ヘルマンの誓い
ヘルマンはブルガリア帝国一の騎兵団長を父に持つ、名家の貴族だった。
だった、というのは、もうすでに伯爵の地位を失い、彼は結果的に、父を裏切り、国を裏切ってしまったのだから。
しかし彼は後悔などしてはいなかった。
なぜなら、支えあう仲間がいたからである。
「よう、ヘルマン!」
ひとり目は、船上でタバコをくわえながらにっこり微笑む少年、コンラードだった。
彼は謎の多い人物で、ヘルマンの憧れでもあった。
というのは、コン、つまりコンラードは皇帝さえもしのぐといわれる知識を持ち、さらには武勇に優れてもいた。
もうひとりは、黒髪で黒い瞳の東洋人。
しっとりとした美しい少女であった。
名を、ソラといって、彼女は空色に光る勾玉をいつも、大事そうに首からさげていた。
「コン。僕はもう迷わないよ」
と、ヘルマンは言った。
黙ってうなずくコン。しかしその表情は、引き締まっていた。
「僕は逃げたくない。逃げるわけにいかなくなったんだね」
ソラもそうよ、といった。
ヘルマンは父を裏切ってしまった。
そして皇帝も・・・・・・。
ブルガリア帝国を裏切ったせいで、父はさらし首にされたと噂で聞いた。
なぜこうなったのかと、ヘルマンは自分を恨んだが、コンに説得されて立ち直ることができた。
「お前が自分で決めたんじゃなかったのか。もし違うというのなら、ここで別れてもいいんだぜ」
だがヘルマンはコンを頼りにしなければ、路頭に迷う身分になってしまっていた。
「わかったよ、コン。僕は、まだ君たちと行く!」
「あれからお前の顔立ちが、以前の不抜けた顔とは違って見えるぜ」
過去を回想していたヘルマンは、はっとしてコンを見た。
「まぶしいね、あの夕陽のようだ」
コンは水平線を指差した。
真っ赤に燃える太陽が、ぎらぎらと周囲を照りつけながら沈んでいく。
「あなたの・・・・・・いいや、コン、きみのことをすべて知りたかったんだ。僕は」
コンはタバコをポロリと落とした。
「な、なにいってんだ、おめえ。気色悪いこと抜かしてんじゃねえよ!」
「あははは、ごめんごめん。勘違いしないでくれ、僕はそういう意味で言ったわけじゃない。あなたがまさか、偉大な修道士様であろうとは、どうして僕が気づけたろうか。いまさらなんだけどね、コン。僕がきみに力を貸す気になったのは、そのことがあっただけじゃないけれど。・・・・・・最後まで見届けるからね、きみの行いを!」
「ああ、まあ、見ていてくれ」
コンは沈む夕陽にタバコを投げ捨て、ニヤリと笑ってから、言った。
コン・・・・・・修道士の癖に海賊家業とは・・・・・・。
コイツ只者じゃないですねぇ。ニヤリ。