第20話
叫ぶアイレンを余所に彼女は意外そうな顔をして
「10年も同じ屋根の下でさ、とっくに見せ合っているような関係じゃないの?」
「見せ合っ……!?」
顔を火照らせ、アイレンは言葉に詰まる。
「そんなわけないよ。彼女は家族同然だ」
シズリーは否定の言葉をサラリと放つ。
既に衣類はいつものように整えられ、彼は動揺するそぶりもない。
彼の言動に、アイレンは胸の奥に違和感を覚える。
「そうなの?」
チリンッ。と、鈴を鳴らし、リリアはオッドアイの瞳でアイレンを見る。
「そうね。家族ね」
アイレンは答えながらも
(……この違和感は……?まさかね)
胸中で疑問符を浮かべ、その答えを打ち消す。
立ち尽くすアイレンとリリアを交互に見比べて
「じゃあリリア、君に一つ質問」
「何?」
「それこそ、あのヒヨッコと君はそういう仲なのかな?」
「ヒヨッコって、テアちゃんのこと?」
リリアの質問にシズリーは一つだけ頷くと
「テアちゃんとはそんな関係なわけないじゃないよっ」
リリアは目を丸くして答える。
「だろう?やたらむやみに人の関わり方を詮索するものじゃないよ」
そう言って、彼はツインテールの頭を、ポンッ。と一度だけ手のひらを乗せる。
「子ども扱いしないでくれる?」
「………あぁ、失礼。ところで……」
シズリーは、声のトーンを変え緑色の瞳でリリアを見据え言葉を続ける。
「君は一体なんの用事があるのかな?」
薄暗い部屋の中に月光が降り注ぐ。
「そうよそうよ。その話だったわ!!えっとね、シズリーには用は無いんだー。だから出て行って♡」
彼女はウィンクする。
「いや、出ていかないよ。俺達の部屋だ。………アイレンに色々なことを吹き込んだのは君だろう?」
「やだぁ~。怒ってるの?意気地なしのシズリーの為に話しただけだわ。だって、当事者が知らないなんて酷じゃない」
「タイミングっていうのを知らないのかな?」
「うるさいなぁ……小汚い犬っころのくせに」
リリアは口を尖らせボソリと呟くが、シズリーにははっきりと聞こえていた。
「………ロリババァ」
「ババァッ!?」
ツインテールを揺らし、彼女が激昂を表に出したその時
「……今回の事はシズリーも知っておいていいと思うの」
アイレンがボソリ。と呟く。
「ぇ!?なんでよアイレン!!」
意外そうに、そしてほんの少し不服そうにリリアが叫ぶ。
「………コチラの事情よ」
そう言い放ち、アイレンはベッドへと腰掛ける。
「事情?」
「そう。貴方たち、シーク・ドールが何か事情があるように私たちにも事情があるのよ」
そう、神妙に答えるアイレンに対し
「………アイレン。ガウンのウエストもう少しだけきつく締めた方がいいと思うよ」
アイレンを見下ろす形でシズリーは彼女が素肌の上に羽織るガウンを指さす。
「………?」
眉根を寄せ見上げる彼女の前に立ち、流れるようにひざまづき、
「……頼むから理解してくれよ……。控えめなものが見えそうなんだ」
彼は視線をずらしながら彼女の襟ぐりを合わせる。
「……ッ……!!」
「大丈夫。見てないよ」
と一言発し、彼はその場から興味なさそうに立ち上がる。
そんな彼に対し
「シズリー、もしかして私くらい大きい方が好きなの~?触っとく?」
胸元に揺れる脂肪を中央に寄せ、リリアがウィンクする。
「……どうせ私は小さいわよ」
チッ。と舌打ちし、アイレンは襟ぐりを強く握りしめる。
両者の胸元を交互に一瞥した後
「リリアほど大きいと最早邪魔そうで好みじゃないな。だって、胸って脂肪だろ?」
「何よそれー!!これでも需要あるんだからね!?」
リリアは声を荒げるが
「そんなこと言われてもな……」
困った表情を浮かべ、彼はアイレンの隣へと腰掛ける。
そして
「……どちらかと言えば、俺は手の平から溢れ出るよりも、収まる程度の方が……というか、感度良好なのが好みなもんでね」
「感……ッ」
思わず零れだした自身の口元をアイレンは押さえる。
「………アイレンはあれだよね。収まると言っても……うん。手のひらに収まりすぎるよね」
そう言いながら彼はアイレンの控えめなモノに触れる。
その様子を見てリリアは
「ぁ~アイレンは小さすぎるわねー」
腰に手を当て可哀想なものを見る目になる。
「だろう?どうする?俺が大きくしてやろうか?」
手をワキワキとさせ、シズリーは問いかける。
その姿にワナワナと震えながら彼女は
「やっぱり出ていきなさいよ!!!!こんのエロ犬がぁ!!!」
バチーンッと景気のいい音をさせ、彼の左頬を叩いたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
アイレンの渾身の一撃で、左頬にもみじ模様を付けたシズリーに
「あらあら。それでこちらにいらしたんですね?」
クスクスと笑い、丸いテーブルの上に紅茶を差し出したのはフルネル・マトラー。
「………情けない話ですけどね」
彼は出された紅茶に口を付ける。
レモンの輪切りが月のように揺れる。
「でも、心配じゃありませんの?シーク・ドールといらっしゃるんでしょう?」
「いや、今日は大丈夫でしょう。きっと仕事の話だ」
「きっとって、随分と曖昧ですわね」
「まぁ、俺に用が無くアイレンに用があると言っていたので」
シズリーの言葉に
「まぁ、彼女も弱くは無いですしねぇ」
「此処に向かう道中で、本人自体がライアとも接触しているようですし……ぁ、来てからもか」
彼は思い出したように言葉に付け加える。
「……ライア?」
フルネルの質問に一つだけ頷いてから
「依頼者だと。夕方彼女から聞きました。そして……アイレンに暗殺を教えた人物」
シズリーの大きな耳が動く。
「断定的な彼女の答えがあったんですね?」
「えぇ。カスールには説明していました」
バルで発言していた言葉を思い出し、シズリーは唇を尖らせる。
「あらあら。シズリー様は直接お聞きにならなかったのですね?」
「えぇ。まぁ。でも本人は言った気になってるでしょうね」
「どういう意味です?」
「ライアの名前を出して聞いたんですよ『一体何を習ったのか』ってね」
シズリーは、アイレンの喉元にナイフを当てたことを思い出しながら答える。
「そうしたらアイレンは何てお答えになられたの?」
「人の殺し方。そう答えました。きっとアイレンは気付いていないでしょう。隠していたことのようなので、黙っては置きますけどね」
彼から笑みが零れる。
大きな尻尾が、嬉しそうにゆっくりと揺れ動くのを見て、フルネルは水色の髪を揺らし、彼に向かい合うように座る。
「他に何かありました?」
怪訝に思いながらも彼は
「リリアに対し、アイレンは俺が同席するよう話してましたね。……まぁ、おおかた仕事の事だと思いますけどね」
と答える。
「明日……?」
「らしいですよ」
と、シズリーが答える。
その答えに
「なるほど…それならきっと、ソイド・カルーシャの御屋敷に用があるんだわ」
神妙にしかし、納得したようにフルネルは呟く。
『ソイド・カルーシャ』という人物の名に
「………それでか」
シズリーも納得する。
「ご存知のようですね」
フルネルの言葉に頷いて
「……人型精霊の捕獲……捕獲した彼らを5年に一度祭典での見世物に……競りに出す……その計画の張本人ですよね」
ギリ……と彼は己の手のひらで拳を作る。
「シズリー様は以前、その競りを拝見されていますものね?」
「えぇ。10年前、ルイの所に転がり込む前に」
彼は当時の事を思い出す。
「明日は誰と行くんですの?アイレン?あら?でも……」
「行きたいのは山々ですが、彼女が仕事なら無理でしょうね。考えておくとは言われましたけど」
シズリーは苦笑する。
そんな彼に
「ソイドは……今、私達の中で怪しまれている人物です」
フルネルは小声になり、水色の瞳を光らせる。
「………お聞きしても?」
「シズリー様ならよろしいでしょ。…お耳を貸していただけて?」
と言いながら、フルネルは相対する彼の首に腕を回し引き寄せる。
そして
「ソイドは、シーク・ドール精製に加担しているという疑惑が」
「………!?」
シズリーの緑色の瞳が大きく開かれる。
「あら、知りませんでした?」
「人型精霊を捕獲するだけでなく……シーク・ドール精製の……加担……?」
シズリーは眉根を寄せる。
「ソイド・カルーシャは、己の精子を提供しているようです」
「それって」
「えぇ。もし真実ならシーク・ドールの生成に大きく関係していること間違いなしですわ」
「……どういう手法でそこまでの情報を?」
彼女は、彼の耳元から唇を離し
「何もポーターは異世界の物の買い付け、混合種を転送させることだけが仕事じゃないんですのよ。10年前のゲラタムでのシズリー様のお相手も……」
「あれ?俺一夜限りの相手って話しましたか?」
彼の質問に、フルネルは微笑を浮かべ
「壁に耳あり。障子に目あり……というでしょう?」
ニヤリと彼女は口の端をあげる。
「……どこまで、何を知っているのですか」
「さぁ。どこまでかしら」
人差し指を口元に持っていき、彼女はワザとらしく天井を見上げる。
「本当に、貴方たち、ポーターには頭が上がらないな」
シズリーは尻尾を垂れ下げ、彼女らに敬意を払うのだった。
約一か月ぶりの更新となりました。
大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
ちょっと息抜きに書きたかったお話でした。
次回更新
9月23日土曜日
21時
を予定しております。
どうぞ引き続きよろしくお願いします




