もうひとつの目的?
「待て」
ヘルマンが寄宿舎に入ろうとすると、兵士たちに止められた。
「貴様なにやつ」
「通してくれ。僕は、アウレリアの息子だ」
「アウレリア隊長の、ムスコォ?」
兵士らは互いに顔を見合わせると、乱暴に肩を揺らして笑い出す。
「おかしな小僧だな。お前みたいな平民が、隊長の息子だと? アウレリア違いじゃないのかい」
兵士はまた笑い出す。
ヘルマンはバカにされたことが口惜しくて、たまらなくて、顔を真っ赤にさせていた。
「なんだ、ここにいたのか。ヘルマン」
振り返るとコンがいた。
「コン・・・・・・」
兵隊たちはコンラードを珍しそうに見て、耳打ちした。
「コンラード様ですか。お噂はかねがね」
兵士の一人が、笑いをこらえながら言った。
「どうも」
涼しい顔で返答するコン。兵士らは嘲笑の通じない相手と悟り、顔をしかめていた。
「アウレリア違いだと? おいへルマン、こいつらに何か言ってやれよ。本物のアウレリア隊長の子ですって」
「なにぃ」
兵隊は槍をかまえた。
ショートスピアと呼ばれるもので、短いというが、馬上用の武器のため、リーチが長かった。
「よさぬか。その子は確かにわが息子だ」
豪華な鎧の老兵が現れた。
「とうさん!」
ヘルマンは父に近づき、手を強く握った。
「すまない、なかなか顔を見せに戻れず。かあさんはどうしている。不都合はないか」
「ありません」
兵士たちはヘルマンが本当に隊長の子と知ると、態度を翻した。
「ぼっちゃま、さあ、こちらへおいでなさい」
ヘルマンは吐き気を催した。
これがあるので、彼は貴族社会というものが嫌いだったのだ。
しかし、権力があれば、ヘルマンはましな生活ができる。
「コンラード殿・・・・・・」
アウレリアは少々、困ったように腕を組み、顔をしかめてうなった。
「どうかしたのか」
コンが尋ねると、アウレリアは汗をふきふき、
「いや、皇帝がなにやら、あなたに頼みごとをなされたとかで」
「ああ、賢者の石ね。あんたもあの場にいたはずだが」
「・・・・・・いやな予感がしてなりませぬ。コンラード殿。今回の、やめたほうがいいのでは」
コンはヘルマンと顔を見合わせながら、
「なんでまた、そんな。俺は、それを作るためだけに呼ばれたんじゃないのか」
アウレリアは首を激しく左右に振った。
「いえいえ、とんでもない。皇帝の目的はもうひとつあるのです・・・・・・さすがにそれ以上は私もわかりませんが」
「ユリアヌスめ。人のよさそうな顔をして・・・・・・」
コンは握りこぶしを作った。
「用心しなされ。そしてヘルマンも」
「・・・・・・はい」
これが、父との今生の別れになるとは、ヘルマンは思うはずもなかった。
その後、アウレリアは謀反をおこして皇帝に殺され、さらし首にされたと聞く。
おとうさん、とうとうさらし首に。
何で好きなんだろう・・・・・・時代劇!?