表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

ざけんな!

「なに。賢者の石は創れない、だと?」

 ユリアヌスは片方の眉を吊り上げ、激怒し、コンラードをなじりだした。

「余は、おまえが高名な錬金術師と聞いていたからこそ、召喚したんだぞ」

「いや、そこは召喚してやった、の間違いじゃないのかい、皇帝サンよ」

 以前までの態度と一変違って、コンラードは本来の海賊口調に戻っていた。

 謁見の広間はたちまち大騒ぎとなる。

「なぜか理由を申せ、コンラード! いったい、何が不満だ、報酬か? 高級な羊皮紙や金銀財宝だけでは飽きたらん、とでも申したいか」

「報酬? ずばり言おう、俺はそんなもんのためにここ、ハンガリーまで来たんじゃねえ。あんたがどんな治世をしているか、ぜひとも知りたかったのさ。それと賢者の石の材料調達。それだけさ」

「・・・・・・ほう、それで、いかがであった。余の治世は」

 コンは鼻で笑ってあざ笑う。

「言うまでもないね。昨日見てきた町の風景、あれじゃあ、古代に荒れ果てたという、ヒン(中国)の、長安の都も同然じゃないか。ここに安録山でもいりゃあ、きっとお前さんに忠誠を誓い、この腹にはあなたへの服従心がつまっております、とでも答えたろうが」

「ぬっ・・・・・・」

 ユリアヌスは手に持つ杯を震わせた。

「無礼であろうが。皇帝陛下の御前であるぞ!」

「御前であろうが、なかろうが、そんなこと関係ねえ。俺は賢者の石を作る材料がほしかっただけなんだよっ。それもよこさない気か?」

「宰相。よかろう、くれてやれ」

「はっ?」

 即座に返答するユリアヌス。コンは勝ち誇ったように微笑んでいた。



 この時代の錬金術師の役目とは、ひとえにパトロンを探すことであったが、パトロン探しで苦労したという。

 ゆえに、肩書きをいくつも持つ学者が多かったのは、そうせざるをえなかったからだ。

 たとえば、絵画をたしなむ悪魔の召喚者がいたりするのは、そういうことが理由である。

 コンラードの場合、士官学校で実績を上げて、人気の少なかった砲撃科に所属、それ以降は淡々と出世し、提督の地位に上り詰めた。

 わずか十七歳で。

 若すぎる出世は、同時に波乱をも巻き起こす。

 彼が錬金術に手を染めたのは、ロレンツォというイタリアでも名門の貴族だった男の影響で、彼だけにしか作れない特別の『賢者の石』は、不老不死だけの効果を起こすとは、限らなかった。

 何が起こるかわからない楽しみを含んだ、謎の鉱石。

 それが、ロレンツォ・シュトーネと呼ばれる、通常は真っ赤な血の色をしていたが、それは違い、宝石で言うとターコイズのようなものだった。

 皇帝はコンに、それを作れとせかしたのであった。

「だから、できねえんだよ」

 ロレンツォに無理やり弟子入りしたコンラードは、押し付けがましいこの皇帝に喝を入れる。

「不老不死だと。何が不老不死だ、ざけんな。あんなのは信じてはいけないものと、師匠はよく言っていたものさ。だから俺もその理念を守ることにしていた。たった一つだけを除いては、決して作ったりしないと。そのたった一つの石は、ここにはないがね」

「ではその石を探せばいいのだな!」

「無駄だよ。俺が壊した」

 即答したコンに、ユリアヌスは嘆きのため息を吐き出し、感情をぶつける。

「では余の許可を出すから、今すぐ創れ」

「ああ・・・・・・これじゃ、堂々巡りだな」

 コンは頭をかいた。

「まあどうしてもって言うなら、考えてやらんでもないが・・・・・・俺の条件を飲むか?」

 コンはにやり、と気味の悪い微笑を浮かべた。

「何だ、申せ」

 皇帝は無表情で答える。

「アウレリア隊長を、俺の仲間として連れて行く。どうだ?」

 一同はざわめき、興奮状態に陥った。

 そこを皇帝が起立し、声を張り上げ静寂に戻す。

「残念だが、あれは昨日、謀反を起こしてなぁ。即刻処刑した」

「なっ!?」

 コンとヘルマンがつい三日ほど前に会話した、あのときはまだ穏やかだったのに。

 物事の、すべてが。

 ――なにか、悪い予感がするのです。

 コンはアウレリアの言葉を思い出し、ユリアヌスを下からうつむき加減で、とげとげしくにらみつける。

  

「どうした、いやか?」

「当たり前だ。俺は、アウレリア隊長の実の息子を連れてきていたのに。その息子に俺は、ヘルマンに対して俺は、なんと答えてやればいい!」

「親父殿は、皇帝に敬意を払い、潔く殉職した、と」

 ユリアヌスはコン以上に性格が悪いようだ。

「そうか、俺も決めたぜ。絶対に賢者の石は、つくらねえからな」

 コンは外套をひるがえして、大またに歩きながら謁見の間を去る。

 ユリアヌスは再び玉座に着くと、高らかに笑い、コンラードに対して、処刑を言い渡したのであった。  

この話、決してかっこいい英雄のお話でもなければ、コンラードがかっこいいってわけでもなく・・・・・・いうなれば、むなしさだけを追求した話、というか。

たぶん、救いようがないエンドです・・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ