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悪い子じゃないんだが。

「ロレンツォ?」

 ヘルマンは怪訝そうに言った。

 まだコンラードたちと出会う少し前、ヘルマンは寄宿学校で神学を学んでいた。

「そそ、ロレンツォって言う貴族が、なんでもざくろ石って言うのを隠し持っていたらしいぜ。おい、ヘルマン、お前も創れよ。なっ、きっといい錬金術師になれるぜ」

 悪友どもがヘルマンをバカにして大笑い。

 神学の成績がとても悪いヘルマンのことを、級友たちはこぞってバカにしていたのだ。

 それでもヘルマンは、きょとんとしていて、エジプト錬金術やヘルメス学、それにソクラテスにヒポクラテスといった哲学もかじっていた。

 ついで、アポクリファにまで手を出し、司祭は彼をとうとうなじり、寄宿舎から追い出してしまったのだった。  

「あんなものは異教徒が作った悪魔の書だ! あなたには必要がない」

「ですが司祭様」

 ヘルマンはスカーフを巻きなおし、負けじと言い張る。

「アポクリファの言っていることが真実ではないという証拠すらないのに、疑ってかかるのはどうかと思いますね。ソクラテスも異端者扱いされています。それなのにアポクリファだけを異端書扱いとは、どうでしょうね」

 司祭は額を押さえながら、

「もういいです、アウレリアくん。さようなら」

  

 神学の成績がよいものはよくて、ヘルマンのように哲学の精通者はクビで破門。

 当時の中世思想では、ありきたりのことだった。

 神の名をかたり、免罪符を作り出した宗教。

 金さえ払えば、地獄逝きを取り消すと偽って売り出す。

 貴族には何倍の金で売り、農民たちには一切売らないといったこともしばしばで、ルターの改革運動は、これがきっかけで起こったようなものだった。

 

 乗せられた貴族もバカだよ、とコンは言う。

 アポクリファに感動し、クセノフォンを読みふけるヘルマンにとって、コンラードは人生の鑑でもあった。

 

 寄宿舎を追い出され、ヘルマンはどうしたものかと立ち往生し、ケルンの町を右往左往していた。

 そこをコンラードに拾われたのであった。

「お前、どうしたんだよ」

 ヘルマンは自分が貴族出身ではあるが、父と離れて暮らしていて、寄宿舎に入れられ、その寄宿学校を追い出されたと告白した。

「はあん、なるほどね、お前はあれか、アンチ・クリストだろ。だったら俺がかわいがってやるよ。ついてきな」

 コンは悪巧みをしていそうな、邪悪な微笑を浮かべ、ヘルマンを自分の船まで案内した。

「俺はコンラードって言うんだ。こう見えても俺は、海の覇者なんだぜ」

「コンラードさん!?」

 ヘルマンは飛び上がるほどうれしくて、悲鳴を上げ、さらには握手を求めた。

「あなたがあのコンラードさんだったとは。申しおくれました、僕、へルマンです。ヘルマン・フリードリヒ・アウレリア! 英雄ですものね、あなたは!」

「英雄ねぇ。そんなもん、肩書きだけで終わっちまうよ」

 なぜか悲しそうにうつむいた。

「そんなこと! だってほら、ドイツ叙事詩のニーベルンゲンだって、ディエトリヒだって、それにほら、フィンランドのカレワラだって、不滅じゃないし、残っているでしょう。あなたの功績もきっと、永遠に残るはずです!」

「はは、けど俺は神じゃないし、なんともいえないね」      

 船の上には少女が乗っていて、コンラードを呼んだ。

「こいつはソラって言うんだ。俺がお前と同じで、拾った娘さ」

「ほう。東洋人ですね」

「らしいね。しかもコイツときたら、俺より頭いいもんだから、ラテン語やドイツ語をぺらぺら話せるんだ。まったく、いやになるね」    

 コンはそういって、栗色の髪の毛をかいた。

「あたしにとって、コンは王子様以上の存在よ。そのへん、わかってね」

 ソラがにっこり微笑んでいった。

「はいはい、お姫様」

 な? といいたげにコンは苦笑する。

「ソラちゃん、だっけ。僕はヘルマン」

「知っているわ。聞いてたもの」

 そっけなく言うソラ。

 その態度が生意気に思え、ヘルマンは少し、ムッとした。

「ソラは悪い子じゃないんだが、どこかねぇ・・・・・・」

 コンは笑いながらヘルマンの肩をゆする。

「まあ相手は、がきじゃんか。な? 怒るなよ。それよか、今夜は飲むぜ」

 性格の悪そうなコンが、ヘルマンに好意を抱いた理由は定かではないが・・・・・・。

 ヘルマンは酒を飲まされながらも、その理由を考えていた。    

ソラって生意気な娘だったのか。

コンは人がいいおっさんみたいだぞ(笑。


フィンランドのカレワラって、ワイナミョイネンという爺さん英雄のあほなお話です。

ニーベルンゲンはいつも書く竜退治。

クセノフォンはソクラテスと同時代に生きた哲学者でした。

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