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第15話


シズリーは再び重苦しい扉を開ける。

先ほどと違うのは、彼の後ろにアイレンがいること。

ギギギギギ…と音を立て、再び扉が開かれる。

「……こんな埃っぽくて……古ぼけた店にその人いるの?」

アイレンは眉根を寄せ店内を覗きながら、小声でシズリーに耳打ちする。

「いるよ」

短く答え、彼はアイレンを中に招き入れる。


「お……お邪魔します」

半信半疑に思いながらも店内に入ると、薄暗い店の奥から

「またお前か…」

金色のツリ目をこちらに向けカスールがゆらりと現れる。

「さっき、話し込みすぎて忘れ物してね」

「忘れ物?」

眉間にシワを寄せ、彼はシズリーを見やる。


その顔はまるで関わりたく無いという雰囲気が溢れ出ている。


「オルゴール……さっき買い忘れちゃったからさ……」

「……あるなんて一言も言ってねぇぞ」

「そんなこと言うなよ。……ん?何?」

シズリーが後方へと顔を向ける。

自分自身の服の裾を、アイレンが無言で引っ張ってきたからだ。


「……後ろのは何だ」

赤い髪がシズリーの後方で揺れ動くのが見え、訝しげにカスールは眉根を寄せる。


初めて彼は客人がいることを知ったようだった。

「何だって、失礼だな。お前の会いたい人だよ」

「……俺の?」

怪訝そうにしながら彼は、店奥から二人の元へと歩みを進める。


そんなカスールに対し

「さ。アイレンあの仏頂面が……」

言いかけた時

「アイレン……だと……?」

金色のツリ目を丸くして驚愕するカスールを尻目に

「彼がお兄さんのカスール・マトラーだよ」

アイレンを自身の前へと導き、軽く背を押してシズリーは教える。


「……は……初めまして……」

おずおずと、挨拶をする彼女だったのだが、

「アイレン⁉︎こんなに綺麗に成長したんだな!?」

その声を遮るように、カスールは声を荒げる。

「ひっ……⁉︎」

小さく叫ぶ彼女をシズリーは咄嗟に自身の背中へと回すけれど

「初めましてだよな⁉︎いや、でも俺はよく知っているんだ‼︎」

興奮したカスールには、到底関係のないことのようだった。


今までの態度とは打って変わるカスールに

「わぁー……」

という、消え入りそうなシズリーのドン引きした声は、ガタガタと陳列棚を蹴散らす後によって掻き消される。


様々な商品にぶつかりながらカスールは近づいていき

「ぇっ⁉︎ちょ……」

困惑するアイレンの前にシズリーが立ったまま静止させようとしたのだが、

「邪魔だっ!」

「……っ…⁉︎」

シズリーは声にならない悲鳴を上げ、床へとうずくまる。


「ぇっ?ぇっ?シズリー?」

アイレンは慌てて、しゃがみ彼を覗き込もうとするが、

「脛を……蹴られ……た…」

痛みを堪えるうめき声を聞き、

「なんだ。それだけ」

呆れたようやな彼女はシズリーを一瞥する。


しかし、それも束の間

「会いたかった!ぁーっ!現実リアルなアイレンだっ!」

叫びながら思い切りカスールの両腕に抱き締められる。



その瞬間

「……っ‼︎」

あまりのことに、彼女は声にならない悲鳴をあげる。

そして、気付いた時には、ドスッ……と重たい音が全員の耳に聞こえる。

「……ぅっ……流石だ…」

腹部を抱え、本望と言わんばかりの表情を携えて、カスールはそのまま床へと突っ伏す。


その光景を見て

「ぅわぁ……痛そう……」

大きな耳と尻尾を垂れ下げる。

「……突然のことに驚いて……つい…」

右手に拳を作ったまま、彼女は苦笑いを浮かべる。

「まぁ……正当防衛だと思うけど……大丈夫?」

彼女を気遣いながら、シズリーは屈んだまま、彼女を見上げる。


情けないほど、耳を垂れ下げたまま、脛を摩るシズリーを見て、

「アンタに言われたくない」

「辛辣」

「別にいいでしょ。さて……と」

彼女はしゃがみこみ、未だ床と仲良しな床にカスールに向き合う。


今なお動けず、もはや気を失う彼に、

「なかなか綺麗に入ったみたいだね。腹部じゃなくて、本当はみぞおちだったのかな?」

シズリーがからかい声を上からかける。

「だって、驚かない方が無理だと思わない……?」

バツの悪そうな顔をしシズリーを彼女は見上げる。

(お前は知っててもアイレンは初見………バカスールめ…)

胸中で呟いてシズリーは

「ね?俺が苦手な理由分かったでしょ?」

やれやれ。と言わんばかりの顔をする彼に、

「シズリーも大概だけどね」

「それ、どういう意味かな?」

「…そのまんま」

ベ。とシズリーに舌を出すアイレンだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……で?なんで私たち呑気にこんなところにいるのよ」

ガヤガヤと周りがざわめく中、アイレンが不服げに声を出す。

「こんなところって……流石にお腹空いたしね?」

カスールが意識を取り戻したときには既にあたりは暗く。

三人は空腹を満たすため、バルへとやってきていた。


シズリーは片手を挙げ、ウェイターを呼ぶ。

「適当になんか買って宿屋で食べればよかったじゃない」

「こういうところに来た方が楽しめるでしょ?ゲラタムにしかない郷土料理なんかもあるんじゃないかなぁ……」

メニューに目を通しながら彼は答える。


「まぁ……そうかもしれないけど……」

照明はランプシェード。

程よく薄暗く、程よく明るい。


木箱を客の椅子にしているところを見ると、ワインが有名なのか。

はたまた、ここの店主の趣味なのか。

テーブルはワイン樽をアレンジしているものだ。


店内は賑わい始め、老若男女問わず席を埋めていた。


二人の会話を聞き、メニューから顔をあげ

「ちょっといいか。一つ気になっているんだが」

カスールが会話に割り込む。

「何?」

シズリーが耳を傾ける。


「どうして、ヘリクサムにいるはずのアイレンが、ここゲラタムの市街にいるんだ?」

彼の質問に

「今更な質問だね」

「説明してないの?」

「俺は、訪問者からの襲撃を受けた話。それによって異世界(あっち)に帰る話しか聞いていない」

その答えに

「……ぁー…んー」

緑色の瞳が泳ぐ。



「先刻の話だと、お前だけが異世界(あっち)に帰るんだよな?」

彼はシズリーを睨む。

シズリーは意を決して

「一緒に行こうと思ってるんだよね」

「何だって?」

こめかみを引くつかせる彼の案の定の行動にシズリーは、厄介そうな顔をしつつ

「連れて行くのに伴って、ジェイクさんの事を教えてやってよ」

「……ジェイクの?」

カスールは、煙草に点火しシズリーを見やる。


その時、先程呼んだウェイターがやってくる。


シズリーは、

「ぁ、お姉さん。ビール二つと、あとチーズ盛り合わせ。それからピンチョスに……アイレンどうする?」

「……サングリア」

ボソリとアイレンは反射的に答える。


ウェイターは少しだけ戸惑いの表情を見せた後、復唱して席を離れる。

(……そうよねそうよね。貴方の言いたいことは分かるわ……ウェイターさん)

アイレンは胸中で毒づき目の前の二人を見比べる。

(目立つわよね……)


片や、額に5センチほど横に伸びた傷を携え、大きな耳と大きな尻尾を生やした混合種。

もう一方は、眉毛と唇にリング型のピアスを光らせる目つきの悪い男……。

(その中に……私……)

彼女はため息をついて己の髪を撫でる。

そう。赤い髪だ。

端から見ても派手な三人がこのワイン樽のテーブルを囲んでいるのである。



そんな彼女の様子を気にするでもなく

「どうして今なんだ?」

カスールは笑顔でアイレンに問いかける。

その問いかけに

「いま?」

彼女は眉根をよせ、怪訝な顔をする。

「質問を変える。どうして、コイツに引っ付いて、異世界まで行こうとしている?」

コイツ。と指をさしカスールはアイレンへと問いかけ直す。

「どうしてって……」

「ジェイクは既に故人だ」

頬杖をつきながら、彼はアイレンに現実を突きつける。

「……それもさっき知ったのよ」

膝の上でギュ…と拳を握り、彼女は俯く。

「さっき?」

彼女は一つ頷いて

「そう。私は隠されていることを知りたくてシズリーに付いて来たの」

「隠されていること?」

「私の育ての父が、ジェイクの事を先日教えてくれようとしたの。でもね、シズリーがわざわざ遮ったのよ」

そう言い、彼女は金色の瞳で緑色の瞳を睨む。


その視線にシズリーは、重たい口を開く。

「時期を見て伝えるつもりだったんだ」

「何を遮ったんだお前は」

「ジェイクさんの事……それから、お前の事だよ」

「親父と俺の事?親父は……」

カスールは何かを言いかけるがその言葉をシズリーが上からかぶせる。


「あぁそうだ。ジェイクさんの異世界(シャルバラ)としての偉業。兄がいるという真実。そして、その兄はポーターの権力者である事実」

「育ての父ってことはルイ・ストレシアの事だろ?ルイさんは本当にそれだけだったのか?」

「いや、マスターはジェイクさんの事だけのはずだ。それに本来だったら……」

言葉を止めたシズリーに

「まだ、カスールの事もジェイクの事も説明する気はなかった?」

アイレンの質問に、シズリーは肩をすくめる。


「じゃぁ、俺からも質問だ。なぜ、今このタイミングでお前は俺とアイレンを引き合わせた」

「それは、二人を会わせたくなった。ってところかな」

「………随分勝手だな」

彼はシズリーの言葉を切り捨てる。


そして、アイレンへと向き直り

「今、俺が答えを言えば…アイレン…お前は別にこれから先わざわざ異世界(シャルバラ)に行かなくていい…と判断していいんだな?」

カスールの問いかけに

「え?」

アイレンは困惑する。

(確かに……そうだけど……)

胸中で呟いて彼女は俯く。

(動機は何もそれだけじゃない……本当は家族同然のシズリーが離れていくのが寂しかった…なんて、言えるわけないじゃない)

本人を目の前に彼女は押し黙る。

「アイレン?」

黙る彼女に不思議そうな顔をして、彼はアイレンを見つめるのだった。

本日もご閲覧いただきありがとうございました。


世の中では三連休ですね!

私は今日仕事でした!笑


楽しい休日をお過ごしください。

お仕事の方は頑張ってくださいね!



次回更新

7月19日

を予定しております!


一気にシリアス展開に落とし込んでいきますのでよろしくお願いします。

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