表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/44

第8話

指定された部屋に入った二人は辺りを見渡す。

「なかなか広いね」

部屋にはシングルのベッドが二つ用意されていた。

その、ベッドの数をみてシズリーは安堵の息を漏らす。

「そーね」

ぶっきらぼうに答える彼女にシズリーは肩をすくめる。


「ねぇ。何怒ってるの?」

彼女の不機嫌の出所は、きっと自分であろうと思いつつあえてシズリーは問いかける。

「……この間、言ったわよね。年頃の娘とは一緒に寝れないって」

腕組みし眉根を寄せ、アイレンは金色の瞳で緑色の瞳を睨みつける。


「まぁね。あの時は幌馬車内で一緒には。って意味だっただけだからね」

「……は?」

こめかみに青筋を立てる彼女に

「まぁまぁ。ベッドは二つなんだし。それに、貧乳……には興味ないし、襲ったりなんてしないから安心してよ」

「デリカシーなさすぎるんじゃないの?本当の理由は?何故、今二人きりになる必要があるのかしらね?」

彼女は自身よりも少し高い位置にあるシズリーの胸ぐらを引き寄せ睨みつける。

「………アイレンが悪く言われるのが嫌だったんだよ」

口を尖らせ、彼は小さく呟く。

「へ?」

「あの、おばさん。アイレンの事かまととぶってる。って言ったでしょ?」

「……まさか、それだけの理由?」

アイレンは目を丸くし肩透かしを食らう。


彼女の手を優しく握り、自身の胸元から外して彼は頷く。

「それにね、ゲラタムの門番にはアイレンが大切な人だと伝えた」

彼は、壁にもたれかかり彼女の瞳を見つめる。

「あぁ…。あれね。あれも腑に落ちないのよね…………急に……肩を抱き寄せるんだもの」

思い出し、彼女は赤面する。

その様子を見て

(相変わらず、男慣れしてないのかな……)

そんな風に考えながらシズリーは

「あの行為と言葉はね。ゲラタムの住人を騙すためだ」

「騙す?」

耳と尻尾を垂れ下げて彼は

「怒らない?」

「内容による」

「ちょっとね。明日の祭典に関係があるんだ」

彼女は『祭典』という言葉に眉根を寄せる。



「門番が…話していたわね?」

「そう。ルールが変更されてなきゃ、明日の祭典は男女ペアでしか入場できない」

「それで?」

彼女は腕組みし先を促し

(その時間に依頼が入りそうなんだけど…)

胸中で呟き舌打ちする。



そんな彼女の考えを知らない彼は

「俺と、ペアを組んで欲しいなって」

「………どうしてそんな理由に付き合わなきゃならないのよ」

(仕事だし…無理よ。無理無理)

心の中で付け足して、アイレンは彼の前から退き、部屋の中央へと進む。



彼女の後ろを付いていくようにして

「そんなって失礼だな。これでも大切なことなんだけど?」

「大切なこと?」

彼女は振り返る。

「この祭典は、人型精霊…しかも幼少期が見世物になるんだよ」

ギリ…と彼は拳を握る。

「見世物?」

怪訝に、彼女は眉根を寄せる。

「人間界では絶滅したとされる人型精霊。方法は知らないけれど…なぜか捕らえられる。そして見世物にされ…競りに出される」

「それなら、混合種のシズリーは入場できないんじゃない?人間でないものね」

「それが、そうでも無い」

緑色の瞳を鋭くし、彼はアイレンを見る。



「まさかとは思うけど…同胞の混合種が、競落して異世界に帰す。とか言うんじゃないでしょうね」

「流石。頭の回転早いね」

「格好の餌食じゃない。人型精霊も…シズリーも…」

「そうだね」

淡々と、彼は頷く。

「そうだね。ってそんな簡単に…」

「だからこそ、俺はアイレンと二人で祭典に潜り込みたい」

「初めてなの?」

「初めて?」

「その祭典に潜り込むのは初めてなのかって聞いてるの」

「10年前、ヘリクサムに行く前に潜った。その時、人型精霊が競り出されるのを知った」

「……一緒に行く相手がいたのね」

不服そうにアイレンが言葉を発すると

「もしかして……嫉妬でもしてる?」

尻尾を緩やかに振り少しかがんで、彼は彼女をからかう。



「そんなんじゃないわ。ただの放浪癖の混合種に相手がいたことに驚いただけよ」

腕を組み、アイレンは顔を背ける。

「ただの一夜限りの相手だよ」

特別な思いなんてないよ。

と、呟いてシズリーは彼女に歩み寄る。

「私には関係のない話だわ」

言い捨て、身を翻す彼女に

「そう。なら、今回も誰か引っかけるからいいよ。無理なお願いだったみたいだしね」

背を向けるアイレンの横を通り過ぎ、彼は部屋から出ていこうとする。

「ちょ…ちょっと!!」

去りゆきそうになる背中にアイレンは声をかける。



「何?」

「時間をくれない?」

問いかける彼女に振り向いて、彼は近づき彼女に耳打ちし

「…いいよ。仕事の兼ね合いでしょう?」

ニヤリと笑う。

人を小ばかにするようなその表情を見て

「………依頼のこと知っていたのね?」

口の端をひくつかせながら、彼女はシズリーの緑色の瞳を睨む。

「もしかして正解だった?先日の野宿の日、魚捕りに行っている間かなって思ってたんだ。その時に魂の浄化のことも、依頼者から聞いたんじゃないの?」


質問する彼に

「…別にその時じゃないわ」

彼女は小さな嘘をつく。

「ま、残り香もなかったからね。本当に会ってたかまでは俺は知らないよ」

本当に知らなそうな顔をして彼はベッドへと腰かける。

「………え?」

(残り香が…ない?どういうこと?ライアも……あの二人と同じってこと?)

声を漏らし考え込む彼女に

「ぇ?どうかした?何か思うことでもあるの?」

「え?なんでもないわよ」

「そう?秘密の一つや二つあったって、俺は気にしないけど…背負い込むのはやめてほしいかな」

彼は優しく微笑む。



その微笑に

「……ッ…ほ…ほら!幌馬車に荷物!!荷物取りに行かないと!」

アイレンは一瞬たじろぎ、彼を急かす。

「あぁ。荷物ね」

そう言って、立ち上がり左手を差し出す。

「………?」

「俺たちは仲のいい恋人同士。手、繋いでいくよ」

「っ!?」

そう言うなり、彼は強引にアイレンの手を取り、自身の指へと絡める。

「ちょ…普通の!せめて普通の繋ぎ方でいいでしょう!?」

「純粋だなぁ。恋人繋ぎくらいの方が本格的でしょ?」

チュッ。と絡まる彼女の手の甲に短いキスを落とし、彼は挑発的な視線を向ける。

「……ぅぅ…」

顔を真っ赤に火照らせて、金色の瞳を彼女は伏せる。

「さ、行こうお姫様」

そう言い、彼は半ば強引にアイレンを引き連れる。

(………こんな手の繋ぎ方なんて初めてよ!!!)

羞恥による大混乱で彼女の脳内からは、依頼者・ライアの存在は片隅へと追いやられるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ