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第2話


「……で?何をしてたわけ?」

ギシッと音を立てて、アイレンは椅子へと座る。

小さなテーブルを挟み、

「……シーク・ドール対策……です」

言葉をどもらせながら、大きな耳を垂れ下げて、シズリーは答える。


「それは、浴室内でさっき聞いたわ」

トントンと人差し指で丸いテーブルを叩き、目の前の男を見据える。

「じゃあ……」

「……起きたら隣にいないし、まさかと思って来てみれば朝っぱらから何、ご夫婦のご自宅にお邪魔してんのって言いたいの」

金色の瞳で、緑色の瞳を捉えながらアイレンは溜息をつく。


「だから、店の方に移動したの?」

少し意外そうにシズリーが問いかければ

「そうよ。いくら店内と自宅が繋がっててもアンタのいた所はマトラー夫妻の部屋(テリトリー)。私達は店内(ココ)までよ」

そう言って、彼女は辺りを見渡す。

昨日訪れた時となんら変わらない。

朝だというのに薄暗く、埃っぽい店内。


(それにしても……掃除してるわけ?)

と彼女は胸中で思いながらも声には出せずにいた。


何故なら

「コイツの頼みごとを聞いてたんだ」

赤いタンクトップに、黒のパンツスタイルのカスールが店内でハタキをかけているからだ。

目の前で掃除されていては、いくら埃っぽくても言えるわけもなく、彼女は嘆息する。


そして

「頼みごと?」

眉根を寄せて、アイレンは二卵性双生児の兄であるカスールを見つめる。


一つだけ、彼は頷いたあと

「今夜、コイツはソイドの屋敷……」

答えていたのだが、その言葉を遮り

「昨日お願いしたでしょ?俺と一緒に屋敷に来て欲しいって」

「それって、祭典のこと?」

「そう。丁重にお断りしてくれたやつ」

茶化すようにシズリーはアイレンに笑いかける。

しかし、そこでたじろぐ彼女ではない。

「ふぅん?つまるところ、一夜限りの相手を探してたってこと」

金色の瞳で、緑色の瞳を見据え、彼女は口角を上げる。

「そういうこと」

と、緑色の瞳を細めシズリーは答えカスールの隣に立ち、微笑む。


「……男同士はダメなんじゃなかったの?」

怪訝にアイレンが、問いかければ

「だから、別にそういうのじゃねぇって」

溜息をつき、カスールは項垂れる。

「じゃあ、何?」

アイレンが先の答えを急かすと

「いつも、俺がシズリーの頼みごとを聞くときは組手をすんだよ」

と、カスールはハタキを持つ手を腕組みし答える。


「組手?」

「そう。かれこれ10年かな。タダでは動いてくれないんだよね」

困ったように、眉根を垂らしシズリーは隣に立つカスールを見つめる。

「俺がこんな奴のために人間界と異世界(シャルバラ)を行き来してやる義理を感じないからな」

ふんっ。と、そっぽを向いてカスールは答える。

「だから組手?」

「鈍った体を叩き起こすのもだし、お互いフェアに肉弾戦。これで負けた方が勝った方の頼みをきく」

単純でしょ?と、付け足してシズリーは肩をすくめる。


「単純なのねアンタたち」

呆れたようにアイレンが呟けば

「男なんてそんなもんだろ」

とカスールは淡々と答える。


そして

「で、今日は俺が勝ったから頼みを聞いてもらうんだ」

クスッと笑いシズリーが口を開く。

「シズリーの頼みごとって?」

「今夜の祭典に必要なもの」

微笑んで、シズリーはアイレンを見る。

「それって……」

「アイレンと行けないみたいだから、一夜限りの女の子」

サラリと出てきた答えに

「………っ……」

予測はしていたものの、本人の口から出た答えに金色の瞳が揺れ動く。


その動揺を見逃すわけもなく

「嫉妬……?」

緑色の瞳を細めて、シズリーは問いかける。


「まさか。誰がアンタみたいなのと」

足を組みアイレンはシズリーへと、背を向ける。


その姿に

「……アイレン」

背後から溜息をつき、彼女に声をかけてくる。

その人物と同じ金色の瞳で

「何よカスール」

アイレンは振り向く。

「お前はなんの用事があってココに来た?」

「……シズリーの迎えに……」

少しだけバツが悪そうに答える彼女を見てカスールは、

「なら早く連れて帰れ」

そう言い放つと。狭い店内でシズリーの背中を押す。


シスコンな兄らしくない姿に、アイレンは眉根を寄せて二人の方を振り返る。


「ちょ、カスール‼︎俺は……」

「お前の礼服は用意しておいてやる」

シズリーに背を向け、カスールはまたハタキをかけ始める。


「いや、女の子は⁉︎」

「目の前にいるじゃねぇか。なんだアイレンじゃ不服か?」

金色の瞳を鋭くして、カスールはシズリーを睨みつける。


「いや、だから俺は一回断られてるんだよ‼︎」

そう、シズリーは声を荒げたのだが、

「何、その様子じゃアイレンの気が変わったんだろ」

怪訝そうに見つめるアイレンの瞳を、カスールの金色の瞳は優しく見つめる。



「……まぁね」

ボソリと、アイレンが、答えれば

「そう……なの?」

緑色の瞳を丸くして、シズリーは問いかける。

「別にアンタと行きたいとかじゃなくて、仕事の関係で。成り行きよ成り行き」

「やっぱり仕事だったんだ?」

「そうよ?言うほどの事でもないと思ったけど……利害の一致ね」

椅子から立ち上がり、アイレンはシズリーを見据える。


「利害の一致?」

ハタキを動かす手を止めてカスールはアイレンへと向き直る。

「………そう。私の仕事とシズリーの目的が一致したの」

そう、アイレンは金色の瞳を細めて目の前の混合種と、兄を見つめる。



「それってつまり、人型精霊を……」

「そう。助けるための仕事を引き受けたのよ……ただ……」

アイレンは唇を噛み言葉を止める。

「ただ?」

続く言葉に、シズリーは大きな耳を傾ける。

「私とシズリーのペア。私たち単独の仕事ならよかったんだけど……」

「違うの?」


シズリーの問いかけに、アイレンは一つ頷いて

「………シーク・ドールも今回は同行する」

そう、彼女は目の前の混合種に告げる。

「成る程ね……ドサクサに紛れて俺のコイツを狙うって魂胆か…」

服の上から、シズリーはペンダントを強く握りしめる。

その発言は、アイレンの考えと違っていた。


何故なら彼女は

「……どういうこと?命狙われてるんじゃないの?」

と、思っていたからだ。


しかし、その質問は

「うん?彼等は俺のことを殺すことはしないよ」

シズリーの不思議そうな言葉によって跳ね返される。

「随分言い切れるのね?」

「きっと、『魂の浄化』をしたいだけだろうから……ね」


その言葉にアイレンは、野宿した晩に目の前の混合種から聞いた話を思い出す。

そして

「……『とある道具と、選ばれし混合種』って言ったわよね?」

一つの考えが浮かび上がり目の前の混合種を見据える。


一瞬躊躇った表情を見せたが、シズリーは意を決したのか

「……そう。道具はコレだ」

服の中から、六芒星が装飾された緑色の禍々しいペンダントを取り出す。


「あの日……騙したのね?」

野宿した晩のことを思い出しアイレンは言葉を震わせる。

「騙したんじゃない。黙ってたんだ」

「それは、道具(ペンダント)のことを……でしょ?」

と聞き返せば、何かを諦めたように

「……察しが早いね?」

緑色の瞳を細め、シズリーはアイレンを見つめる。


「選ばれし混合種って、やっぱアンタじゃないの‼︎」

丸いテーブルを強く叩きつけ彼女は、声を荒げる。


その姿に一つだけ頷いて

「そう。でも、この傷は……ハリスを殺した時に出来たものだ」

そう言って、シズリーは額の傷をなぞる。

「とか言って……三つ目……なんでしょう?」

「………」

彼女の質問に、シズリーは押し黙る。

その瞳は、肯定するようでもあり、否定するようでもあるものだ。


そんな二人の様子に

「秘密にしておきたかったんじゃねーの?」

呆れたようにカスールがシズリーへと問いかければ

「今の話、聞いたろ?今夜はまさかのシーク・ドールと合間見える。命ならともかく……コイツだけは渡せないからね」

そう言って、シズリーはペンダントを服の中へとしまい込む。

「どうして?」

「教えたでしょう?俺に一切触れていない状態で、他者に触れられたら困るんだ」

「でもっ!ハリスさんを殺したのはシズリーの確証が無いのよね?」

「……いずれにせよ、彼らの手に渡ったら、俺の暴走は免れない。だから、今『魂の浄化』の話をした」

そう、答えアイレンをシズリーは見据える。


その瞳は、何を問いただしても答えてくれそうにはなく

「カスールも知ってたの?」

アイレンは、シズリーの後ろに立つ兄へと問いかける。


「仮にもポーターの権力者……異世界(シャルバラ)と人間界を繋ぐのが仕事だ。知らないわけないだろ」

肩をすくめ、カスールは答える。


「また……私だけ何も知らない」

アイレンは己の掌を強く握りしめる。

「秘密にしておきたかった。何もかも。何も知らないアイレンに……俺は甘えたかったんだ」

「どういうことよ」

「さっき、アイレンが言った通り俺は選ばれた混合種。異世界(シャルバラ)では、俺を皆遠巻きに見るか……媚を売って近くか」

淡々と、紡がれていくシズリーの言葉に、アイレンは黙って耳を傾ける。



そして

「もし…今回のことで俺のことを軽蔑ないし、恐れるのなら…ヘリクサムへ帰っていいよ」

そう、シズリーはアイレンへと告げるのだった。

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