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第2話


珍しく、夜更けに起きてしまった俺は再び眠りにつく事も出来ず窓の外を覗く。

どこまでも続きそうな闇は白い雪を舞い散らしていた。


(……雪……か)

厚着をしてヘリクサムの町に繰り出す。



静まり返った闇の中。

空からは白い白い綿毛のような雪。


キリリと冷えた空気はとても澄んでいて

(………鉄の…いや血液の匂い……?)

俺の鼻腔に生々しい匂いを運んでくるのには時間はかからなかった。


まさかと思い一本の路地裏に足を運んだが……。

血の匂いに混ざり合ってよく知っている匂いも強くなる。

その匂いの先にある人物を見て俺は嘆息する。


(………やっぱり)

降りしきる雪の中。

真っ赤な血痕。

返り血を浴びた暗殺者(アイレン)が佇んでいた。


ザクッ……と、白い雪を踏みしめる音が闇の中に響き、アイレンがおおきく振りかぶって俺を捉えた。


「帰ろう」

俺は、肯定するでもなくかといって否定するでもなく彼女に声をかける。


その、声を聞き彼女の金色の瞳が一瞬揺らいだのが見て取れた気がした。


しかし彼女は

「今日も収穫が無かったの」

と。

一言だけ言葉を発し、魂の抜けた人物だったものの衣服を迅速に。

しかし、丁寧に剥いでゆく。

「収穫?」

初めて彼女から聞く言葉に俺は聞き返す。


「探している人がいるの。もぅ……何年もね。近づくために何か手がかりがあるかもしれないのよ。邪魔しないで」

その声はどこか虚ろいで。

儚げで。

でも、止めることは許されないような意志の強い声色。

彼女の金色の瞳と俺の緑色の瞳が交差した気がした。


その瞬間

「いつまでいるのよ。私の依頼者に見つかる前に早く帰って」

金色の瞳を鋭くし鋭利な刃のように彼女は俺に言葉を突きつける。


綿毛の用だった雪も、気が付けばナイフのように吹雪、舞い散る。


疑問点は沢山あったのだが

「大丈夫。誰にも言わないさ。ただ、寒いから早く戻っておいでね」

そう、言葉を投げかけて、俺はその場を後にした。


あの時引き留めればよかったのか。

依頼者とはいったい何なのか。

そして、彼女は一体誰を探しているのか。

そのことだけが、俺の脳内を支配した。


その後、帰宅したアイレンには暗殺者だった人物を探している。

と言われたのだ。

そして、その人物を自身の手で殺めると。



(また、アイレンの手が血に染まる……)

だが、それも彼女の人生だ。

俺が口出しするようなことじゃない。


ならせめて。

彼女が守られるように。

社会で生き抜く力を与えてくれる守護石ならばきっと危険も少しは軽減されるはずだ。


(祈りを込めるくらいしか……俺には出来ない)

当時を思い出し、俺は更に強く拳を握る。



そんな俺に、

「お客様……」

ケースの中に数点のジュエリーを持ってスタッフが戻ってきた。

俺はその中を覗き込む。


指輪にネックレス。


きめ細やかな装飾はさぞ、乙女心をくすぐるだろう。


でも

「できればシンプルなものを」

どれも彼女らしくないのだ。

凛とした彼女にはシンプルな物がいい。


顎に手をやり考えていると

「ではこちらはどうでしょうか」

そう差し出されたのは

「なるほどね」

俺は声が漏れる。


丸く整えられた透明度の高い小さなピアス。

「少々お値段の高い物になりますが……」

「値段は気にしていない。これはロードライトガーネットだね」

って、俺そんなお金なさそうに見えるのか……とガッカリしつつも、石の名を発す。


「よくお分かりで」

「この石が入っているものを俺も持っているので」

そう告げて、服の上から揺れるペンダントを触る。


翡翠が大部分を占めるペンダントだが、赤い装飾部はこのロードライトガーネットだ。



「ただのガーネットでなく、ロードライトガーネットの意味はご存知ですか?」

「………?」

俺は疑問符を浮かべスタッフを見返す。

「精神力の向上。また、潜在能力の覚醒といった意味合いがございます」

「潜在能力の……覚醒?」

首元にぶら下がる自身のペンダントにそこまでの深い意味はないのだろうが、俺は聞き返していた。


「そうです。……あと対人関係では…理想の相手を見つけるといったところでしょうか」

その答えに俺は

(理想の相手……近い将来俺がいなくなったとして……アイレンの仕事を知ったとき全てを支えてくれる人がいるならば)

俺はそう強く思い

「うん。ではやはり、このピアスをください」

そう告げて、この小さな丸いピアスを購入することを決めた。

(アイレンに素敵なパートナーが現れますように)

そう、願いを込めて。



◇◆◇◆◇◆◇


早いもので、ピアスを購入してから一週間が経過していた。


そう。

今日はアイレン・ストレシアの誕生日。


「さて、こんなもんでいいかな」

俺は掌を合わせ呟く。


いつも三人で囲むテーブルを今日だけはクロスをかけて、花を飾る。

毎年恒例だけれども、アイレンは気付いているだろうか。

今日は彼女の18歳の誕生日。

そして、このヘリクサムでは特別な誕生日であることを。


窓の外をみやると、

「そろそろかな」

夕日が優しく差し込む。


もうじき、広葉樹の葉は落ちて冬が来る。

(10回目のヘリクサムでの越冬……来夏にはシャルバラへ戻るべきだろうか。いくら、まだ父上が政治を握っているからとて……そろそろ頃合い……だよね)

白い雪はまるで粉砂糖のように、このヘリクサムの小さな町をデコレーションしてくれる。

そんな風景も、きっと今季が見納めだろう。



ヘリクサムは夏が短く冬が長い。

故郷(シャルバラ)へ帰るには短い春のさらに短い夏。

この頃が妥当だろうね。


俺は、考えながら一人宿の窓を開けヘリクサムの平和な町を見つめる。

(本当に、ゆっくりと時間が過ぎる町だよね。だから、マスターもゆったりとしているんだろうか)


そんなことを脳裏に過るが

(いやいやいや。マスターに限ってはマイペースなだけだね。さっきもバタバタと慌ててバースデーケーキを買いに行ったようだし)

胸中で否定し、俺は苦笑する。


なんでも、アイレンが幼少期に気に入ったケーキを毎年買いに行っているらしい。

(甘すぎないあの生クリームは、俺も好きだけどね。9歳くらいからしかアイレンのことは知らないしね)

少しだけ湿った気持ちを持ちながら部屋を見渡す。



今日のパーティを楽しみにしていたのは実はマスターかもしれない。

壁には手作りのガーランド。

花々も、マスターが選定していたことを考えれば相当なものだろう。


主役(アイレン)は、どこに行ったのか。

まだ帰宅してこない。

俺はふと自信を見下ろして

「………着替えておくべき……だよね?」

ラフすぎる姿に声が漏れる。



普段、手入れの行き届かないこの大きな尻尾は、大変苦手ながらにも、昨晩念入りにケアをした。

あとはこの普段着だ。

(俺の誕生日に買ってくれたものを)

そう思い立ち、自身の部屋に俺は戻る。


クロークを開け

「あったあった。勿体なくて着れなかったんだよね」

呟きながら、2月という自身の誕生日ぶりにそれを広げる。


それはアーガイル柄にさりげなく編み込まれた黒いニットのセーターだ。

「似合ってればいいんだけどな」

着替えた俺は、クロークの隅に隠しておいたプレゼントを確認して、部屋から出る。


すると、タイミングよく玄関の扉が開いた。

見慣れた赤い髪に

「お帰り」

俺は微笑んで声をかける。

そんな階段を降りゆく俺を見上げながら彼女が

「ただいま」

と挨拶してくる。

いつもと変わらない光景。

平凡で幸せな日常だ。


「今日何の日かわかってた?」

階段を降り終えた俺は、アイレンに近づき問いかける。

秋の匂いを纏った彼女は

「忘れてたわよ。今の今までね」

笑顔を見せてくれる。

(この稀に見せる笑顔が好きなんだよな)

なんて思いながら、俺はいつものように彼女の上着を受け取る。


「ありがと」

「どういたしまして」

俺はふざけながら、まだ綺麗な彼女の男を知らない処女耳に囁きかける。

「……ッ……ふざけないでよね」

ギリ。と俺の右手を瞬時に彼女はつねり金色の瞳で睨みつけてくる。

「痛いって。つねるなよ」

口を尖らせ抗議するが

「父さんは?」

質問し顔を背けられる。


しかし、その彼女の耳は外気温のせいなのか。

はたまた今の出来事でなのかは知らないが朱に染まる。


敢えてそのことに俺は触れず

「ケーキ買いに行ったよ」

つねられた右手をさすりながら答えると

「そう………」

一言声を発し、彼女は俺を見つめる。

「何?」

「……着てくれているんだと思って」

そう言い、俺が着ている服を指さす。


「今日は特別な日だからね。勿体なくてさっき初めて袖を通したんだけど」

「そんな大層なものじゃないわ」

「俺からしたら、大層なものなんだよ」

と、他意もなく答えると

「ぇ?」

「だって、俺のことを想って選んでくれたんでしょう?」

「ちがっ……自惚れないでよね!付き合いが長いから買ってあげただけよ!」

ふん。と背を向けてしまう。

「分かってるよ」

そう答えた時

「いやぁ!遅くなった!」

ガチャガチャと扉を開け、忙しなくマスターが帰ってきた。


「お帰りマスター」

声を掛けながら、俺は普段立ち入らない厨房へと足を踏み入れる。

「ただいま……っと、アイレンのほうが早かったか」

「さっき帰ってきたのよ」

アイレンが優しく答える。


「そうかそうか。じゃぁ、もうわかるな」

嬉しそうに、マスターが俺をチラリと見る。

それを合図に、俺は厨房へと隠していたクラッカーをマスターへ放る。


それをきちんとキャッチしたのを見届けて

「マスター!!せーの!!!」

声をかけ、クラッカーを思い切り引く。


パンッパンッ!

と、景気のいい音を立てクラッカーが弾け飛ぶ。

「18歳おめでとう」

マスターの低い声が響き

「パーティーの始まりだっ」

俺はアイレンに笑顔を向ける。


彼女は一瞬驚いた顔をしたけれど


「ありがとう」

照れくさそうに笑うのだった。

ご閲覧ありがとうございます。


そして、ブクマ登録、評価ありがとうございます。

大変励みになります。



重たい回になってしまいました(´・∀・`)


次回は緩い話です…

あぁ、こんな日常を過ごしていたのね。

と思って頂ければ幸いです。



次回更新

10月13日

21時頃

を予定しております。


どうぞ、引き続きよろしくお願い致します。

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