第1話
※ATTENTION※
この章は本編と違い
シズリー視点でのお話になります。
また時系列的には、今の時期から約一年前の秋のお話。
全8話で構成しております。
完全に私の息抜き章です。
どうぞよろしくお願いします
(………まだ、寝てるよね)
俺は、神経を集中させ隣の部屋に聞き耳を立てる。
時刻はお昼を回ったところ。
あと、数時間もすれば太陽は眠りにつき月が目覚める。
暖かい日差しも、もう間もなく冷徹なものへと移り変わってゆくこの時期。
早朝に起き、この宿の掃除をし、買い出しをする。
毎日変わらず……単調ではあるが俺にとっては大切な日々だ。
気が付けば、季節は夏から秋へと移り変わっていた。
単調な日々ながらに、時は過ぎ気が付けば俺はこの宿屋に10年近く厄介になっている。
隣室のアイレンは、昨晩仕事だったようで、買い出しを終えてからは自室にこもり寝たようだった。
(今日しかない……いや、今しかないね)
俺はそう思い、清掃用のTシャツから急いで着替える。
モスグリーンのパンツに足を通し、白いシャツの袖に腕を通す。
すると、コンコン。と部屋がノックされた。
「どうぞー」
俺は許可しながら髪を括る。
ガチャリ。
とドアが開き
「そろそろ行ってくるかい?」
ここの宿主、ルイ・ストレシアが顔を出す。
「うん」
俺は頷いて、ブラウンのジャケットを肘にかける。
そんな俺をマスターは頭から足の先まで見てくる。
「何?」
「いや?随分とめかし込んでいると思ってな」
無理もない。
普段は清掃用のTシャツにジーパンが基本スタイルの俺だしね。
寒くなってきた今時期は、ロンTにパーカーというラフスタイルが基本。
不思議に……
いや、からかわれても仕方がない。
でも、今日は少しだけお洒落をしてみた。
それは、
「流石にいつもの恰好じゃ行けないような所に行くからね」
そう答え、俺はマスターにウィンクする。
「………何を買う気なんだい?」
眉根を寄せ、マスターは俺に問いかける。
「それは、来週のお楽しみ」
微笑むと
「それもそうか」
とマスターは納得した。
「マスターこそ何をあげるの?」
俺の疑問に対し
「それは秘密だな」
と、含み笑いをしてくる。
一遍、人のいい笑顔。
なのだが……腹に何か抱えていそうだなって思っているのは俺の秘密ごと。
聞いたところで、きっとはぐらかされるに決まってる。
「被らなきゃいいけどね」
そう告げて、俺は軽快に階段を降りる。
「気を付けてな」
「うん。行ってくるね」
軽く挨拶を交わし、俺は宿屋を後にした。
そう。
隣街に大切な人へのプレゼントを買いに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺はヘリクサムの隣街、といってもゲラタムとは正反対の東側に位置する【リジア】に足を踏み入れていた。
ゲラタムのように、門番がいるわけでもなく。
すんなりと足を踏み入れる。
このリジアは若い世帯の住宅が多いため、人々が賑わう。
その分商業施設も多い。
ヘリクサムは、閑静な住宅街。
いや、子育てをひと段落した世代が集まるようなそんな町。
(ほんの少しだけ、リジアの方が時が進むのが早い気がする)
そんな街だ。
そして何より、リジアはゲラタムほど距離も無くアクセスしやすい。
その為かヘリクサムの住人は、このリジアという街によく出向くらしい。
(えーと……)
俺は辺りを見渡しながら歩みだす。
目的の場所は、書籍で調べた程度だったが、俺はすぐに見つけることができた。
真っ白な外壁に、花びら模様。
「みつけた。どうやらココみたいだね」
外壁には黄色い文字で『マーガレット』と記されている。
男だけで入るには少しだけ勇気が必要な外装を一瞥して、
(さて、入りますか。ジュエリーショップ)
一つだけ深呼吸をして、入店し辺りを見渡す。
内装は、外装と違いブラウンを基調とし、様々なジュエリーが厳かに陳列していた。
(なんだ。意外と男が多いね)
店内の人間だけでなく混合種の男性客も何人かいることに安堵すると共に
(花言葉が真実の愛っていうだけあるのかな)
マーガレットの花言葉を俺は思い出す。
男性客の中でも、やはり目が行くのは同じ混合種だった。
プロポーズなのか。
真剣にリングを選ぶ姿を見て
(寿命も大きな差。そして何より人間との交配は無理なのにね。だからこその……真実の愛……か)
なんて他人事のように思いながら、ショーケースの中を覗く。
そんな俺に
「何をお探しですか?」
人のよさそうな女性スタッフが声をかけてくる。
「プレゼントを」
俺の一言に
「再来月でクリスマスですものね。ご準備は早目がいいですわよ」
「……えぇ。でも、ご想像しているような関係では無くて……」
俺は困った顔で答える。
勘違いされては困るからだ。
「では、どのような方に?」
「お世話になっている方の娘へ。来週11月7日はその娘さんの18歳の誕生日なんです」
間違ったことは何一つ述べていない。
10年も世話になっている。
そして18歳と言えばもう、いい女性だ。
しっかりとしたジュエリーの一つくらい持っていても困らないだろうと俺は思ったのだ。
(俺は、他の混合種のように愛の告白なんてしない。出来やしない)
困らせることを分かっているから。
胸中で呟いて俺は微笑む。
きっと混合種でなく……
いや、せめてシャルバラを統治するリー家の息子でなければ違ったのかもしれないけれど。
帰ったら、相手にするつもりのない、沢山の側室もいる。
大きな権力争いに巻き込むつもりも無い。
ましてや、人間が異世界に行くこと自体出来ないんだ。
考え込む俺に
「素敵なものをご用意しましょうね」
スタッフが微笑んでくれる。
その微笑みに
「えぇ」
と一言俺は頷く。
「石とか入っている物がいいですか?」
「そうですね。出来ればガーネットが施されているものを」
俺の言葉に、少しだけ驚いた顔をして
「11月がお誕生日ですのに、1月の誕生石で宜しいので?」
命の危険と隣り合わせな暗殺を仕事にしている。
とは言えるはずもなく
「ガーネットは『社会で生き抜く力を与える』ですよね。将来へのお守りみたいな意味合いで。何より赤い髪をした娘なのできっとガーネットが良く似合う」
言葉を選び紡ぐ。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
スタッフが頭を下げ、店の奥へと入っていくのを見送り、俺は小さく拳を握る。
(本当は辞めてほしいさ)
だからこそ、仕事を終えた彼女に俺は『鉄の匂いがする』と警告するようにワザと近づく。
その度に、嫌そうに舌打ちされるけれど。
命の危険と隣り合わせなんてしては欲しくない。
血に汚されていく彼女を見たくはないのが本音だ。
出来れば笑っていてほしい。
(でも……そんなもの俺の自己中心的な考えだ)
俺は瞼を閉じ、昨年の冬を思い出す。
気が付けば、もうその日まで残り数カ月。
俺は、彼女の仕事現場を目撃した日の事を思い出していた。
2.5章始まりました。
ご閲覧ありがとうございました。
さて次回更新は
10月9日
21時を予定しております。
どうぞ、よろしくお願いします




