんでかを確かめに来たのよ。」
――ナイスだ凛!うまく繋いだな。これで少なくともこいつらから情報収集が出来る。
後は俺が付け足して…
「…朝月影が俺に言ってきたやつだな。凛曰く、この他にも町外れの倉庫がどういうわけか相当な広範囲で凍りついていたそうだな…」
「私が結構そういう超常現象系が好きでね、調べに来たのよ。何か知ってることはないかしら。」
凛は三人へ質問を投げかける。
すると全員口を揃えて
「詳しくは知らない。」
と答えた。
まぁそりゃな。そんな異常事態が起こることも珍しいんだ。ましてABU、一般には認知されてないもの、殆どの人間が怖がって調べたりなんてしないだろうな。
だがこの時、俺以外誰も気づかなかったであろう、ある人物の声に少し違和感があった。
水森純だ。凛がこの質問をした直後から誰も気づかないレベルで、だが明らかに、声が震えていた…
これは重要な情報だ。戻ったら報告だな。
…今はとりあえずこの場を切り上げよう。
「…凛、そろそろ駅へ急がないとまずいんじゃないか?」
「え?…あ、本当!そろそろ帰らないといけない時間だわ。
三人共情報ありがとう。また会いましょう。」
凛が言い終えたと同時に俺は
「俺は凛を駅まで送る、ここでお前ら三人とはバイバイだ。また明日、学校でな。」
と続けると
「おうっ、わかった。また明日な!」
と森田
「神崎君バイバーイ。また明日ね~。」
と月影
「また明日な。神崎。」
と水森がそれぞれ俺に返してきた。
――やはり水森の声が震えている。明らかにさっきの質問で動揺した証拠だ。
まさかここまでの収穫が得られるとは…ありがたい限りだ。
帰ったら早速対策を練らねばな。