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第2話

挿絵(By みてみん)



「ふぁ〜〜ぁ」

 大きく伸びをしてモソモソとベッドから這い出る男。

 窓の外は、月が眠りにつき様々な生命が目覚め始める。

 大きな耳にフサフサの大きな尻尾

 額には5センチほどに伸びた大きな傷。

 見た目から分かるように、彼は人間では無い。

 動物との混合種と言われる種属である。


 ベッドに腰掛けながら

「さっき帰ってきたっぽいんだよなぁ…」

 呟き、彼はクロークに向かう。

 黒のジーンズを履くためだ。

 そして、半裸のままナイトテーブルに無造作に置かれたTシャツ何枚かのうち1枚を

「これにしよう」

 広げて、彼は素肌の上から着用する。



挿絵(By みてみん)



「ん〜ッ」

 伸びをして、彼はカーテンを開ける。

「今日も天気が良くなりそうだ」

 うんうん。と頷いて彼は、部屋を出るべくドアへと向かう。


 彼は、10年前この宿屋に着の身着のままで転がり込んだ。

 ここの宿屋のマスターは、特に彼の素性を聞き出すでもなく転がり込むのを許してくれた。


 感謝の念からか、この混合種は住み込みとして働き、そして……衣食住の全てを満たさせて貰っていた。


「おはよう」

 と呟き彼は木製のドアを開ける。

 ギィッ……と軋むこのドアとも10年近くの付き合いになる。

 一階は、食堂と厨房。

 入り口に小さな受付。

 そして、奥にトイレと風呂場があるのみ。

 二階には宿屋としての客間があるが、旅人用だったのだろう。

 大きな部屋はなく単身用が数部屋あるのみ。

 しかし…

 彼は転がり込んでから……もはや10年以上この宿屋に足を運ぶ宿泊客を見たことはない。


 ここ、ヘリクサムは小さな町だ。


 わざわざ、旅人が立ち寄るような所でもない。

 だからこそ、彼は何者にも干渉されず過ごせるこのヘリクサムに10年もの間、滞在しているのだろう。


 部屋から出ると

「ぉ、早いなシズリー。おはよう」

 一階の厨房から白髪混じりの頭が覗く。


 彼に声をかけたのは

「おはようマスター。今朝も早いね」

 階段を下りながら混合種の彼、シズリーは挨拶をする。

「まぁな。パン屋は朝が早い」

 と、ここの宿主。

 シズリーを居候させているのは、ルイ・ストレシアである。

「何言ってんの。ここは宿屋。……パン屋も並行してやるって言われた時は驚いたけどね」

 とシズリーは、笑う。


 生計が不安なこの宿屋は、或る日突然、ルイの趣味であるパン作りがキッカケで宿屋兼、パン屋となった。


 ヘリクサムの小さな町といえど、それなりに需要があるらしい。

 宿泊客は見ないけれど、地元の人間や混合種がパンを求めてやってくる。


「好きこそもののなんとやらだな」

 とルイは顎髭を触りながら満足げに呟く。

 タレ目の細い目が更に下がる。


 規則よく階段を下り終えた彼は

「そういえば、さっきアイレンが帰宅したようだけど?」

 起こした方がいいのかな?と質問をして厨房の目の前のカウンターチェアへと腰掛ける。


 大きな柔らかな尻尾が、椅子から垂れ下がる。

 ルイは厨房から

「さっきかい?無理に起こさんでもいいよ」

 と微笑みかける。


 そんな彼の様子に、シズリーは口を尖らせながら

「娘に甘いなぁ……」

 と、ぼやく。

「なぁに、シズリーも大変なら毎日早起きしなくてもいいんだぞ」

 にこやかに笑いながら、ルイは奥へと引っ込む。

 頬杖をつきながら、ほんの少し不服げに

「……やっぱり起こしてくる」

 彼は呟く。


 そして、椅子から立ち上がり、月が眠りにつく時間に帰宅した、アイレンの眠る部屋へと足取り重く向かう。



 階段を足取り重く登り、彼は自身の部屋に隣接する部屋の木製のドアをゴンゴンと叩く。


 そして、

「アイレン!アイレーン!朝!起きてー」

 叫び、彼女の名を呼ぶけれど部屋の奥からはウンとも寸とも言わない。


 それでも彼は尚、しつこいくらいにノックを続ける。

 5分は経っただろうか、

「うるさいわね!聞こえてるわよ!!」

 部屋の主が声を荒げる。

 ドアをノックするのを辞め、両手を頭の後ろで組みながら

「起きたー?」

「今着替えてる!」

 バタバタと、ドアの向こうで動き回る音が響く。


 稀にゴツッ……と鈍い音がしてるが

 きっとぶつけてるのだろう。

「大丈夫ー?着替えるの手伝おうかー?」

 笑顔で彼はアイレンをからかう。

「結構」

 という言葉と共に、ガチャリ。とドアを開き赤い髪が揺れる。


 黒いショートパンツに、蜘蛛の巣がデザインされたTシャツというラフな姿の彼女に

「おはよう。寝坊助」

 額を、指で弾く

「寝坊助て…まだ5時過ぎ…」

 朝からシズリーの元気さに毒づきながら項垂れる。

 ラフな姿ではあるが、彼女の腰に付いているポシェットを見て

「夜更かししたのが悪いね」

 緑色の瞳を細め、シズリーが言えば

「…起きてたわけ?私帰ってきたの3時近くよ」

「起きたんだよ。アレだけ鉄の匂いをつけて帰ってきたんだ」

 ニッと人の悪い笑みを浮かべアイレンへと近づき匂いを嗅ぐ。



挿絵(By みてみん)


「……ッ……」

 急に、接近されたことにより彼女は小さく息を飲む。

「石鹸の匂いがしてるけど……分からないとでも思った?人間は誤魔化せても俺のことは無理だね。…特にこれ」

 と言って、彼は彼女のポシェットを指差す。

からかうように、彼は口元をニヤリとさせ金色の瞳を覗き込む。


それとは対照的にアイレンは忌々しく

「チッ…」

 舌打ちし、シズリーの緑色の瞳を金色の瞳で睨む。

「そんな顔しないでよ。人間は分からない程度だし」

クスクスと、意地悪く笑う彼に

「だったら一々指摘しないでよね」

「なに、非難してるわけじゃないさ」

そう言って、彼は肩をすくめる。

「は?」

眉根を寄せて、自身より20センチ近く背の高い目の前の混合種を見上げれば

「心配なだけ。無事帰ってきてよかったよ。本当に……それだけさ」

微笑んで、彼女の赤い髪を撫でる。

「……なっ…馬鹿にしないで!」

その手を振り払い、声を荒げるアイレンに対し

「頭撫でただけなのに……真っ赤になっちゃって」

クスクスと、また意地の悪い笑みを浮かべる。

「……私はアンタが思ってるよりも弱くなんかない」

「はいはい。ほら、マスターが待ってるよ。朝ご飯食べちゃおう」

 シズリーはアイレンを促し階下へと向かった。

獣耳男子の登場回です。


…獣耳男子…いいよね(*´∀`*)?←



挿絵ですが、服の質感や足元のサンダル、かなり指定しました。

忠実に再現してくださいました。

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