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第3話



「さっき、ポケットから取り出して首にかけていたのはコレ?」

アイレンは、彼の胸元にぶら下がるペンダントを繁々と見つめる。

「見てたんだ?」

彼はペンダントをつまみ、手のひらに乗せる。


彼女はまず中央部に目が行く。

(なんだか……)

「気持ち悪いでしょ?」

シズリーが苦笑しながらアイレンの心の声を代弁する。

中央部には天眼石(アイアゲート)が埋め込まれているからだ。

「……」

無言で彼女が頷くと

「これはね、俺の家系で継承されているペンダントなんだ」

「継承?見たところ、翡翠……よね?」

「そう。翡翠に、ロードライトガーネット。そして、真ん中に埋め込まれた天眼石(アイアゲート)だ」

彼女の質問に一つ頷き、シズリーは答える。


「宝石の塊じゃない……」

「……まぁ、そんな大層なもんでもないだろうけどね」

彼は苦笑する。

「……もしかして…金持ちのボンボンなわけ?」

怪訝そうに見つめながら、質問してくる彼女に

「いやいや。お金持ちだったら、着の身着のまま現れて10年も居候しないでしょ」

彼は眉根を垂らし、否定する。


「それもそうね……」

納得する彼女を横目に見て

「どこから話そうかな…」

呟き、彼は再び服の中へとペンダントをしまい込む。

「どこから?」

「そう。親友を殺してしまった経緯だよ」

悲しげに、シズリーは緑色の瞳を伏せる。


「言いたくなきゃ言わなくてもいいのよ」

「あぁ。……あの時は…そうだな」

彼の声は小さく尻すぼみにになっていく。

「………」

そんな彼の様子に彼女は急かすことはせず、ゆっくりと星空を眺める。


どのくらいの時間がたっただろうか。

パチパチと、炎が揺らめき二人の顔を照らす。

揺れる炎を見つめながら、シズリーが遂に口を開く。


「うん。ここから話そう」

「聞いてもいいの?」

アイレンの問いに、彼は縦に首を振る。


そして

「親友を…ハリスを殺した日、俺は自宅で彼と遊んでいたんだ」

意を決したか、彼は点を見上げ瞬く星々を見つめながら、一つ一つの言葉を大事そうに紡ぎ始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それは、春のような優しい木漏れ日が降り注ぐ日だった。


キラキラと暖かな日差しが、垣根に身を隠す幼いシズリーを包み込む。

小さな声で、しかしハッキリと

「ハリス!ハリス!」

目の前を通過した親友の名を背後から呼び止める。

「びっくりしたぁ…そんな所から出てこないでよ」

ハリスと呼ばれた少年は、金色の前髪から青い瞳を覗かせて驚く。

「部屋から、ハリスが見えたから迎えに来たのにそんな風に言うなよなぁ」

シズリーは、小さな尻尾を寂し気に垂らしガサガサと垣根を分け、ヒョッコリと顔を覗かせる。

「確かに、僕はリー家に来たけどさ、突然背後の垣根から出てきたら誰でも驚くよ。……でも、よく僕が来たの見つけたね?」

少し、呆れた声を出しハリスは腰に手を当てる。


最も、その仕草はその様に見えるだけで本当はハリスの方から先は腕などではない。


垣根から出た、シズリーは

「だって、その綺麗な白い翼はハリスってすぐわかるよ」

天使みたいだ。と目を輝かせ小さな掌でハリスの腕……正確には肩から腕に向かって白く生える翼に触れる。

「ママほどまだ大きい翼じゃないし……そんなことないと思うけど……」

翼をシズリーに大人しく触らせたまま、恥ずかしそうにハリスは答える。

「謙遜?そんなのするなよ。俺から見たら充分綺麗だよ」

幼いシズリーは、優しく微笑む。


「………っ……僕の事、男って忘れてるでしょ?」

頬を染め、唇を尖らせるハリスは不服そうに問いかける。

「いくら女みたいな顔だからって忘れるかよ」

「本当に~?」

「本当だって!!……それに、男じゃなかったらそんな風に服着れないだろ?」

ニッ。とからかうかのように笑みを湛え、ハリスの衣服を指さし言葉を続ける。

「素肌に、そのままサロペット着用してさ。女の子だったら恥ずかしくて着れないだろ?だって乳く……むぐ……」

言いかけるシズリーの口にハリスは顔を真っ赤にし、翼をあてがう。


「下手な服着るよりも、翼が楽なの。下手なこと言わないでよ」

と、ハリスは背を向ける。

「からかってごめんって……」

シズリーが謝罪をすると

「本当に悪いって思ってる?」

ハリスは青い瞳を、幼い緑色の瞳に絡ませる。

「うん。思ってる……」

寂し気に頷く彼に、しょうがないな。と困った顔をしてハリスは

「さっき、綺麗。って言ってくれたから許す」

と、シズリーに微笑む。


その微笑みにシズリーは安心し満面の笑みをこぼす。

「……で?今日、僕を呼び出したのはどういう要件?」

ハリスはシズリーに問いかける。

「今日は、俺のとっておきを見せたくて呼んだんだ」

「とっておき?」

ハリスの問いかけに、シズリーは口の端を持ち上げ、ハリスに背を向け歩き出す。



「ついてきて」

「え?」

「今日は正面から案内できないんだ」

悪知恵を瞳に宿らせてシズリーはハリスを見やる。

そして、再びガサガサと音を立てシズリーは垣根を掻き分けて姿を隠してしまう。

「ぇ、ちょっと!」

慌ててハリスは、シズリーの後を追いかける。

幼い彼らは、太陽の光を背に受けてその場を後にし、シズリーの家の中へと入っていった。



「こっちだよ」

シーッと人差し指を口元に当てて、シズリーはハリスを呼ぶ。

黙って、ハリスはついてきたが

「……初めて、シズリーの家の地下に来たけど…大丈夫なの?」

ほんの少しの興味と不安が入り混じる。


そこは、一面が重たいレンガ造りの壁。

日の光も届くことが無く、人工的な光が規則正しく灯された妙に長い廊下だ。

「大丈夫。ちょっと見せたいものがあるだけ。すぐに、戻るよ」

そう言ってシズリーは歩みを進める。


「見せたいもの?」

「リー家の家宝を見せたくてね。昨日、俺が継承したんだ」

得意げに、シズリーは笑う。

「家宝?」

青い瞳をキョトンとさせ、ハリスは大人しくシズリーに付いていく。


「そう。何千年も昔から受け継がれてるんだって。これで、俺もリー家の一人前の男ってことだなっ」

ふふーん。とシズリーは腰に手を当てる。

「……それは……どうかなぁ……」

眉を垂らしハリスは困り顔になる。


そんな都合の悪いハリスの言葉を、シズリーは右から左へと彼は受け流す。

そして

「ま、他者には見せるなって。この部屋には連れてくるなって言われてるから、内緒な?」

ハリスだけだ。と付け足し、彼は幼い瞳をウィンクさせる。


「……それ、大丈夫なの?僕、また怒られるの嫌だなぁ……」

悪戯をしてはしこたま怒られる。

幼い二人にはそれが日常になっていた。


ハリスのボヤキに対して

「ばれなきゃいいんだばれなきゃ」

無邪気なまでに彼は答える。


そんな彼に、ハリスは半ば呆れた顔をして

「ま、僕としてもそんな秘密知れるならうれしいけどさ」

ハリスが呟いたとき、シズリーは幼き足での歩みを止める。


「ここにあるんだ」

廊下を進みたどり着いた先は

「……ただのレンガの壁だよね?」

「俺も最初そうだと思ってたんだ。見ててよ」

シズリーは、壁に触れる。

「我、主なり。その宿命にて扉を……開けよ」

ブツブツと呟くと、

ボゥ……と、重厚なレンガ造りの壁から六芒星と目玉模様が浮かびあがる。

その異様な程の禍々しさに

「……僕、やっぱりいいよ……」

後退り、ハリスは完全に怖気づいてしまう。

そんな、彼に向け

「大丈夫。この中に見せたいものがあるんだ」

鋭く、緑色の瞳を光らせ、シズリーは幼い体に力を入れ壁を押す。

ガコンッ…とレンガが一つ外れると周りのレンガの壁もゆっくりと開かれていく。


開かれたその先は、薄暗く。

しかし……ある一廓だけ明かりが灯されていた。


怖気付いたのが嘘のように、ハリスの幼き足はその光へと導かれる。

導かれた先で

「……これ?」

青い瞳を、その一廓に照らし出されたものへと向ける。

「そう。このペンダントだよ」

にっこりと笑いシズリーは答える。


先程、レンガへと浮き出てきた目玉模様にソックリな天眼石(アイアゲート)が埋め込まれたペンダントを見て

「……でも、ちょっと真ん中の目が怖い……ね」

ハリスは呟く。

「うん。少し……な」

ふたりは、そのペンダントを繁々と見つめる。


「なんでこれがお宝なの?」

「さぁ?まだ説明を最後まで受けてないから俺にも分かんない」

頭の後ろで手を組みシズリーは答える。

「それって、シズリーがちゃんと話聞いてなかったんじゃないの?」

青い瞳を、シズリーへと向けハリスは質問する。

「だって、夜だったんだ。皆寝てしまった後、起こされて連れてこられた」

唇を尖らせてシズリーは答える。


その姿を見て、クスッと笑った後、

「見た感じだと……翡翠と天眼石……あとはガーネットの種類かな?だから、お宝なのかなぁ?」

手元の羽を口元に持っていき、ハリスは首をかしげる。

「そんな感じだよな」

「……凄いねぇ。手に取ってみてもいい?」

「当たり前だろ!」

純粋な笑顔でシズリーは許可を出す。

「じゃ……じゃぁほんの少しだけ……」

白い羽で恐る恐る触れる。



その時だった。


【我の力。主人のもののみ】

何処からともなく重厚な声が空間に……いや、彼らの頭の中に響く。

「空耳……?」

ハリスが辺りを見渡すが

「俺にも聞こえた。……空耳じゃない」

幼い彼らの背中に冷や汗が垂れる。


しかし、辺りを見渡せど、彼ら以外に人物はいない。

「ねぇ……シズリー……僕なんだか不味い気がするよ」

「奇遇だな……俺もだ」

二人が会話をしたその時だった。

ユラユラとペンダントを照らしていた明かりがバチバチと激しく瞬き始める。

「……何っ…!?」

「とにかく一回出よう!!」

力強く、シズリーはハリスの羽を掴み部屋から出ようとした時だった。



バシイィィィッ…!!!

と大きな音ともに、シズリーの額に痛みが走る。

「……っ…ぐっ!!」

幼いシズリーは突然の痛みに呻き額を押さえ、その場にヘタリ込む。


「大丈夫!?どうしたの!?」

ハリスは悲痛に叫び、シズリーを覗き見る。

「…。大丈夫。行こう……」

シズリーが顔を上げると

「………ひっ……」

ハリスは小さな悲鳴を上げる。


「なに?どう……し……」

怪訝な顔をしながらシズリーはゆっくりと立ち上がったのだが……

(ぁ……?こんな時に立ちくらみ…?)

シズリーは項垂れ意識を飛ばす。

「……シズリー……?ねぇ!シズリー!!!」

ハリスは懸命に声をかけるが……

シズリーが意識を取り戻したのは、随分と時間が経ってからだった。


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