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プロスト  作者: ガル
第二部
11/65

第四章

「ォリオ、・・・おい、フォリオ?」

 間近で聞こえた声に、フォリオははっと我に返った。目を上げると、刃が横から顔をのぞき込んでいる。

「刃」

「大丈夫か?ぼーっとして」

 ああ、と答え、フォリオは目の前に並べられている食事に目を向けた。そうだ、食事の途中だった。

 上座に座っていたクライスが笑った。

「珍しいな、おまえがぼんやりするなど」

「てめーが働かせすぎなんだよ。ちょっとは遠慮しろ」

「これでもしているほうだがな」

「どこがだよ」

 刃のぼやきに、クライスは愉快そうに肩を揺らした。

「ふたりとも、先の戦はご苦労だったな。これで南方への足がかりができた。王が自決したのは面倒だが・・・まぁいい。どうにでもなろう」

「責任者として何人か置いてきましたが、彼らは軍人ですから、すぐに代わりの者を向かわせます。こちらから何人か連れていってもよろしいですか?」

「かまわん。おまえの好きにするといい」

「では決まり次第、またお知らせします」

 フォリオは堅い口調で告げると、仕事の一環のように食事に向き直った。刃はというと部屋の窓枠に腰を下ろして頬杖をついている。いらいらしているのが見て取れた。

 フォリオ、と名を呼ばれ父王に視線を戻す。

「はい」

「ティティンに入っていた者の報告によると、どうやら守護霊がいる様子はないそうだ。消滅したか、ただ隠れているだけか分からんが、そろそろ本腰を入れる頃合いかもしれんな」

「・・・分かりました。準備をしておきます」

「それからもう一つ」

「はい」

「嫁を貰う気はないか」

 あまりに唐突な言葉に、フォリオはすぐに返事ができなかった。目を丸くしてクライスを見つめる。

「あの、今なんとおっしゃいましたか?」

「嫁を貰う気はないかと言った」

「・・・」

 フォリオは眉をひそめた。

 気のせいか、頭痛がした。

「・・・なぜ、いきなりそんなことを?」

「おれが今のおまえの年の頃には、女には十分興味があったんだがな。なぁ、刃?」

「あーそういや屋敷中の女に手ぇ出してたよな、あんた・・・」

「それがおまえときたら全くそんな素振りも見せない。そんなことで大丈夫なんだろうな」

 フォリオはそっと心の中でため息をついた。

「今は忙しくてそれどころではありません。冗談はやめてください」

「おまえは優秀な息子だが、妙なところで堅物すぎるのはいただけんな。誰に似たのやら」

「おまえじゃなけりゃリナだろうが」

「やはりそうか」

 納得したようにクライスはうなずいている。

 いつものことながら、この父親が何を考えているのかさっぱり分からなかった。あまり、分かりたくもないのだけど。




 ほんの少し、手が空いた時間に母のいる離れに向かう。

 いつもどおり部屋の前にいる使用人に断って中に入ると、ベッドの中にいたリナが身体を起こした。

「フォリオ」

「母上、お加減がよくないのですか?」

 ベッドに近づいて、フォリオは用意してあった椅子に座った。リナは体が弱く、寝込むことが多い。

 薬が効いているのか、ぼんやりした表情でリナはうなずいた。

「・・・少しだけ。でも、大丈夫」

「おれのことは気にせず、眠ってください」

「でも、せっかくフォリオがいるのに」

「では何か話をしましょうか。母上が眠るまで側にいますから」

 フォリオは安心させるように微笑んで、リナの肩をそっと押した。布団を肩まで引き上げてやる。

 しばらく他愛のない会話をしていたが、やがて眠くなってきたのかうとうとと微睡み始める。

「フォリオ・・・」

「はい」

「結婚するって本当・・・?」

 フォリオは目をしばたたかせた。刃は横で吹き出している。

「しませんよ。誰からそんなことを?」

「クライス様が・・・フォリオはどこかのお姫様と結婚するって」

「それは・・・父上のご冗談でしょう」

 どこかのお姫様、というやけに具体的な話に、嫌な予感を覚えつつも、一応否定しておく。

「本当・・・?」

「はい。ですから、気にせず眠ってください」

 優しく髪を撫でると、誘われるようにリナは目を閉じた。しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。

 




「どういうつもりなんだ?父上は」

「さぁ?あいつの考えてることは昔からよく分かんねーからな」

 リナを起こさないよう細心の注意を払って退室したフォリオは、廊下を歩きながら顔をしかめた。

 横をついてくる刃は、くつくつと面白げに笑っている。

「案外本気で結婚させようとしてたりしてな」

「・・・笑えない冗談だな」

「なんでだ?おれは逆にありだと思うけどな。確かに早すぎるけど、おまえひとりにしておくと何か危なっかしいし」

 フォリオは思わず相手を見返していた。

「刃まで何言い出すんだ。やめてくれ」

「わかんねーな。なんでそんなに嫌がるんだか・・・」

 不意に刃がにやりとくちびるをつり上げた。

「ははぁ。さては好きな子がいるとか?」

「刃!」

「冗談だって。わりぃ」

「全く・・・」

 フォリオは大きく息をついた。

 そうでなくても今は何かと頭の痛い問題が山積しているのだ。これ以上訳の分からない問題を引き出すのはやめてほしい。

 こちらの心中を察してくれたのか、刃がふと話題を変えた。妙に改まった口調で、なぁ、と口火を切る。

「フォリオ、そろそろティティンを攻めるのか?」

「・・・そうなるだろうな。ただ、あそこの地形はおれたちには不利なんだ。相応の作戦を立てていかないと・・・」

「ふーん」

 刃は何かを考え込むように目を伏せている。階段を下りていたフォリオは、足を止めて振り返った。

「刃?どうしたんだ?」

「いや、あいつどうなったのかなって」

「あいつって?」

「ティティンの守護霊。名前なんつったかな・・・すごい変わった奴なんだけど」

「顔見知りなのか?」

「まぁ同胞だしな。つっても会ったことは二回くらいか」

 そうか、とフォリオはつぶやいた。 ティティンにいる密偵の報告だと、守護霊はいないという話だった。どこかに身を潜めているのか、それとも守護の島にいたのか・・・。

 そこまで考えると、自然と友人の顔が思い浮かんだ。最後に見た、怒った顔しか思い出せなかったけど。

「・・・」

「フォリオ?」

「・・・なんでもない。行こう」

 首を振ってフォリオは促した。階段を下りきって、離れから本城へ入る。

 普段人気のない廊下に出た時、不意にフォリオは誰かにぶつかった。

「!」

「っ、すいません」

 フォリオは慌てて手を伸ばした。

 ぶつかったのはドレス姿の女の子で、ヒールが災いしたらしい。バランスを崩して尻餅をついた少女に手を差し出す。

「大丈夫ですか?」

「・・・」

 少女は差し出された手を見つめ、それからフォリオの顔を凝視した。最初は驚いたような顔をしていたが、だんだんと表情が抜け落ちていく。

「あの?」

「フォリオ・・・皇子?」

「そうですが・・」

 答えながらフォリオは首を傾げた。そもそもこの子は誰なんだろうか。服装からして城の使用人には見えないし、誰かの客なのかもしれない。

 いや、でもこの顔はどこかで見たような。

「あの、どこかで・・・」

「・・・」

 少女は何かをつぶやいたが、小さすぎて聞き取れなかった。聞き返しても答えはない。

 後ろにいた刃が不意に声を上げた。

「フォリオ、離れろ!」

 素早い動きで、少女は懐から何かを取り出した。光を反射するそれは、ナイフだった。





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