第四章
トランドへ向かう部隊は、総勢三十名という小規模なものだった。
戦力が少ないという欠点があるものの、トランド側に気づかれないようにするには有利だ。人数が少なければ少ないほど小回りが利くし、相手の目もごまかせる。
サガ曰く、重要なのはいかに効率よく城を制圧するからしい。兵がろくにいないのはどちらも同じなのだから、勝つ可能性も負ける可能性も五分五分のはずだった。
切り離した部隊は敵の目を交いくぐりながら、ティティンを出ることに成功した。本来なら海路で横断するのが一番の近道だが、あいにく海路はトランドに封鎖されていて使えない。
仕方なく迂回し、平原を越えての行軍になる。道は平坦だが、いかんせん距離があったため、目的地の国境が見えてきたのはティティンを発ってから丸二日後のことだった。
目の前に広がった光景に、カリルは言葉を失った。
トランドの国境を越えた先には、村と呼ぶには躊躇うほど荒れ果てた集落があった。村人は一様に痩せ細り、着ている服もぼろぼろだ。何より気になったのは、子供の目が暗いことだった。
「国境沿いの村はどこも同じようなものらしい」
フードをかぶったウィリアムが、横に馬をつけてつぶやいた。
「どこも?こんなんだってのか?」
「軍事に回す税金が高すぎるんだ。戦争をすれば金が必要になる。そのツケを負うのは、すべて民だ。・・・ティティンだって例外じゃないけどな」
そういえばティティンに初めて入ったとき、税金が上がったと露天の主人がぼやいていたのを思い出す。
「戦争が長引けば国が疲弊するんだ。このあたりの村のように、王都に遠い場所から廃れていく」
「・・・これが、あいつの国か」
つぶやくと、響が気遣うような視線をよこしてきた。
「カリルさん?」
「何だよ」
「いえ、その。・・・もしかして落ち込んでるのかなーって」
カリルは呆れかえりながら、響を見た。
「なんでおれが落ち込むんだよ?」
「だって・・・想像と違ったんじゃないですか?」
その問いかけに、カリルは口をつぐんだ。
具体的な想像などしたことはなかったが、確かに目の前に広がる土地がフォリオの国だと言われると、奇妙な違和感があった。あいつがこの状況を放置しているという事実が、信じられない。
バカバカしい、と肩をすくめたのはウィリアムだった。
「王族が国を作るんじゃない。民が国を作るんだ。トランド皇子がいるからといって、国が簡単に変わるわけじゃない」
「まぁ、それはそうですよね。トランドがフォリオさんのイメージ通りの国だとしたら、そもそも戦争なんておきないんでしょうし。うんうん」
「・・・そうだな。ティティンがウィルの国だからって、喧嘩に弱い国ってわけじゃないもんな」
「・・・どういう意味だ」
「そういう意味だけど」
「ウィリアムさん。ドンマイです!」
響が余計な一言をいい、ウィリアムににらまれた。王都までの道のりを確認しに行っていた兵士が、戻ってきて合流すると、すぐさま馬を走らせることになる。
カリルは手綱を握ったまま、流れていく光景に視線を馳せた。どこまでも続く荒れた土地に、舌打ちをする。
あのバカ、一体なにやってんだ。本人に会ったら言ってやろうと心に決める。
何度か名前を呼ばれ、意識が浮上した。目を開けると、眉をひそめたシルバの顔がある。
「フォリオさま。・・・大丈夫ですか」
大丈夫だ、と応じながらフォリオは軽く頭を振った。どうやら報告と指示を繰り返す間に、意識が飛んだらしい。
「少しお休みになったほうがよろしいのでは」
「いま、休んだから」
「しかし・・・」
「状況は?」
尋ねるとシルバは益々眉をひそめ、側にいた刃に目を向けた。刃が呆れたように首を振ったのが分かったが、構わずフォリオは重ねて尋ねる。
ようやくシルバが口を開いた。
「・・・では、ご報告いたします。ティティンに進行中の第三部隊と、第七部隊が中央砦に到達したようです。交戦が始まったと連絡がありました。それから」
シルバは声をひそめた。
「まだ確認はとれていませんが、今日の明け方、西の国境を越えてきた集団が目撃されています」
「西の国境?数は」
「ざっと、十人ほどだそうです。全員が馬ですね」
「十人か・・・」
刃が首を傾げて言った。
「ティティン関係か?にしちゃ、数が少ないけど」
「・・・目立たないよう人数を分けてる可能性もある。シルバ、その集団が向かってる所は分かるか?」
シルバはうなずき、抑えた口調で答えた。
「おそらく王都かと。真っ直ぐ向かってきます」
「・・・一応、調べてみよう。立ち寄りそうな村に伝令を」
「かしこまりました」
一礼して、シルバが退室した。
「どうするつもりだ?ティティンの奴らだとしても、迎え打つような戦力は、こっちにだってないんだろ」
「迎え打つつもりはないよ」
フォリオはそう言って小さく笑った。疲労からか、顔色が青ざめていた。無理もない。戦端が開かれてから、というかレイアの件以来、彼はほとんど休んでいないのだ。




