第二話 凛と涼
完全に日常回になっちゃいました
少しだけ神崎君の過去に触れます。
――はぁ、まったく。なんでいつもこうなるかね。
俺は今、街の某ショッピングモールに来ている…凛と一緒に。
その目的は氷雨ABUの情報収集。
だが俺の経験上、こいつと一緒の情報収集は大抵がうまくいかないことのほうが多い。
というのも…
「ごめんなさい、見ての通り今彼氏と一緒にいるんですよー。」
「…またナンパか。」
「そっ、嫌になっちゃうわよね~」
こいつはとにかくナンパにあう。理由はまぁ…可愛いから?
こいつが俺と話してるときでもなりふり構わずナンパしてくる奴らがいるってのも困った点だが何より、こんなに人目についてちゃ本来の目的が達せられない。
「勘弁してくれ。ナンパする方もする方だがされるお前も大概だぞ。そんな目立つ服着てちゃ狙われるのも当たり前だろ。」
と俺があえて怠そうに声をかけると
「何よそれ、犯罪者の理屈っぽい。」
っとこの始末だ。
「犯罪者の理屈かどうかは知らないがとにかく目立ちすぎだ。これはあくまで調査だぞ。
あまり他人の印象に残るようなことをしないのが当然だろうが。」
俺が声のトーンを変えずに言うと、今度はふてくされたように
「別にいいでしょ。オシャレは女のたしなみ、若いうちはどんなときでも女を磨かないと。
それがプロってものよ。」
…たしかに、こいつの言うことは最もだ。プロって物はいつどんなときであれ意識を持っていなくてはならない。俺もこいつも戦闘のプロであるという点では変わらない。
一見関係のないようなところも些細なことまでこだわるのがこいつのプロ意識だ。
――だが流石に、俺のことを彼氏と偽る必要はないだろ。
と言いかけたところでやめた。たまにはこいつをからかってやろう。
「…俺を彼氏って呼ぶことはなくないか?弟とかでも良いわけだし。
もしかして俺のこと好きなのか?」
すると突然声を荒げて
「は!?べっべつに!そんなわけ!な、ないじゃない!あ、あんたもっ!ちょっともてるからって!調子に乗るんじゃないわよ!勘違いしないで!」
――やっべ怒らせた。
ここはこっちが冷静になって対処しねぇと…
「いや、すまん。ちょっとからかっただけなんだ。お前がそんなに嫌だとは思わんかった。本当にすまん。」
っとこれで収まったか?
「はっはぁ?別に!そんなことは言ってないじゃない!も、もう知らない!」
…余計に怒らせる結果になってしまったよめんどくせぇ。
これだから女ってもんは苦手だ。やたらと俺にかまってくる月影といいなぜかいきなり怒り出すこいつといい…本当女ってもんはめんどくせぇったらありゃしねぇ。
…やっぱり俺に人付き合いは無理だな。人の気持ちを察する能力が大幅に欠けている。
俺は、あいつみたいに人と接することは一生できないだろうな。
あいつみたいには… 「…ねぇ。」
と、急に声をかけられ凛の方を向くと、こいつは落ち込んだような顔をしながら俺の方をを見ていた。
「…なんだ。」
「そっその、…さっきはきつく言い過ぎたわ。ごめんなさい。」
…こいつはまた、唐突だな。どういう風の吹き回しだ?
「別に、気にしてねぇよ。」
「嘘よ、ものすごい険しい顔してた。本気で気にしてるような顔だったからなんか申し訳なく思っちゃって…。」
「別にいいよ、俺がお前に怒らせるようなことを言っちまった結果がこれだ。俺にデリカシーがなかっただけだ。」
そう、今回凛を怒らせちまった理由は紛れもなく、俺がこいつの汲み取れなかったことだ。
あの時みたいに、俺は他人を思いやることができなかった。見ることをしなかった…
こんなことでいちいち悩む俺もどうかしてるが、心に誓った“他人をしっかりと見ること”をこなすことができなかった。紛れもなく昔の俺だ。
「そうじゃないわよ、その、なんていうのかな…。お、思ってもみなかったことを急に言われて、ね?あの、ちょっとね?その…照れちゃったというかその…」
「…ん?照れた…?」
「―――――――――――――ッ///!!!
そうよ!意識させられるようなこと急に言われたから意識しちゃったの!それで少し照れちゃったの!だからあんたは悪くないの!わかった!?」
――え、なにそれは。
またいきなり取り乱しやがった。
勢いに圧倒されちまった俺は思わず…
「え、お、おう…わかった。」
といってしまった…
「そうよ。わかればいいのよわかれば。それじゃあ気を取り直して、情報収集再開するわよ!」
「…」
――なんか納得行かねぇ!!!!
何だったんだよ一体!俺がうじうじ悩んでたのがマヌケみたいじゃねぇか!
悩んで損したよ全く!!
…まぁ、こいつを傷つけずにすんだってのは本当によかった。
些細な事かもしれないが、同じ過ちを繰り返してしまうのは避けなければならない。
…あいつのためにも
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『いい?どんなときでも人を思いやる心は持つようにしなさい。』
『…そんな不確かなものは必要ない。戦闘に必要なのは力と技術だけ…』
『その考え方を直さないから涼くんはいつまでたっても強くなれないのよ!
戦闘は戦闘でも仲間に危害を加えないように人を思いやる心は大切なの!』
『…俺は独りでいい。常にそうやって生きてきた。戦闘に仲間などという不確かなものなど必要ない。』
『そんなことないの!涼君にもいつかわかる時が来るわ。』
『…必要ない、そんなものは。戦闘はただ傷つけるだけ、それ以上でも以下でもない。
仲間や人情などという物は足を引っ張るだけ…』
『だーかーら!!!!!』
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「ちょっと涼!聞いてるの!」
「…いや、聞いてない。少し考え事をしてた。」
「全くなんであんたはいつもそうなのよ。もっと人の話を聞くようにしないとモテないわよ。」
「余計なお世話だ。それで?」
「とりあえずココを出るわよ。どうにかして情報を集めないと。」
「…やっぱりノープランか。」
「良いでしょ別に。考えるよりまず動け、よ!」
「いつもお前は…」
「とにかく情報収集に向かうわよ!早く!」
「…全く。」
こうして俺達は、情報を求め再び街へと繰り出していった。