第11話
薄暗い店内の奥で、彼らは小さなテーブルを挟み椅子に座る。
二人の頭上でランプの灯りが揺れる。
シズリーが椅子に座ったことを確認し、
「リリアと……テア。異世界や仲間内じゃそんな名前聞いたことねぇな」
全てを聞いたカスールは煙草に点火し呟く。
「そう。じゃあ、カスールがヘマしたとかじゃないんだねぇ」
その言葉に、
「……お前、俺をなんだと思ってる」
悔しげに呻く。
「なに……って、そうだなぁ…仕事は優秀。可愛いものと妹には目が無い異常者?」
小首を傾げるシズリーを一睨みして
「人を変態みたいないい方してくれるなっ」
ガタッ!と椅子から勢いよく彼は立ち上がる。
それと同時に漂う紫煙が、シズリーの嗅覚を刺激し、彼は眉根を寄せる。
「煙草……吸うんだ?」
「あれから10年。ようやく今年、成人したからな……って話を逸らすな」
睨んでくるカスールの言葉を無視してシズリーは、
「あぁ、もぅ18になったのか。初めて会った時は、あんなガキンチョだったのにね」
懐かしい物を見るようにテーブルに頬杖をし、カスールを見つめる。
何かを諦めたように、カスールは椅子に座り直し
「それで?」
煙を一つ吐き出し問いかける。
「本当に、心当たりない?」
「……悪いが無い」
きっぱりと断言するカスールに
「じゃぁ、彼らは俺がポーター不使用の罪で繰り出された奴らじゃないってことか」
顎に手をやり神妙にシズリーは呟く。
その動作に
「………命狙われるようなことでもしたんじゃねぇの?女の逆恨みとか」
くっくっと、喉を鳴らし意地悪にカスールは笑みを浮かべる。
「失礼だな。ヘリクサムでは至って真面目に生きてきた。まぁ……一夜限りは10年前の、このゲラタムで最後だったはずだけど?」
心外だと言わんばかりでシズリーはカスールのツリ目を見つめる。
「嘘くせぇなぁ」
もう一度煙を吸い込みカスールは
「………ん?」
何かを思い出したように一声あげると、煙を上空に向かって吐ききり、シズリーへと向き合う。
「……何?なんかやっぱり心当たりある?」
「そいつら、匂いがしないって言ったよな?」
「うん。まるで無機質な人形が意思を持って動いているようだった」
「………探求人形」
ぼそり。とカスールが呟く。
「やっぱり、それを疑うのが正解?」
「人型精霊が、人間界に居ねぇのはそれが原因だろ?」
その問いかけに、シズリーは一つ頷き
「そう。彼らが人型精霊を乱獲しているはずだからね」
ため息をつく。
「でも、噂だろ?」
「そう。俺も見たことはないし、ポーターのカスールも見たことがないなら実在するかも怪しいけどね」
シズリーは嘆息する。
その姿を見ながら、
「魔力も微々たるもの……いや人間には大層なもんだが、シーク・ドールには効果がないっていう噂だしな」
カスールは煙草の煙を吐き出す。
「噂?」
「俺らポーターも、現に見たことが無ぇから分からねぇんだよ。でも……」
苛立ちを見せながらカスールは続ける。
「実在している話を、先日仲間が掴んできた」
「やはり噂でなく存在してるってこと?」
シズリーは緑色の瞳を見開き、目の前のポーターの権力者を見る。
「それっぽいな。……で?そのリリアとテアが仮にシーク・ドールだったとして……だ」
「何?」
「なんで、奴らはお前を狙うんだ?人型精霊の乱獲に産み出された奴らだろ」
カスールの疑問にシズリーはゴソゴソと胸元からペンダントを取りだし指でつまむ。
「もし彼らが実在して……噂通りならたぶん、コイツが欲しいんだろうね」
天眼石が埋め込まれた翡翠のペンダントが揺れる。
「知ってたのか」
腕組みし、背もたれに寄りかかる。
「俺だって、コイツの後継者だからね。カスールの妹には秘密にしているけれど、知識くらいは持っているよ」
翡翠の上に描かれる六芒星をなぞりながら彼は答える。
「人型精霊の乱獲……探し求めているというのはあくまで建前だと思うんだ」
「奴らは死を渇望……いや、探し求めると言われているからな」
「だから【シーク・ドール】っていうんでしょう?」
椅子の背もたれにシズリーがもたれかかる。
翡翠の禍々しいそれが、彼の胸の上で踊る。
中心部に埋め込まれた天眼石にカスールは睨まれたような気分になりながら、
「それ一つじゃ効果を発揮しないことも、勿論知っているんだよな?」
問いかける。
「……え?」
キョトンとした顔をシズリーは見せる。
明らかに苛立ちを見せカスールは、
「おいおいおい。とんでもねぇもん持ってるんだ。完全なる知識を持っとけ」
「そこまで言うなら、カスールが教えてよ」
不服そうに、シズリーは口を尖らせる。
「断る」
「いけず」
「うるせぇ。帰れば教えてくれる奴らなんかワンサカいるだろ。ほらラビットとか」
「……無理。あの子俺の貞操狙ってるもん」
少しだけ恐怖心を見せた、彼は目元を覆う。
そんなシズリーに
「貞……まぁ…いなめねぇよな」
カスールは渋い声を出す。
「でしょう?」
指の間から緑色の瞳をチラつかせ彼は同意を求めるが、カスールは敢えてその瞳を無視し、
「……話が脱線しすぎだ」
「ぁ、本当だね。女性みたいだ」
ふっ。とシズリーは笑う。
一つ咳払いをしてカスールは
「奴らの一番の証拠となると言われている、シリアルナンバーは確認できたのか?」
問いかける。
「それで分かっていたらワザワザこんなとこに来て聞かないでしょ?」
「お前、本当失礼なやつだよな」
半眼で、シズリーをカスールは睨む。
その視線を無視して
「少女と少年相手だ。仮にそうだったとして、服なんて破けないよ」
「少年と、少女?」
「そう。威勢のいいヒヨッコと、お前の妹と違って凄い胸のデカい……ぁ!!ちょ!待て待て待て待て!!!」
両手で自身の胸元に胸の形を表していたシズリーは、焦った顔をする。
何故ならば
「ほぉ〜……お前はアイツが貧乳だと言いたいんだな?ん?」
目の笑っていない顔で、カスールはシズリーの頭部を掴む。
「いででででででで!!違う違う!!どっちかっていうと大きさよりも小さめで感度良さそうな……って、いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「いやぁ…俺が殺める最初の混合種がリー家の息子だなんて光栄だなぁ!?」
ギリギリと力が込められる左手に、シズリーは自身の頭部がミシミシと軋む感覚に陥る。
この頭部を掴む手が利き手だったらと考え、シズリーはゾッとする。
だがしかし、更に血の気の引くことが彼の目の前で起きようとするのを見て、彼は声を荒げ、懇願する。
「や!ちょ辞めて!!その煙草危ないと思うんだけど!火傷ってか十円ハゲになる!!」
空いている手に煙草を持ち、
「懇願する余裕はあるんだなぁ?自業自得だろ?」
シズリーの頭部へと近づける。
「ちょ!!あ!!いででででっ!ぁ!あつ!熱い!」
「ぁん?ただの灰だ」
「んなわけないだろ⁉︎どんだけ妹大事なんだよ!このシスコン!!」
咄嗟に出てきたこの単語にカスールは
「うるせぇっ!!」
言い捨て、彼の頭部から手を離す。
「……だから俺、お前が苦手なんだよ」
涙目になりながら、緑色の瞳で彼はカスールを睨む。
「奇遇だな。俺もお前が苦手だ」
フンッと悪態をつき、カスールは椅子へと座り直し、手に持つ煙草を灰皿へと押し付けた。
ご閲覧ありがとうございます(*゜▽゜)ノ
やっと、ペンダントのデザインを皆さまにお届け出来て感無量です♡
クラウンベリーさんにはお忙しい中無理を言って今回も挿絵を付けて頂きました!
いつもギリギリですいません:;(∩´﹏`∩);:
次回
7月10日(月)の更新予定です。
一気にまたシリアスに戻ります。
「私が暗殺に手を染めたのは、他ならない私の意思。勘違いしないで」
次回もよろしくお願いしますーっ




