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第2話


「ただいま」

半裸の状態。

そして、両手に二匹ずつ魚を持ってシズリーが戻ってくる。

「随分と満足げな顔ね」

彼女は先程まで来訪者がいたことを悟られぬよう、冷静に彼に近づく。

「久しぶりに遊んでみたからね」

満足げに、彼は器用に魚に枝を刺していく。

「耳も、尻尾も濡れているけど…どんな捕まえ方してきたのよ」

「ぇ?普通に潜って捕って来たよ」

笑い、彼は近くの丸太へと腰掛ける。


「……野性的……熊じゃないんだから」

呆れ気味に彼女は呟くが、

「ぁ、ちょっとこれさ、その辺にでも掛けといてくれない?」

彼はそういって、上半身を包んでいたであろう衣類を足元から拾い上げアイレンへと渡す。



衣類を受け取りアイレンは問いかけると、

フワリ。と夏の匂いと彼の匂いが鼻を掠る。

(……いくら付いて来たとはいえ…シズリーと二人きり……なのよね)

現実を再度目の当たりにし、アイレンは何となく気恥ずかしくなる。

勢いで付いてきたのは自分自身である。

しかし、冷静に考えれば年頃の娘と…年齢不詳だが混合種では若い部類に入る男と二人きりなのである。


「ここでいいの?」

気を確かに持つため、彼女はシズリーに背を向け素っ気なく問いかける。


返事が無いことに、肯定と捉えた彼女は、近くの木々の枝に衣類を掛ける。

「これも」

そう言って、彼はアイレンの手を取り、枝の刺さった魚を渡し、耳元で囁く。

「……ッ……近い!!」

彼女の反応にシズリーは目を丸くする。


「何?どうしたの?」

「何でもないわよ」

チッ……と舌打ちする彼女に

「ならいいけど」

そう言葉を紡いで、彼は大きな尻尾を翻し、上半身は裸のまま、先程の丸太まで戻り枝や落ち葉を集め始める。

その手際の良さに、アイレンは金色の瞳を丸くして

「慣れてるのね」

感心する。


「一応、幅広く教育は受けてきたからね」

「教育?」

彼女が問うと

「そう。俺、箱入り息子だったから」

「まさか、それが原因で人間界に?」

彼女の素朴な質問に、

「そんな所かな」

彼は苦笑する。



「人間界はどうだった?楽しかった?」

彼女は問いながら、シズリーの隣に腰を掛ける。

「色々勉強になったよ」

彼は優しく微笑む。

火は彼の手により大きくなり、湯を沸かすのに調度よくなりはじめていた。


シズリーは、炎を見て満足げに頷き立ち上がる。

「シズリー?」

「お湯も沸かそう。魚くべといて」

そう言って、湿り気のある大きな尻尾を揺らし、シズリーは幌馬車の中へと引っ込む。


その背中に、

「……教育に……勉強……ねぇ」

ボソリと呟くアイレンの脳内には

(もしかしたら、この混合種は良いところの出なのかも知れない)

なんとなくそんな考えが浮かぶ。


「ん?何か言った?」

両手にステンレスの調理器具を持ち、戻ってくるシズリーに

「教育とか大層なこと言ってるけど、昔の東洋の文字は読めないのよね?」

意地悪に彼女は問う。


その質問に、緑色の瞳を泳がせて彼は

「……遠い異国の……それも大昔の言葉だろう?ロマンは感じるし、いずれ覚えなきゃならないとは思うけど……」

彼の妙な物言いに、彼女は

(……何か引っかかるのよね…。まぁ、でもシズリーが言いたくないなら…)

黙り胸中で呟く。


「アイレン?」

シズリーは緑色の瞳で金色の瞳を覗き込む。

二色の瞳が交差し、彼女は

「……不景気。も知らなかったものね?」

彼女は追及することもせず、軽口を叩く。

「そういうこと」

彼は苦笑するのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん~っ。食べた!」

アイレンは満足げに空を仰ぐ。

その仕草に、シズリーもつられ、空を仰ぐ。

「星が凄いね」

人工的な明かりもなく、浮かぶのは月と星々。

そんな月もまだ低い位置にあるのか、大した光を放つわけでもなく、彼らの頭上には満点の星空が広がっていた。


彼は濡れた髪と耳はだいぶ乾いたため、干してあった衣類を着込む。

ポケットから彼は何かを取り出して首にかける。



(ペンダント……?)

気にはなりつつも、特に触れることもせず、横目に見ながら彼女は

「今にも溢れ落ちてきそう」

「そうだね」

相槌を打って、彼はアイレンの隣に腰掛ける。

彼らは、未だ衰えることのない焚火の前に座っていた。

「やっぱり、火が沈むと涼しいわねー」

アイレンが何気なく会話する。

「……こうやってゆっくり話すのいつ振りだろうね」

そう言って、まだ唯一半乾きの尻尾を炎へと近づけ、手櫛する。


「一つ、聞きたいんだけど」

「何?」

「なんで上は脱いでたのに、下はちゃんと着てきたの?」

膝を抱え、アイレンは問いかける。

「ぇ?俺の下半身狙われてる?」

冗談を言う彼に

「………」

金色の瞳を無感情にし、無言でナイフを取り出す。


その姿に、彼は一つ咳払いをして

「流石に、レディの前だからね」

「濡れたまま、パンツ履くの気持ち悪くないの?」

「……嫌だけど…」

唇を尖らせる彼に、アイレンはクスリと笑い

「冗談。考えてくれたんでしょう?ありがと」

礼を言う。

「………ッ……」

彼は、滅多に見せてもらえない微笑みにたじろぎ赤面する。


そんな彼の事も知らぬまま彼女は上空へと手をかざす。

その姿に

「何してるの?」

シズリーは問いかける。

「んー?この手で何人……いや両手両足じゃ足りないくらい、命を奪ってきたんだなって」

「………」

なんと答えれば正解か分からぬ彼は黙り、彼女の言葉に耳を傾ける。


そんな姿に、アイレンはライアから聞いた疑問を投げかける。

「ねぇ……」

「うん」

「魂の浄化って何?」

この言葉に、シズリーの表情が変わる。


「いつ、だれから聞いたの?」

明らかに、何かを知っている様子に

「先日。依頼主から聞いたのよ」

アイレンは一つだけ嘘をついて、右耳に触れながら答える。

(……隠し事……かな)

隠し事をする際の、彼女の癖を見て見ぬふりをして、シズリーは口を開く。

「魂はね、肉体が無くなっていても、種族関係なく浄化されると…人型精霊になるんだよ」

「……?まるで夢物語ね……あ、だからこの間人型精霊は絶滅してないって言ったの?」

彼女の問いかけに彼は頷き

「そして……人型精霊……いや成熟期(エルフ)が混合種しか伴侶にしないのはそういうこと」

「そういうこと?」

「人型精霊同士は生殖能力を持たない。あくまで、混合種と交わるから子孫が産まれるんだ」

彼の答えに、アイレンは眉根を寄せる。


「でも、混合種の子供は混合種でしょう?今は、人型精霊との掛け合わせなんていないんじゃないの?」

アイレンの問いに、シズリーは首を横に振る。


「この間も言ったけど、それは、人間界での話。実際、人型精霊は絶滅なんかしていない。俺もだけど混合種は未だ、成熟期(エルフ)との掛け合わせだよ。言葉通り、種族が混合してるから、混合種なんだよ」

「………混乱してきたわ…」

こめかみを押さえ、唸る彼女に

「そんな難しく考えなくていいよ。人型精霊同士は生殖能力を持たない。そして、混合種と混ざり合うことで子孫を残す」

「それだったら、やっぱり人型精霊は絶滅の一途じゃない」

膝に肘をつき、頬杖をしながらアイレンは一つ短い息を吐きだす。


そんな彼女に彼は、少しだけ間を置いて

「……そこで、話の本題。魂の浄化があるんだ」

「教えてくれるのね」

口元に笑みをたたえ先を促す彼女を、少しだけ困った表情で見つめ

「さっき、魂の浄化をするとその魂は、人型精霊になると俺は言ったよね?」

彼の問いに、アイレンは頷く。


パチパチと焚火の炎が未だ、二人を優しく照らす。

「魂の浄化には条件があって…異世界(シャルバラ)にあるとされる道具と、選ばれし混合種が揃うことが前提とされているんだ」

丸太に腰を下ろす体制から、シズリーは地べたに仰向けに寝転びだす。


「選ばれし……混合種?」

「そう。それらの条件が揃わなければ魂の浄化はされない。それこそ、人型精霊は絶滅の一途を辿る」

「……選ばれし混合種ってどんな人なの?」

と、アイレンは寝転がる彼に見下ろしながら問いかける。



「異世界の住人はみんな口をそろえて言う言葉がある。『額に、三つ目を持つもの選ばれし者なり。今こそ己の命と、記憶を糧に…その力を民のために。魂のために捧げよ』ってね」

「三つ目……ねぇ。実際そんな人いるの?」

アイレンの問いに彼は肩をすくめ

「さぁね。実際、絶滅はまだしていないけど、俺が物心ついたころから人型精霊は減少の一途を辿っているよ。時間の問題じゃないかな」

寂しげに答える。


「……亡くなった成熟期(エルフ)とか、混合種が少ないとかじゃなくて?」

アイレンの問いかけに

「確かに、成熟期(エルフ)も混合種も寿命は人間が思っているよりも遥かに長い。でも、死ぬときは死ぬ………まぁ…選ばれた混合種はもしかしたら運命に逆らいたいのかもね」

瞼を閉じてシズリーは答える。


「運命に逆らいたい?」

「だって、魂の浄化をするのに自身の魂と……記憶を捧げるんだよ。俺だったら嫌だね」

彼は苦笑して答える。



そんな彼の表情を見てアイレンは

「………三つ目…って言ったわね」

「あぁ言ったよ。三つ目は異世界(シャルバラ)じゃヒーロー……いや、神みたいなもんだ。その時代時代に一人しかいないっていう噂もあるよ」

沢山いたらいいのにね。

と、シズリーは切なげに呟く。


「ねぇ……シズリー?」

アイレンは寝転ぶ彼の顔に、己の顔をグッと近づける。

サラリと、彼女の赤い髪がシズリーの頬を撫でシズリーは目を見開く。

「……ッ!?何?キスでもして欲しいの?」

「ふざけるのは辞めて。これ……本当に傷跡?」

ツゥ……と右の人差し指で、彼女は彼の額に伸びる傷跡をなぞる。

「くすぐったいな。どういう意味?」

彼女の指を優しく退けて、彼は問う。

「私には、これが傷跡に見えないのよ」

その言葉を聞き、

「ハハハハハハッ」

彼は突然笑い出す。


「なんで笑うのよ」

「いやいや。俺が選ばれし混合種って言いたいの?なんでさ?」

(マスターにも同じことを言われた…なんてのは教えてあげないけどね…)

彼は胸中で付け足してアイレンにその答えを問う。

「じゃぁ…質問を変えるわ。その傷はいつ、何処でついたものなの?」

アイレンは彼にはぐらかされまいと、問い詰める。

しかし、その答えは的外れなものだった。

「……これ?この傷は親友を俺の家で殺したときについたものだよ」

そう答え、彼は寝転ぶ体制から再び丸太に腰掛ける。


「………親友を……殺した?」

ザァッ!!と強い風が二人の間を強く駆け抜ける。

バサバサと、赤い髪と金色の髪が揺れる。

「そう」

短く頷く彼を、一瞬消えかけた炎が再び照らし出す。

「どういう……こと?」

「……俺もその時の記憶がないけど……そうだね、話しておいたほうがいいかもね」


そう言って、彼は服の下に首元から手を入れ、翡翠でできたペンダントを取り出すのだった。

ご閲覧

ブクマありがとうございます♡


次回更新

3月11日18時です!




「ねぇ、シズリー?選ばれし混合種って貴方のことじゃない?」

「どうしてそう思うの?」

「その額の傷は…本当に傷なの?」

「…傷だよ。これは親友を殺した時に出来た傷なんだ」



です。

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