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プロスト  作者: ガル
第六部
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第四章

 ティティンで行われた次代の王による演説は、クライスを激怒させた。

「小賢しい真似をしおって。若輩者の分際で」

 フォリオはグラスが壁に叩きつけられ、砕けるのを見守った。

 演説後、すぐさまクール王であるルベルトがティティン、セイオン両国に抗議を申し立てたが、両者ともこれを黙秘で通した。

 周辺の国々は自国への飛び火を案じているのか様子見の姿勢を貫いていて、あまり芳しくない状態といえる。

「フォリオ」

「はい」

「調印式の日程を早める。ルベルトと協議しておけ」

 調印式は、クールを統一するための儀礼的な式典だ。性急な命令に、フォリオはそっと息をついた。

「・・・あまり得策とは言えません。先日の演説もありますし、ティティンやセイオンがどう出てくるか・・・。もう少し慎重に進めたほうがいいのではないでしょうか」

「慎重に行った挙げ句、気づいたらクールは独立していた、では済まされんぞ」

「・・・」

 フォリオは口をつぐんだ。

 父は気づいていないのだろうか。今、情勢は微妙な均衡を保っているということを。ティティンとセイオンが反乱軍と手を結んだ以上、反乱軍を潰しにかかれば一気に両国との戦争になりかねない。

 そしてそうなれば・・・。

 フォリオは知らず息を止めていた。最悪の可能性が脳裏をよぎった。

「フォリオ、どうした。顔色が悪いぞ?」

「・・・いえ」

「最近眠れていないのではないのか?そういえば夜中もこそこそと何かやっているそうではないか」

「!」

 フォリオは表情に出ないよう、動揺を押し殺した。あまり寝ていないのは、レイアの逃亡のための準備を進めているからだ。もしかして気づかれているのだろうか。

 そんな懸念を読んだかのように、クライスが薄く笑う。

「そうだ、フォリオ。レイアのことだが」

「・・・何でしょう」

「例の逃亡幇助の件を認めたそうだぞ?」

 フォリオは顔をしかめた。レイアにも紅にも、絶対に認めるなと釘を刺してある。ただ鎌を掛けただけか?

「本人が認めたのですか?」

「そうだ」

「・・・」

 嘘だと断じれば墓穴を掘りかねない。だけど、この自信はなんだろう?フォリオは妙な胸騒ぎを覚えた。

 レイアと会ったのは一昨日だ。昨晩は紅が来たが、別段変わったことはないと言っていた。逃亡した後の潜伏先をシルバと相談して戻っていった。

 嫌な予感に後押しされるように、フォリオは扉を見た。失礼します、と声に感情が出ないよう心がけながら、退室しようとした彼に、クライスが声をかけた。

「ああ、フォリオ。レイアなら部屋ではなく、牢だぞ?」

 フォリオは愕然とした。

 今、何と言った?

「牢?」

「罪人にはふさわしかろう?」

「・・・本当に姫が認めたのですか?」

 ああ、とクライスは鷹揚にうなずいた。

「尋問をしたら吐いた。なかなか強情だったがな」

 フォリオは父王を凝視した。

「尋問・・・!?」

「何をそんなに驚いている?」

 怒鳴りたい気持ちをフォリオは必死で呑み込んだ。

「相手は他国の姫です。それを尋問したというのですか?」

「もはやあれは姫ではない。我が領土で罪を犯した娘にすぎん。尋問は当然の処置だと思うがな」

「調印式が終わるまでは、彼女はクールの姫です。そもそもルベルトさまはご存じなのですか?」

 レイアはルベルトの義娘だ。無関係の人間ではない。

 クライスはうるさそうに耳に指をつっこんでいる。

「何をそんなに怒っている。もしや惚れたのか?」

「父上!」

「分かった分かった。ルベルトなら知っているぞ。レイアを好きにしてくださいと言ってきたのはあちらだ。これで満足か?」

「・・・っ」

 フォリオは拳を握りしめた。クライスが言うことが事実なら、ルベルトはレイアを見限ったことになる。

 葛藤するフォリオを、クライスが面白げに見つめた。

「それはそうと、こんなところでのんびりしていていいのか?」

「・・・?」

「レイアだよ。尋問が少々手荒でな。もしかしたらそのままうっかり死んでいるかもしれん」

「・・・ッ!」

 フォリオはくちびるをかみしめて父王を見据えると、すぐさま踵を返して部屋を飛び出した。






「フォリオさま!」

 部屋をでてすぐ、呼び止められた。シルバだ。珍しく焦った様子で走り寄ると、胸に手を当てて一礼した。

「どうした?」

「姫さまのお部屋に護符が」

 顔を寄せると、シルバは声をひそめて報告した。

「守護霊用の、強力なものです。剥がそうにも兵がついており叶いません。どうなさいますか?」

 護符と聞いてすぐに閃いた。紅だ。部屋に閉じこめられているのか。強力な護符は守護霊を弱らせることもできる。

 だとしたらレイアは今、完全に無防備な状態だ。フォリオは顔をゆがめた。先ほどの父王の言葉が耳の奥によみがえる。

「護符を剥がしてくれ。兵にはおれの名前を出せばいい。ーーー刃!」

 フォリオは声を上げた。斜め上にいた自分の守護霊に声をかける。

「シルバと一緒に行ってくれ。紅を頼む」

 刃は躊躇うような表情を見せたが、すぐに了承した。

「分かった。おまえはひとりで平気か?」

 言葉で返す時間も惜しく、フォリオはただうなずくと、ひとり牢に向かって駆けだした。




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