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第21話



「さて、お仕事のお話はここまでにしましょう」

ハーフアップに結いつける髪を揺らし、フルネルは立ち上がり、彼女の耳に付いているパールのピアスも同時に揺れる。

「……何をされるおつもりで?」

彼は椅子に腰かけたまま、立ち上がった彼女を見つめあげる。



主人(カスール)は寝ております」

ふふふ。笑みを湛え彼女は口元を手で覆う。

「顔を出さないところそうかなとは思っていましたが………とりあえずはその笑顔に嫌な予感しか感じないのですが?」

口元をひきつらせシズリーは問いかける。



フルネルの表情が、新しい玩具を見つけたような笑みだからだ。

「そんなに警戒されなくても平気ですわ」

「……?」

「私が個人的にお聞きしたいことですもの」

「聞きたいこと?」

シズリーが問いかけると

「単刀直入にお聞きしますね。アイレンがお好きなの?」

そう言い、彼女は座ったままのシズリーの肩に手を置く。


少しの間が二人の間を巡り

「………突然何故、そのようなお話に?」

「先程の、バルでお二方を拝見した際に、柔らかい雰囲気でしたので」

優しい笑みを湛え、彼女はシズリーを見る。



「あぁ。あの時は酔いが廻っていましたから」

シズリーの返答に彼女が満足するわけでなく、

「……異世界(あちら)で数多の女性に一線を置いてらした……同性愛者の疑惑まで出ていた貴方らしくないですわね」

言葉を放つ。


その答えに、シズリーはほんの少しだけ面倒くさそうに一つだけため息をつく。

「……あぁ、あれは義務みたいなものですから。それにその同性愛者の疑惑ってラビットしょう?それにアイレンはあくまで……」

言いかける彼の言葉を

義父(ジェイク)さんの娘としてしか見ておられない?恋心は皆無だと?」

遮り、水色の瞳で緑色の瞳を捉える。


「……勘違いですよ」

「……貴方が、リー家のご子息だから、我慢なさっているの?」

その言葉に、シズリーの瞳が鋭くなる

「リー家は関係ない。彼女は、妹のような存在ですよ」

そう答え、シズリーは顔を背ける。



しかし、その背けた彼の顎をフルネルは指先で捉え、自身へと向き合わせる。

「それだけ、貴方になくてはならない存在なのでは無くて?」

「御冗談を。俺が、何者かは貴方たちはご存じでしょう?」

笑みを浮かべ、彼はフルネルの手を優しく退ける。


「えぇ。シズリー・リー。異世界のペンダントを後継し、守りし者。……そして」

続きを言う彼女の口元に、シズリーが人差し指をあてがい立ち上がる。



「そこまでご存じならお分かりですよね。俺は、恋愛なんて陳腐なモノをしていい存在ではない」

そんな彼の手を取りフルネルは問う。


「なぜです?貴方のご両親は恋に落ちた。そして貴方が居る。代々、きちんと継承されたからこそ貴方が存在しているのですよ?」

「父は……いや、リー家の先祖の者たちは皆成功者だ。俺が成功するはずもない。それに……こんなペンダントの継承は俺までで充分ですよ。他に犠牲者なんていらない」

「それは、ハリス様の件があるからでしょうか」

亡き親友(ハリス)の名に、シズリーの表情が一瞬強張り黙り込む。


「………」

「成功するには…そのペンダントを不完全なものから、完全なモノへとしなければならないからでは?」

「……不完全?コイツが?」

そう言って、シズリーは胸元に揺れる、天眼石(アイアゲート)が埋め込まれたペンダントを取り出す。



「ぁら?ご存じありませんでした?」

「そういえば、先刻カスールから聞きました」

「では知っているでしょう?」

「……異世界(あちら)でラビットに聞けと」

「コニーロさんに?」

その質問には答えることもせず、シズリーは椅子へと座りテーブルに突っ伏す。

「運命は残酷ですわね」

そう言いながら、彼女はシズリーの手を優しく包む。

(コニーロ)の貞操の件の運命なのか

はたまた己の立たされている運命なのか

彼は

「……そうですね」

か細い声で答える。




「ですが、その運命。ご自身で解決されようとしているのでしょう?」

「……何でも御見通しですか」

参ったな。と付け足して、彼はため息をつく。



「主人から聞きました。また、異世界(あちら)に秘密裏に戻られると。それって、そのペンダントの事もあるからでしょう?」

その問いに一つだけ頷いてシズリーは

「シーク・ドールの狙ってくる理由はこれですからね。まぁ……リリアにはさっき接触してしまいましたが」

バツの悪そうに彼は呟く。



「………アイレンは、そのこと知っておられるの?」

「ハリスの事は伝えましたよ。ただ……本当は俺一人で解決したいんですよね」

「そのような答えなのに、彼女を連れて行くのですか」

そのフルネルの質問に、眉根を垂らして

「困ったことに付いて来たんですよ。本当は、ハリスの事も話すつもりも無かった。あくまで、俺は異世界の者で、彼女は人間。ゆくゆくは、人知れずあの宿も出ていくつもりでしたから」

「……ですが」

「まぁ、付いてきてもきっと彼女は異世界(こちら)には来れない。好きにさせるつもりですよ」

「その現実はアイレンは知っておられるのですか」

「ヘリクサムを出たときに、道中で伝えてありますよ」

義父(ジェイク)さんの件は?」

「……そのうちにね」

そう答えて彼は、部屋を出ていこうとする。



「シズリー様お待ちください」

フルネルは呼び止める。

「何か?」

「明日からのご予定は?」

「明日は、祭典に出席。明後日の朝一で、ここゲラタムを抜けます。そして南西へ。山麓を抜け……例の湖へ」

彼は淡々と説明する。

「……明後日の夜……いえ明々後日の真夜中……」

フルネルが呟く

「それが何か?」

「満月の夜ですね」

その答えに、シズリーの耳がピクリと動く。

「なぜ、今そのことを?」

「主人に伝えるためです。転送には我々……主に彼の力が必要不可欠でしょう?」

「残念ながら、ポーターを使うつもりはありませんよ」

「いいえ。ここは一つお任せ願えませんか。何、細工の一つや二つお任せください」

彼女の力強い答えに拒否権が無いことを悟った彼は

「お手間を取らせますね」

「いいえ。ポーターの権力者としてシズリー様を御無事にお届けするよう存分に言い聞かせますから」

ニコリと笑うフルネルに、頬を引きつらせるカスールの表情を思い浮かべ

「お手柔らかに」

シズリーはほんの少しだけ、哀れに思う。

「もちろんですわ」

柔らかく、フルネルは笑う。


「さて、俺はお暇しますよ。夜分に押しかけて申し訳なかった」

そう言って、彼は外へと続く扉を開ける。

「こちらにお泊りになられてもいいんですのよ?」

「いいえ。宿に戻りますよ」

そう答え、彼は月光に尻尾を煌めかせ外に出る。



「お気をつけて」

フルネルは深々と頭を下げ、彼を見送る。

そんな彼女に向かって彼は突然振り返り

「顔をあげて。これだけ伝えたい」

「……っ……」

頭をあげたフルネルは思わず息を飲む。


月光を背に浴びるシズリーがどこか神々しく。


挿絵(By みてみん)



人間には到底近づくことの出来ぬ存在に感じたからだ。


ほんの少し開けて、彼女は問いかける

「なんでしょうか?」

「その……アイレンの前では様付け、辞めて貰えますか?」

彼は眉を垂らし、困った顔をする。

夜風にフルネルは青い髪をなびかせながら、首を横に振る。

「カスールにも言われましたが……ペンダントの継承者。そして何より異世界(シャルバラ)の皇帝陛下のご子息。シズリー・リー…貴方への敬意ですので」

と、異世界(シャルバラ)の次期皇帝。


シズリー・リーを見据える。

その水色の瞳を捉えながら

「カスールは『様』なんて堅苦しいことしてないですよ」

彼は肩をすくめる。


「主人は、ポーターの権力者。異世界(そちら)にとって偉業をなし得た人物の息子。現皇帝陛下がお許しになってのことです」

「ぇ?父上と仲いいんですか?」

意外そうにシズリーは問い返す。


「えぇ。皇帝陛下のお力が無ければまず、貴方を秘密裏に人間界に来させるなんてことできませんから。……これでも、一応仕事は頼りがいのある男です」

珍しく、カスールを褒めるフルネルに

「それ、本人に言ったことは?」

シズリーは意地悪に問いかける。

「いう訳ないじゃないですか。調子に乗るなんて目に見えております」

キッパリと言い放つ彼女に

「ですよね」

と答えると

「……それで?いつまでアイレンに隠し通すおつもりで?」

「え?」

「『様』付けを辞めて差し上げると言っているのです」

「………」

瞳を大きくし黙る彼に

「……あら?やはり『様』は付けた方がよろしくて?」

「いやいやいや!助かります」

「……いずれは知ることになりうるんですよ?」

フルネルは水色の瞳で、彼の瞳を見据える。


「分かっている。その時は腹をくくるよ。それに…万が一異世界(シャルバラ)に来られたらいやでも目に入る」

「……事前に教えては差し上げないのですね」

「……伝えたさ。でも…きっとあの子は冗談だと思っている」

先日野宿した時にチラッと本性を伝えたことを彼は思い出す。


(それなら、その時まで知らない方がいい)

胸中で付け足してシズリーは俯く。

「アイレンも…随分罪作りね」

「え?」

「いいえ。コチラの話です。さ、シズリー『さん』そろそろ、行かれては?」

「………そうだね。ありがとう。俺の我儘を聞いてくれて。おやすみ」


そう言って、彼は尻尾を揺らし、夜のゲラタムの街へと消えていった。

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