第4話
「ねぇ、父さん」
取り残された二人の沈黙を破るように、アイレンは養父であるルイに声をかける。
「なんだい」
「…シズリーって帰る場所あったのね」
知らなかった。
と付け足して、金色の瞳で彼女はルイを見つめる。
彼の手には、シズリーの食べ終えた皿か収まっている。
「……」
知っていたのか知らないのか。
黙るルイに
「父さんは私を養子として引き取ったけど、こんな私でよかったの?」
コーヒーを口に含み、彼女は問う。
「突然どうしたんだい?」
彼女は少し沈黙したのち、言葉を紡ぎ始めた。
「私ね、10年くらい前に人から聞いたの。人殺しの……暗殺者の娘だって。……なんならね、私も…」
全てを言い切る前に
「知ってるよ」
ルイが、言葉を発する。
本当の父親のことをなのか。
彼女の髪と同じ色に手を染めていることをなのか。
どちらとも捉えられる発言に、彼女は赤い髪を揺らす。
「…嘘でしょう?…どっちを…?」
「どっちもだよ」
ため息をつき、皿を拭く手を止め、ルイはアイレンの隣に…
シズリーが先ほどまで座っていたカウンターチェアに腰掛ける。
「……っ…」
思わず身構える彼女に
「身構えなくていい。少しだけ昔話をしよう」
「昔話…?」
「わしはね、アイレン、君の父親と親友だったんだよ」
その言葉に、彼女は
「……ぇ?」
困惑する。
そんな彼女を他所に
「話す時が来たのかも知れないなぁ」
目を細め、ルイは遠くを見つめる
「どういうこと…?」
「いいかい。アイレン。今から話すことを信じるか信じないかは君次第だ」
穏やかな顔が一変し、真剣な瞳で見るルイに彼女は耳を傾ける。
そんな彼に対し、生唾を飲み込みながら彼女は
「アイツの言葉はともかく、父さんの言葉は私、信じる」
「アイツって、君の本当の父ジェイクのことかい?」
少し困ったようにルイはアイレンに問う。
「そうよ。生きてるんだか死んでるんだか…」
彼女は溜息をつき、呟く。
「生きていて欲しいかい?」
「そうね。見つけ出して、約束の期日に私を迎えに来なかった理由を問い詰めたいわ」
寂しげに呟き、少し冷めたコーヒーカップを両手で握りしめる。
「それは、少し酷なような気がするなぁ……」
ルイは困ったように唸り、眉を垂らす。
元来タレ目な彼の目が更に垂れていく。
「それにね、未だに会いに来ないって言うのも腹立たしいのよ」
カウンターに肘をつきアイレンは不服げに呟く。
「会いたいのかい?」
「……唯一血の繋がった人だからね。でも、あんな奴より私は父さんが好きよ」
アイレンはルイへと笑いかける。
「そりゃ、光栄だ」
「それで?ジェイクのこと……教えてくれるんでしょう?」
彼女は金色の瞳を細め、ルイを見つめる。
「……やはり、そう来るか…」
ルイは困ったように瞼を伏せる。
「言えないの?」
「何から知りたいんだ」
ルイは椅子に座りなおし、アイレンへと向き直った時だった。
「遅いよ」
Tシャツを肩まで捲し上げ、右手にはモップ。
左手には水の入ったバケツを持って、現れたのは
「シズリー…」
アイレンが名を呼ぶ。
「もぅ6時過ぎてるよ。掃除掃除!マスターも。パンの発酵終わってるんじゃない?」
と、シズリーは言いたいことをまくしたてる。
それを見て
「ぶははははっ!」
豪快に笑うのは、
「マスター?」
「シズリー…あんたね…」
深い溜息をつきアイレンはシズリーへと近づく。
「アイレン。きっといずれ知る。今はそのタイミングじゃないようだ」
そう言って、ルイはカウンターから厨房へと姿を消す。
それを確認し、シズリーは
「アイレンは玄関掃除からね」
と言ってモップを水の中へと沈める。
ジャブジャブと水の中をモップが泳ぐ音が響く。
「あのねぇ!今、父さんと私大事な話…」
「そうだね。だから遮らせてもらったんだ」
肩をすくめる。
アイレンの言葉の途中でシズリーが言葉を挟む。
「…は?」
怪訝そうな顔をする彼女に、
「……今は知るべきときじゃないって言ってるんだ」
「でも…」
「アイレンらしくもないな。言いたくないことを無理に聞くような性格だったっけ?」
ん?と、付け足してシズリーは緑色の瞳で、アイレンを見据える。
「……わかったわよ」
彼女は逆らうこともできず、もの言いたげな目をする。
そして、箒とちりとりを持って玄関の外へと出たのだった。




