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第3話

挿絵(By みてみん)



 アイレンたちが一階へ降りると

「おはよう二人とも。ご飯食べるだろう?」

 出来てるよ。と二人を促しカウンターへと座らせる。

 カウンターテーブルには淹れたてのコーヒー。

 そして、ハムとチーズを挟んだホットサンドが、温かい湯気と共に香りを運んでくる。

「いい香りだね!今日はグァテマラ?」

 香りを二人の鼻腔をかすめ、クンクンと鼻を動かして、シズリーは嬉々とし尻尾を振る。


「よく分かったな。少し苦味を強く出すよう焙煎してるから、好みの味に調整しなさい」

 言いながら、角砂糖とミルクをシズリーへと渡す。

 そんないつもの平凡な日常を見つめながら

「おはよう。父さん」

 彼女は軽く挨拶を済ませ、シズリーの隣のカウンターチェアに腰掛ける。


「ん。おはようアイレン」

 眠れたかい?

 と言いながら、彼は厨房の冷蔵庫から二人前のグリーンサラダを取り出し、目の前へと運ぶ。



「眠るも何も、無理矢理シズリーに起こされたわ」

 ハァ…とため息をついて角砂糖を一つだけ入れたコーヒーを口に含む。

 コーヒーの苦味が彼女の脳をゆっくりと覚醒させていく。


 それを横目に見ながらルイは、

「……遅かったんだって?」

 咎めるでもなく、ただ素朴な質問といったところか。

 ほんの少しだけ、眉間に皺を寄せ聞いてくる。


「…まぁね」

 素っ気なく答える彼女に対し、顎に生えた髭を触りながら

「女の子なんだしあんまり遅いのは感心しないな」

 と、ルイはぼやく。

 その言葉に

「次から気をつけるわよ」

 バツの悪そうに、ホットサンドを頬張るアイレン。



 まるで、親子のような会話だが、二人は実の親子ではない。



 そんな、二人の会話を聞いて

「…アイレンってさぁ、マスターの前だと素直だよね」

 シズリーが、緑色の瞳を向け意見を述べる。

「どういう意味?」

 モゴモゴと、口に含みながらアイレンが聞き返す。


 そんな彼女ににシズリーは

「羨ましいと思ってるんだ」

「はぁ?」

 彼女は眉根を寄せてしてシズリーを見る。

「昨年の秋。アイレンが18歳になった日に養子だと聞いたけれど、二人は親子なんだなって思うよ」

 彼は少しだけ切なげな表情を見せる。



「あぁ、このピアスホールを開けてくれた時ね」

 そう言って、アイレンは髪に隠れている、左耳の軟骨に光るリング型のピアスのみを触る。

 18歳の誕生日、彼女はルイからこのピアスを貰った。

 そして、触れることはしないが、両耳たぶには、彼女の髪よりも深い赤が輝く。


 透明度が高く濃い赤色のロードライトガーネットのピアスだ。

 パッと見では、ピアスは髪に隠れているため分からない。

 しかし、彼女はこのピアスを毎日付けている。


 処女耳だった彼女は、ピアスホールを開ける勇気がなかった。

 しかし

(どうしても自身の為に用意されたこの三つのピアスを身につけたかったのよね……)

 彼女は胸中で呟いて、湯気が上がるコーヒーを口に含む。

 そして、赤いピアスを選んでくれたシズリーに頼んだということを思い出していた。

 そんな彼女の様子を見て

「そう。3個も一気に開けた日だよ」

 クスッと笑う。

 その、微笑みに対し

「あれは鬼畜だったわ…」

 痛みを思い出しゲンナリと、彼女は毒づく。


 苦い顔を見せる彼女に優しく微笑みながら

「まぁ、そんな2人の間に10年前突然転がり込んできた俺を居候させてもらえるだけ有難いんだけどね」

 遠慮する部分はあるよ。と付け足し彼ははレタスにフォークを刺す。


 シズリーが、彼らの目の前に現れたのは10年前。

 そして、彼女の話によればその3年前、まだ彼女が5歳になったばかりの秋。

 アイレンは孤児院から養子としてルイに引き取られたという。


「シズリー…今からでも養子にくるかい?息子が増えるなんてありがたい」

 垂れた目は優しく細められ、ルイが口を開く。

 その横で

「そーよ。そこまで言うなら養子になればいいじゃない」

 アイレンが賛同するけれど、

「そしたら、俺が兄だけどそれでいいの?」

 とシズリーは意地悪な顔をしてアイレンに問う。

「シズリーが兄ぃ?」

 ゲェ。と彼女はワザとらしい嫌な顔をする。


 そんなアイレンを見て、クスリとしながら

「冗談だよ。混合種の俺を養子になんて、手続きが面倒なだけだ。夫婦ならいざ知らず。俺はただの居候だからね」

 レタスにフォークを刺す度に、パリッと音が響いては消えていく。


 その返答に

「また、そんなこと言って」

 ルイは少し困った顔をする。

「それに、二人には黙ってたけど混合種の俺はいずれ……家へ帰らないとね」

 少し寂しそうな笑みを零し、カウンターチェアーからシズリーは腰をあげる。


 大きな尻尾がふわりと揺れ動く。

 その揺れる尻尾を見たあと、アイレンは緑色の瞳を見ながら

「家?」

 眉根を寄せて、隣に座る混合種に問いかける。

「ぅん?だって、俺もともと此処の住人じゃないよ?」

「そんなの知ってるわよ」

「じゃあ……」

 と、言いかける彼の言葉を遮り

「私、ずっとこのまま貴方は此処にいるのかと……」

 呟く彼女の言葉を遮るように

「さて…と!俺の話はおしまい!ほらアイレンさっさと、食べなよ。掃除しないとね」

 と言い残しシズリーは席を外す。


 カウンターには、物言いたげなアイレンと、全てを知っているかのような顔をしたルイが取り残されたのだった。

次回第5話

1月21日18時公開です。

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