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第16話



「なんて言えば……カスール。貴方が納得するのか分からないのだけれど」

彼女は時間を稼ぎながらそれらしい答えを探す。

「……難しく考えなくていい。アイレンの話なら受け入れる。話して」

カスールは煙草を咥えながらゆっくりと彼女の言葉を待つ。



「シズリーを探していた二人組の内1人と、私に仕事を教えてくれる人物とさっき会ったのよ」

「仕事?」

「………大きな声で言えないけれど…暗殺を」

アイレンは声を小さくし答える。


その答えに咎めるでもなく、驚いた顔もせずカスールはただ先を促す。

「………それで?」

その促しに

「……そこで、ジェイクさんの事を吹き込まれたらしいんだ」

はぁ……とため息をつきシズリーが答える。


「その探していたっていうやつは先刻店内で話していたやつらか」

「ご名答。乳の大きな娘とヒヨッコ」

ウィンクを一つする。


「男のウィンクほど気持ち悪いものはねぇな」

そんな二人のやり取りを一瞥して

「ジェイクが故人だと知った私は、取り乱してね……シズリーからこの市街(ゲラタム)に貴方がいるから会いに行こうと言われたの」

「それで、アイレンは納得してんのか?」

カスールは問いかける。

「納得?」

「ジェイクが故人であるのに、黙られていたことさ」

「……それは……」

言葉に詰まる彼女に


「まぁ、時期はどうあれ俺はアイレンに会えてとても嬉しいけどね」

嬉しそうに溶けるとはこのことかというくらいの笑みを見せる。


そんな彼に頬を引き攣らせながらも

「その初対面に、突然抱きついてくる人が兄だと知った。という私の心境を聞くつもりはあるのかしら?」

胸の前で腕組みしアイレンは問いかける。


「無いかな」

「あっそ」

と彼女が吐き捨てると

「………親父のこと…」

神妙な面持ちでカスールは呟く。

(なんだ…真面目な顔もできるんじゃない)

真剣な表情に安堵したのも束の間

「大好きで可愛いアイレンを目の前にすると緊張しちゃって」

真面目だった顔は一変しヘニャラ…と緩みきった顔になる。


(前言撤回……)

半眼になり彼女は心の中で思った時



「大変お待たせいたしました」

生ビール2杯とサングリア。

そしてチーズの盛り合わせとピンチョスが運ばれてくる。


「まずさ、難しいことは考えるの辞めて、食べようよ」

シズリーが食事を促す。

「誰のせいだ。誰の」

というカスールの声と

「お腹すいてるだけでしょ?」

半ば呆れ問いかけるアイレンの声。

二人の問いに対して

「まぁ、そうなんだけど……ん!!ほらココのチーズうまいって!!」

シズリーはチーズに噛り付く。


その様子を見て何かを諦めたアイレンは、運ばれてきたサングリアを一口運ぶ。


芳香なワインの香りと爽やかな柑橘の香りが鼻から抜ける。

「ん……」

思わずアイレンは声が漏れる。

「おいしい?」

シズリーが問いければ

「まぁね」

とアイレンは軽く相槌を打つ。

そんな二人のやり取りをカスールは黙ったまま見つめ……

(どこから話せばいいんだろうな)

一人煙草を咥え思案するのだった。






◆◇◆◇

気が付けば、全員がグラスを開けていた。

そして、アイレン以外は既に何杯のアルコールを摂取したのか定かでは無い。


異世界(シャルバラ)でのことはシズリーに聞いた方がいいだろう」

カスールがゆっくりと口を開く。

異世界(シャルバラ)のこと?」

「そうだ。俺らの父、ジェイクは人間界と異世界を行き来していた。つまるところ、二つの顔を持つ」

「二つの……顔……」

「俺が教えられるのは、人間界での運搬屋(ポーター)であり暗殺者ジェイクのこと。ポーターとして育て上げられた俺のことくらいだ」

カスールは気分転換に、ビールでは無く白ワインに口付けていた。

ほんの少しワインの入ったグラスを揺らしアイレンを見据える。


カスールの言葉にアイレンは

(………異世界までシズリーといていいって意味……よね?)

離れなくていいという意味にとらえ彼女は密かに安堵する。


そして

「私は、ジェイクが暗殺者として生き…殺されたことしか知らない」

アイレンの瞳と、カスールの瞳が交差する。


「そうか。じゃあまずは俺らが産まれた時から話すのがよさそうだな」

「俺ら?」

アイレンは疑問符を浮かべる。

「……そう。俺らはな、二卵性双生児だ」

「……な……双子ってこと?」

アイレンは困惑する。

兄と聞いていた人物は、確かに兄なのかもしれない。

しかし、同い年である事実。

そして、片や暗殺行業を生業とし、兄であるカスールはポーターの権力者という天と地の程もある生い立ちに嫉妬すら覚えたのである。


どちらの職業も共通点を挙げるならば、人目に気付かれないよう遂行することだろうか。

なにより、彼女と背格好や髪色までが違うのだ。

彼女自身の背の丈は160センチにも届かないと言うのに、この兄はシズリーの身長をも超える。

推定185センチ前後というところか。

その困惑に対し、カスールは的確に答えを返す。


「一卵性でなく、二卵性だからな。似てなくて当然だ」

そう言いながら彼は煙草に火をつける。

「双子という事実を知らなくても無理はない。別々の孤児院。なんなら訳合って出生日まで違う。ルイ・ストレシアのことだ。何も話しちゃいねぇだろ」

そうカスールは答える。



アイレンは言葉の意味を理解しようと努力しながら、カスールの手元から登る紫煙を黙って見つめる。



「一組の夫婦に、俺たちが産まれることから始まるんだ」

カスールは煙草を吸い、ほんの18年前という昔話を始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほら!頑張って!!」

それは、満月の明るい18年前の秋の夜。

予定日よりも2日早く、二つの命が産み落とされようとしていた。

額を汗で滲ませ。


彼女は息も絶え絶えになりながら

「ジェイクッ……」

愛おしい人の名を叫び呼ぶ。

「大丈夫。大丈夫だ」

汗ばむ手を握りしめ、ジェイクは愛おしい人の黒く長い髪の毛を撫でる。



部屋の中には、秋の月明かりが差し込んでいた。


日付が変わろうかという時刻。

2つの産声が部屋中に響き渡る。

「お疲れ様でした!ステラさん!元気な男の子と女の子ですよ!」

そう言って、助産師は母になったステラに声をかける。


この小さな命こそ、後のカスールとアイレンである。

しかし、この助産師の言葉に反応を示したのは

「男の子と……女の子?」

此度、父になったジェイク・マトラーである。


呆然とする彼に

「二卵性双生児……なんですって」

お産で体力と言う体力を使い切り、息も絶え絶えにか細い声で彼女はジェイクへと告げる。

「まさか……そんな……」

金色の瞳を丸くして、彼はステラへと向き合う。

「お腹の大きさで分かるかと思っていたけど……やっぱりね」

クスクスと笑いステラはジェイクを見つめあげる。


呆然とする彼を余所に

「抱っこしてあげてくださいね」

助産師はそう告げて、産湯を浴びた赤子二人を夫婦の元へと連れて行く。


ステラは、わが子二人を胸に抱く。

小さな二つの命を見つめながら

「………目が開いていないからあれだが…。黒い髪色というところを見ると男の子は君に似たな」

ジェイクが微笑む。

「あらそう?目元なんかは貴方にそっくりだわ。それに見て?女の子は完全にきっと貴方よ。赤い髪色が同じだわ」

穏やかな時間が流れていた。

月の光さえもまるで祝福しているかのように思える。


「団欒のところ申し訳ないですが、奥様の処置をしたい。ご主人は一度外に出ていてくれますか」

そう言葉を告げる医者にジェイクは吹き出す。

「なんだよオゼルク。らしくねぇな」

「今は医者ですからね。ほら行って下さいって」

銀色の髪と瞳。

オゼルクと呼ばれた彼は医者でこそあれ、素性はポーターの……ジェイクの仲間である。


そう、促されジェイクは後ろ髪を引かれながらも、ステラの元を離れ部屋をでた。


この時、彼は思っていた。

(名前を考えなければ。あぁそうだ異世界(あちら)の皇帝にも報告して、(ポーター)にも言わなければ…でもそれはオゼルクが言うか…あぁ待て待て。その前に隣町にいるルイにも言わなければならないし……)


今後の忙しない日々を考え口元が緩むのも束の間

(………待てよ。この二つの命……どうしたら安全に奴らにばれずに済む……)

月色と同じ色の瞳が鋭くなる。



様々な憶測が彼の脳内を刺激しかき乱す。

彼は冷静になるために、冬の匂いが漂い始めている屋外へと足を踏み出す。

寒気にさらされる満月は、彼の心を打つ。


大きな月を見上げ

「………まぁ、どうにかなる…いや、どうにかするしかない」


お産に立ち会うためだけでなく、ポーターとしての基盤を築き上げるため、異世界(シャルバラ)と人間界を奔走していた彼の疲弊しきった頭では、上手く考えがまとまらないでいた。

(……人形(ドール)の事もあるし…な)

赤い髪を月夜に照らし、ジェイクは一つ伸びをする。



その時だった。

「ジェイクさん!大変!!!ステラさんの容体が!!」

バンッ!!と勢いよく家屋のドアが開くと同時に、助産師の声が寒空に木霊する。

「っ!?」

彼の中に戦慄が走る。

弾かれたように、その場から急いで部屋へと戻った。


ご閲覧ありがとうございます♡


昨晩更新予定が、予約日時間違ってました(´・∀・`)←


さて。

次回は明日、

7月22日の更新予定です。



過去編となります。

アイレンとカスールの出生、ポーターの仲間の一部が出てきます。


どうぞ宜しくお願いします(*´꒳`*)♡

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