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第5話


「……ん?」

彼が目を覚ますと

「テア!!」

彼を呼ぶ声がし、見慣れたツインテールが揺れる。

「リリア?あれ……ここって……?」

辺りを確認しようと彼はベッドから起き上がるが

「すっごい!すっごい心配したんだからね!?」

バフッ!!

とリリアがテアに飛びつき、チリンと鈴の音が響く。

「ちょっ!ぅわぁ!?」

ドサッ……とテアはベッドへと逆戻りする。

「………ぅ~…」

唸りながら、彼女はテアを力いっぱい抱きしめる。

「ぐぇ……っ、リリア苦しい」

その言葉に少し腕を緩めるくらいにし彼女は

「眩暈は?もう大丈夫?」

テアをオッドアイの瞳で覗き込む。

「うん。大丈夫」


彼の群青色の瞳に、映ることを確認してリリアは

「転送中からね、意識失っていたんだよ?」

目覚めないのかと思った…

小さな声で呟く彼女に、

「……今更何言ってるの。俺達は…」

テアの言葉を遮るように

「そういう問題じゃないの!!」

ベチンッ!!と景気のいい音を立て、リリアはテアの頬を挟む。


「いって!!何すんだよ!!」

突然の衝撃に、テアが目じりに涙をためる。

「心配…かけさせないでよ…」

叩いた手が微かに震えているのを感じたテアは

「ごめん。油断した」

リリアの華奢な手を、少し小さな己の手で包み込む。

そして、群青色の瞳でリリアを見つめる。

「……テア?」

眉根を寄せ彼の名を呼ぶリリアに

「……意識を戻した俺にご褒美は?」

少し緊張した面持ちで、テアはグッとリリアの腰を掴み引きよせる。



しかし、

「……ッ!?テアの癖に生意気よ!!!」

顔を真っ赤にしたリリアがバチーンッといい音を室内に響かせる。

「い……ってぇ……」

二度も叩かれた頬を押さえテアはその場でうずくまり、バッと顔を上げ

「なんで冗談通じないかな!?」

「何よ!色欲魔!!」

「あぁ!?だったら、その格好どうにかしてから言えよな!?」

テアは、リリアの丈の短いフリルのスカートを指さす。

「なんでよ!?スパッツちゃんと履いてるもん!!」

バッと彼女はスカートを捲る。

その光景を目の当たりにした彼は

「ばっ……捲るな!!」


挿絵(By みてみん)



声を荒げ、彼女のスカートを降ろす。

その行動にリリアは頬を膨らませ

「テアの癖に!チビィッ!!」

「チビは余計だ!!」

二人の声がだんだんとヒートアップしてきた矢先



コンコン

と無機質な白い扉が叩かれ、

「……目覚めたようだな」

緑深い色の髪をした男が顔を出す。

「ライア!!」

テアが男の名を呼び、一目散にリリアが駆け寄る。


鈴の音が、テアの元から離れ

(……別に駆け寄らなくたっていいじゃんか)

胸中で呟きテアはほんの少し、嫉妬をしながら2人を一瞥する。


そんなテアの様子には気づくこともせず

「賑やかな声が廊下にまで響いていたぞ」

半ば呆れたようにライアは彼女をたしなめる。

「ごめんなさーい」

リリアは子供のように謝罪する。



そんな二人のやり取りを見て

「ライア、どこ行ってたの?」

テアが群青色の瞳でライアの深い緑色の瞳を捉える。

「アイレン・ストレシアに会って来た」

言いながら、丸椅子を片手に持ち彼はテアのいるベッドの横に行く。


「アイレン……?アイレン……ぁ!あの子か!」

ポンッと右手を拳にし、左手に打ち付けリリアは、アイレンの顔を思い出す。


「また依頼してきたんだ?次は誰を殺させるの?」

「今回は殺しが依頼でない」

そう答え、ライアは丸椅子へと腰をおろす。

「えぇ!?どうして!?どうして~!?」

リリアが目を丸くし、ライアへと質問する。

その質問に

「……ターゲットは、ゲラタムのソイド・カルーシャ」

その名を聞き

「……っ!!!」

リリアはオッドアイの目を見開く。


その表情で全てを理解して

「そういうことだ」

ライアはリリアの頭を撫でる。


「別に、私の為とか思ってるなら殺しちゃっても構わないよ」

不服気にリリアは口を尖らせ、テアの足元へ……ベッドの上に腰掛ける。

「ダメだよリリア。ソイドは……」

金色の髪を一つに束ねながらテアは言いかけるが

「その先は言わないでよね」

リリアに一掃される。



二人のやり取りを傍観しながらライアは

「……厄介なことが起きた」

「厄介?」

キョトンとリリアは首をかしげる。

「シズリーが異世界(シャルバラ)に帰る」

「はぁ!?嘘だろ!?」

テアが驚きの声を出す。


「予想は出来てたけどね~」

妙に納得するリリアを余所にテアがライアへと疑問をぶつける。

「リリアが、アイレンに接触したのが原因?フローラを出したこと?」

「ちょっと、なんで全部私のせいよ」

ジトッとテアをリリアは見やる。

「遠くから見てるだけの予定だったろー?それなのに早々にちょっかい出したのはリリアじゃないか」

「はぁ!?テアがシズリーに吹っ飛ばされなければ今頃は!!」

「二人ともストップ。煩い」

パンパン。と手を叩きライアが制する。

「だってテアが!」

「リリア。今はその話のときじゃない」

「……ぅ~」

恨めしげにリリアはライアを見る。



話題を変えるかのように、

「アイレンに依頼したのになんでシズリーのこと分かったの?」

テアが尋ねる。

「アイレンが、奴に引っ付いてるんだ」

ハァ……とライアは深くため息をつく。

「やっぱり暗殺ばかりしてるから、魂の浄化狙ってるのかなぁ?」

「いや、浄化の事は知らなかった」

お手上げと言わんばかりに彼女は

「えぇ!?あの子本当にわけわかんな~い」

そんなリリアを余所に

「言いかけたのに、聞いてこなかった。とかじゃないよね?」

テアがライアに質問する。


「……さぁ、どうだろうな。アイツにも色んな思いがあるだろうからな」

フッ。と、ライアは瞳を細める。


テアはその答えに疑問を覚えつつも目の前の問題を

「いずれにせよ……シズリーが帰ってしまうのは厄介だね」

神妙な面持ちで呟く。

ライアは黙って頷き、壁に掛けられた時計を見る。



「そろそろ、二人がゲラタムに着く頃か。アイレンへの依頼は明後日だ。その時二人にはシズリーを襲撃してほしい」

「待って。そろそろって、俺どのくらい気絶してたの?」

「丸二日ってところかな~」

リリアが答える。

その二人を見ながら、ライアは立ち上がる。

そして

「テア、お前は念のため検査だそうだ。今回は俺一人で行くから、リリアはテアと残って準備してろ」

彼はそう言い捨て、部屋から出て言ってしまう。

「検査ってことは、アレやるんだろ?嫌いなんだよなー……」

呟いて、テアはボスンッとベッドに仰向けに寝転がる。

そんな彼の様子にリリアはベッドから下り立ち

「ご褒美あげるから頑張ってよ」

「ぁ?何……言って……」

言いかけた彼の群青色の瞳は大きく開かれる。



何故なら、チュッ。と軽い口づけをリリアは彼の頬に一つだけ落としたからだ。

「まったね~」

ヒラヒラと手を振り、彼女はライアの後を追うように部屋を出ていく。

「いやいやいや…嘘だろ?」

部屋には突然の出来事に呆然と。

しかし、事を理解し顔を真っ赤にする彼が取り残されたのだった。




◇◆◇◆◇◆◇



無機質な白薄暗い廊下を歩く彼をブーツの音が追いかけてくる。

「待ってライア」

呼び止める声と、鈴の音が響く。



「リリアか」

彼は振り向き、少し後方に立つ彼女へ向き合い、近づく。

「アイレンのところへ行くの?」

「そうだが?」

「私も行く」

オッドアイの瞳で、背の高いライアの瞳を捉える。

「ダメだ」

「どうして?」

彼女は腕を組み、不服気に頬を膨らませる。



「お前は、テアの所にいてやれ。アイツ……検査が嫌いだろう?」

「それなら大丈夫よ!ご褒美あげてきたから」

ニヒッ。と笑って彼女は細い指で顔の横にVサインを作る。

「褒美?」

怪訝そうに、眼帯の無い左目でリリアを見下ろし、彼は問いかける。

「そうよーっ」

「おおかた予想は付くが…何してきたんだ?」

はぁ……。と短い溜息をライアは付く。


「ホッペにチュッてね♡」

フフーン。と腰に手を当て笑みをたたえる彼女に

「お前…アイツの気持ち知ってるんだろう?」

呆れた声で。しかし少しだけ哀れげにライアは問いかける。


「うん。私の事大好きよね♡」

「その気がないならからかってやるな」

「その気無くないよ?」

キョトン。とした顔をして、リリアはライアを見つめあげる。


「は……?」

「私も好きだもん」

「それは、ライクとしてだろう?」

ライアの呆れた声に

「ライクならライアも好き。でも、テアちゃんはそういうのじゃない。えぇと…人間の言葉でなんだっけ…あぁ、そうそう。ラブってやつ?」

思い出したように答える彼女だ。


「……じゃぁなんでからかってるんだ」

半眼になり、彼はリリアの華奢な肩を強く掴む。

「ん?私たち、姿かたちはこんなだけど。未来永劫、老いることも。死ぬこともないじゃない」

彼女はライアの瞳をしっかりと見据える。


普段ふざけている彼女とは思えない緊張感が、オッドアイの瞳から伝わり、ライアは、己の手を離す。



その様子を見ながらリリアは続ける。

「……かといって、子孫を残せるわけでもない。……異質な私たちがそんな感情抱いても」

彼女の答えを遮るように

「邪魔なだけ。と言いたいのか」

「さっすがライアね!話早い!!」

答えを聞き、彼女はパチパチと手を叩く。


「極論だが。人間が恋愛ごとにうつつを抜かすのは…子孫繁栄があるからだしな」

「そういうこと。三人でいれば寂しくないしねー」

「未来永劫でもか?」

口元に笑みを湛えるライアに

「意地悪だなぁ~。未来永劫の不老不死なんかもういらないから、ライアも必至こいてるんじゃないの?」

とリリアは問いかける。


的確な問いかけにライアは

「……そうだ」

視線を逸らし呟く。


「じゃぁ、そういう意地悪言わないで」

唇を尖らせてピシャリとリリアは目の前の男に告げる。


バツが悪そうにライアは謝罪したのだが

「悪かった……て。こらなんで押す」

彼女は彼の背中を、チリチリンと鈴の音を鳴らしながら唐突に押し出す。

「なんでって…ゲラタムに一人で行かせないために?」

「………ゲラタムに行くと言うことは、アイツの所に行くんだぞ」

彼の背中に、ビクリッと強張る感覚が伝わる。

「……大丈夫よ。ライアも一緒でしょ?テアが嫌いなことしてるの。私もいい加減克服しなきゃ!」

彼は、彼女が無理にでも付いてくることをよく知っていることをよく知っていた。


そのため

「まぁ……リリアがいいならそれでいいが」

諦め、付いてくることを承諾する。


「決まりね!?じゃ、フローラにお願いして一瞬で行っちゃお~!」

しゅっぱーつ!!

とリリアの声が廊下に響く。


(……まぁ、作戦はいくらでも変更できる…か)

胸中で呟いて、ライアはゲラタムへリリアと向かうことにした。


いつもよりボリューミーな長さでしたがご拝読ありがとうございました。

前後編に分けようとしましたが、この三人には勢いが必要なので、区切ることはしませんでした。


このお話には、後日(4/8)に挿絵が付きます。

その際は挿絵見に来ていただけたら幸いです♡←


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