第12話
静かな部屋の中
「私の聞きたいことは2つ」
アイレンはライアに指を二本立てる。
「なんだ」
「まず一つ。今回の依頼、私にどうしろっていうの?」
壁にもたれかかりながら、籐の椅子に腰かけたライアに対し問いかけ続ける。
「依頼書には殺しが目的じゃないって書いていたけど?」
依頼書を人差し指と中指で挟み、アイレンは自身の顔の横へと持ってくる。
「……人型精霊を救い出してほしい」
想像もしていなかった申し出に
「はぁ?」
アイレンは眉根を寄せる。
シズリーも先刻似たようなことを話していたからだ。
「本当は、俺と君の二人でターゲットの屋敷……祭典の会場に行くつもりだったんだが……」
チラリ。と窓からゲラタムの街並みを見下ろすリリアを見つめる。
「………彼女がついてきたってわけね」
アイレンは腰に手を置き、やっぱりかと言いたげに短いため息をつく。
「そう。なんせリリアはソイド・カルーシャが嫌いだからな。本当に計算外だった」
右手で額を押さえ、ライアは呻く。
その様子は、我儘な子供に手を焼く親に見える。
その言葉を聞いて
「あのね、テアちゃんが頑張っているから私も嫌いなこと、頑張ろうかなって思って付いてきたのよ」
リリアは、窓辺から離れ籐の椅子に腰かけるライアの隣へと立つ。
「テアの嫌いなこと?」
怪訝そうにアイレンはリリアに問う。
この少女を動かす要因となった、テアの嫌いなこと。
(知っておいて損は無いはずね……)
アイレンは胸中で呟いて、無言のままリリアの言葉に耳を傾ける。
「テアちゃんはね、検査が大嫌いなのよ」
「……基本、俺たちは皆苦手だが、アイツは特に……だな」
腕組みしてライアはリリアの言葉に付け足す。
「……検査?」
二人が言う検査とは、一体なんなのか見当も付かず、彼女は問いかける。
「そうよ!!シズリーがテアちゃんのこと吹っ飛ばしたでしょう!?だから検査が必要なのよ!!」
リリアはツインテールを揺らし、頬を膨らませ腰に手を当てる。
アイレンの脳裏に、ヘリクサムでの一件が思い出される。
テアが突っ込んで、シズリーが魔術で跳ね返した時のことをだ。
「あぁ……あれね。でも検査って?血液検査とか脳波とかってことかしらね」
「えぇ~……そこまで教えるの~?」
面倒そうにリリアはライアを見つめる。
アイレンの問いと、リリアの面倒そうな仕草に彼は
「………仕方ないな」
呟いて、自身の右目を覆う眼帯を外そうとする。
「ライア!?待ってよ!正気!?」
「正気も何もリリア、話しすぎだ。見せるんだ。きっと、アイレンも気付いてるだろ」
そう言って、ライアは緑色の瞳をアイレンへと向ける。
「………はぁ~い」
そう返事をし、彼女は自身の左腕の包帯を外す。
二人から現れたモノを目にしたアイレンは、驚愕こそしたが
「………予想通り。そのことが聞きたくて部屋に招き入れたのよ」
アイレンは自身に得体の知れない興奮を覚えながら笑みを浮かべる。
「そうか。なら……話は早いな。俺らは、とある組織に飼われている」
ライアの眼帯の下からは瞳孔がなく白い眼球が現れる。
視力があるのか無いのかは不明だが、白い眼球に赤い文字で『RA-A』と記されている。
「シリアルナンバー……ってやつね」
アイレンは声を出す。
「そう。これは私たちが製造された番号。私たちは作られ…飼われている存在なの」
話しながらリリアはオッドアイの瞳を伏せ己の左腕を見る。
彼女の左腕には『1717-A』と刻まれている。
「……シーク・ドールってことね」
(………だから、彼女は私に飼い猫と言われて激昂した……)
アイレンは、ヘリクサムであの日、自身が発言した言葉を思いおこしながら腕を組む。
「…………俺が出来上がったとき、リリアもテアもいなくてな。成功例は俺が初めてだった」
「ライアから聞いただけだけど……沢山の子が作られては失敗。失敗作は溶かされて……その融解液の中で私やテアちゃんが出来たのよ。検査もその液体の中で行うの」
リリアは一瞬悲し気な瞳を見せる。
しかし
「でもね!意外と早くテアちゃんが完成したのよっ」
それはそれは嬉しそうに笑う。
無邪気な笑顔とはこう言うことを言うのだろうか。
チリチリと、鈴の音が鳴り響く。
そんな彼女らの言葉に、アイレンは一つの疑問が浮かび上がる。
「……待って、アンタ達は三人なの?」
「そうよ!異世界の皇帝が人型精霊の人間界との行き来を禁止し、人間を異世界に行けないようにしたからねっ」
リリアはライアの肩に顎を乗せる。
そんな彼女の頭をポンポンと撫でながら
「そのおかげで、無用な命が生成されなくなったからな。俺らは人型精霊がいないと作れないらしい」
「……」
彼の言葉に押し黙る彼女に
「……どうした?」
ライアは眉根を寄せ問いかける。
「異世界に……人間が行けていたの?」
アイレンの疑問に、ライアは一瞬だけ目を丸くする。
そして、
「………昔の話だ。当時も知っている人間は数少なかったけどな」
「昔はね、異世界と人間界を繋ぐ天然扉が沢山あったんだって~」
「俺も詳しくは知らないが、森の中や湖の中多種多様に、条件が揃うと行けていたらしい」
二人とも詳しいことはわからないのか、断定的な答えは言ってはこない。
「この際だ。ほかに聞きたいことは?」
ライアは右目に眼帯をつけながらアイレンへと言葉を投げかける。
「聞いていいのかわからないのだけれど…」
「君と俺の仲だ。聞いてみたらどうだ?」
ライアはアイレンに微笑む。
それは、挑発するものでもなくただ単純な微笑みのようだ。
その微笑みを見て、彼女は金色の瞳を鋭くしながらも
「アンタたちの生成に、人型精霊を使用するのは何となくわかったけれど……それってつまり……溶かされたのは……」
言葉を躊躇いがちに紡いでいく。
「人型精霊と…君たち人間のDNAの意思を持った結合体だ」
「結……合体?」
疑問符を浮かべるアイレンにライアは
「混合種から何も聞いていないのか?」
怪訝に問いかける。
まるで、全てをシズリーが把握し、そのまま彼女が知っているかと言うように。
「……人型精霊と、人間のDNAの掛け合わせ……彼、シズリーは噂って……」
彼女の口から言葉が漏れ出していく。
そんな、彼女の様子に
「ばっかねー!噂じゃなく、真実!ったくぅ。そのくらい知ってるはずなのになー」
リリアの言葉にアイレンは引っ掛かりを覚える。
やはり、シズリーが全てを知っているような発言だったからだ。
しかし、アイレンの疑問は別の形でかき消される。
リリアの言葉に畳みかけるように、ライアが話し始めたからだ。
「まぁ、ヤツが本当に知っているのかは知らないけどな。……異世界と人間界を繋ぐスポットが絶たれ、俺らのような命を簡単には組織は作り出せなくなった。そして………追い打ちを掛けるかのように、ジェイクが組織の壊滅を図った」
ライアは淡々と話す。
「待って。ジェイクって……」
アイレンは言葉に詰まるが、
「そう。君の本当の父親だ」
ライアの一言でアイレンの表情が苦々しいものに変貌する。
そんな彼女の表情に
「どうしてそんな顔をするの?ジェイクは凄い人だったんだよ?」
リリアが無垢な瞳でアイレンを覗き込む。
「凄い?アイツは……私を捨て…今も尚迎えになんて来ていない」
ギリ……。と掌を拳にし彼女は呻く。
その呻きに対しライアは
「……迎えに来ないんじゃない。来れないんだ」
「…どういうこと?」
アイレンの質問に、己の緑色の瞳を交差させ
「孤児院で5歳になった君を迎えに行く晩、彼ジェイクは組織に殺された」
「………ッ!!?」
生存しているはずの人間がすでにこの世にいないという事実に彼女は狼狽える。
「もう。彼はこの世にいないんだ」
ライアの言葉がまるで鋭いガラスの破片のようにアイレンに突き刺さる。
それと同時にアイレンの口からは
「嘘よ!!アイツも!貴方たちのいるという組織のことも!!きっと今頃のうのうと生きているはずなのよ!!遠い国に仕事を優先して出ていった!ライア!それは暗殺者としてだと!貴方、7歳の私に言ったわよね!?ジェイクの居場所を教えてやるって!!その手掛かりを掴むために暗殺者になれと‼︎一人前の暗殺者になったら!!……ジェイクを君の手で……手で……」
嗚咽を漏らしながらも尚、悲痛な声が漏れ出でる。
11年前ー。
彼女はライアと出会った。
彼は彼女に本当の父親である、ジェイク・マトラーの居場所を……手掛かりを掴む気はないかと持ちかけて来た。
悔しさと悲しさがが幼い彼女を支配していた秋。
『殺める』という非人道的な考えに至っていたと思えば、今となっては、本当にそうしたかったのか。
はたまた、出会う口実になっていたのか彼女の中でも定かでは無い。
「わた……しが、どんな思いで……アイツを……ジェイクを探していた……と!!」
彼女の訴えに
「居場所は、彼、ジェイクの眠る墓を教えるつもりだった。………7歳という、幼い君では話ができないと思ったから。そして、ルイに引き取ってもらったとき君は、まだ5歳と幼かったから、話さない…いや話せないでいたんだろう」
突然出てきた、アイレンの育ての親ルイ・ストレシアの名に
「何故ルイの……彼の存在を知っているの?アンタと出会ったのは彼が眠りにつき、ヘリクサムの小さな町を徘徊していた一人の私のはずよ?」
怪訝に思い、アイレンはライアに問いかける。
「当時、よく調べさせてもらった。ジェイクに関する人間のこと全てだ。その中で、アイレン。君の存在を俺は知った」
その答えにアイレンの脳に一瞬の考えが過る。
「もしかして……私が7つの頃……ライア、貴方が接触したのは……」
ライアは悩んだ顔をしながらも続ける。
「君のことは2年で探し当てた。探し当てた時は驚いた。まさか、ジェイクに子供がいたなんて俺たちは知らなかったからな」
「ジェイクの娘……組織の壊滅を図った娘だから…私に暗殺を仕込んだの?」
震える己の声を絞り出しアイレンはライアに問う。
「そうだ。同じDNAなら素質があると思った。それに、下手に外部の人間に知られるのは拙いと思ったんだ。なんせ、俺とリリアはジェイクと一緒に組織の壊滅を狙っていたからな」
ライアは淡々と告げ、籐の椅子から立ち上がる。
「信じられないわ。アイツも……組織とやらも。まして、組織に作られた貴方たちが組織を壊滅?」
「色々と事情があるんだ……第1、君が幼いながらに、ジェイクを殺したがったんじゃないか」
ライアが言いかけたところで
「現に私たちは存在してる。ジェイクにお世話にはなったのよ。これは紛れもない事実よ」
リリアの普段とは違う瞳と声、言葉にアイレンは怯む。
「やはり、君にジェイクの話をするのは早かったようだな」
ため息をつく彼を、アイレンはひたすらに睨む。
既に、彼女の瞳から涙は消えていた。
「今では悪いと思っている。巻き込んだのは紛れもない事実。だから……恨むなら俺を恨むといい」
その言葉に、アイレンはハンッ。と鼻で笑う。
そして
「巻き込む?恨むも何も……」
金色の瞳が再び揺れ、ライアを映し出す。
彼女の心理的な傷を見て見ぬふりをしながら彼は
「暗殺も、教えるべきでなかったな」
「勘違いしないでよね。私は私の意志で暗殺に……血に手を染めた。理由はどうあれ、7つの私が貴方に人を殺す術を教えてほしいと懇願したのは紛れもなく私よ」
「さっすがアイレン!!強いのね~」
おぉ。とリリアは感嘆する。
そんな彼女に
「リリア。茶化すな」
ライアが制止する。
「……まっ、あれよねっ」
リリアはツインテールを揺らし、アイレンへと歩む。
「………?」
眉根を寄せるアイレンに
「もし、ジェイクのことが気になるならぁ……」
彼女はアイレンに耳打ちする。
「…………え?」
アイレンは今まで以上に脳内をかき乱される。
(シズリーに………聞く………?)
そんな彼女の様子に気付くことなく
「………そろそろか」
そう呟き、ライアは部屋のドアを見る。
「私たちは一旦帰るね!明日の仕事、よっろしっくねー!!」
「結局、仕事の話が出来なかったな。また追ってリリアを来させる。その時仕事の話は聞いてくれ」
ライアが言い切るか切らないかのタイミングで、鍵を閉めていなかった部屋のドアがガチャリ。と静かに開く。
しかし、アイレンにはドアの音など聞こえてなどいない。
緊張の糸が切れ、部屋に残された彼女はただその場に立ち尽くすしかなかった。
本日もご閲覧ありがとうございます(*゜▽゜)ノ
さて、珍しく真面目なお話でした。
そして、やっとこさライアとリリアのシリアルナンバーが提示できてホッとしております(*´꒳`*)
次回更新
7月12日
となります
「あいつに…会ってやってよ」
です☆




