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掌編

共棲

 



 夏を楽しみにする程子供じゃなかった。


 ただ、夏の陽射しを、あの何も彼もを漂白しようとするかのような熱を愛した。肌が灼かれるとき、自分は間違いなく“生きていた”。

「そうだね。きみはあの瞬間“生きていた”ね」

 黒いローブの女がわらった。嘲りを含んでいた、と思うのは当たっていると思う。わざわざ確認はしないけど。

「……」

 足元に目をやった。男女が数人、倒れている。今度は自分がわらった。口端が吊り上がった歪みを湛えた笑みだった、だろう多分。

 途端に女が哄笑した。それを聴きながら溜め息を零した。わざと逃がした男が、特警……いや、警察を連れて戻る前に還ろう。この考えを読んだか知らないが、女は抱き着いて来た。黒いローブが、自分の体さえ隠す────と、溶けた。


 黒いローブに溶け、女と同化し、やがて瞬きの間に影へと自分たちは掻き消えた。




 あの夏の日、陽射しより高い熱量の光が自分を灼いた。一瞬だった。自分は体を失った。しかしおかしなことに自分はこうして考えられる。体は無いのに、だ。

 なぜかわからない。まるで空気人間だった。体は無い。だから、何にも触れないし何にも干渉出来ない基本的には。


 そう、あの女以外には。




「寂しい?」

 女が声を掛けて来た。最初は自分ではないと思い無視した。だって自分は知覚されないから。

 しかし彼女は今度は自分の目前に顔を寄せ再度話し掛けて来たのだ。─────寂しい? と。


 そこから彼女との時間が始まった。彼女はただ体を失った自分と違い物に触れ干渉することが出来た。だが考えることが出来ないと言う。闇雲に感情のまま動く───成程、彼女は感情の残滓のようだった。


 それからだ。それから自分と彼女は一体化した。私が考え彼女が動く。こうして奇妙な日々が幕を開けた。

 あるときは侵入者を脅かし、またあるときはその内の悪質なる者を屠った。徐々に精神を削るのはどうかと思ったが彼女の希望であったし何より侵入者たちの恐怖は、彼女の糧になっているようだった。




「取り敢えず疲れた……もうねむろう?」

「……」

 彼女が何者であるとか、自分がどんな状態かとか、もう今ではどうだって良かった。

 ただ自分たちが共にいて、そこへ誰かが迷い込んでその都度いたぶって。

 これが続くだけ。




 ほんの少しの安息を得るために瞼を閉じる。


 遠くで多くの物音がしたがそれだけだった。




   【Fin.】

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