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コンの陰謀

「僕はもう、逃げたくない。逃げるわけに、いかなくなったんだね・・・・・・」

 


 ヘルマンは父の死を、数週間後、知ることになった。

「なぜ、もっと早く知ることがかなわなかったのだろう」

 涙が頬を、一粒、二粒と伝う。

 頬を伝うそれは、最初なま暖かかったのに、次第に冷気でひんやりした。

「コン、僕はもう、迷わないよ」

 涙をありったけ流し、泣きはらした瞼でヘルマンが言った。

「僕は、後に引けない身体になったんだね。でもだいじょうぶ。僕は、父さんの子だもの。きっとコンの足手まといには、ならないからね」

「いいのか。後悔しないか?」

 ヘルマンはうなずいた。

 背後でエイリークとソラが、ふたりの話し終わるのを待っていた。

「いい話ですねぇ、ソラさん」

 コンラードより涙もろいエイリーク。

 ソラは、そうね、とだけいって、ヘルマンをいとしそうに見つめる。


    

 コンはヘルマンにブリガンディと呼ばれる古代の鎧を与えた。

「それだけでもありゃあ、ましってもんだろ」

 ブリガンディはロリカ・ハマタというなめしの鎧よりは強い。

 ブリガンディもロリカ・ハマタも、むかし、アテナイの戦士たちが使ったとされるローマ時代のもので、いくらか丈夫に編まれ、鎖帷子に近かった。

 ただし刺突にはめっぽう弱く、銃器類がちらほら出てきた十五世紀にそんな貧しい装備をコンがなぜ持っていたのかも疑問であるが、なぜ、それをわざわざヘルマンに与えたのか。

 それは先ほども言ったように、嫉妬から出た行為である。

 人は嫉妬すると、いかに冷静であろうと、とっぴもない行動にでるという。

 コンラードも例外ではなかった、ということだろうか。



「本心を言うと、俺はヘルマンが許せなかったんだよ・・・・・・。ソラ、つまり、俺の宝が奪われてしまう気がして・・・・・・」

 とのちに、エイリークに告白している。 



 ヘルマンはコンラードからいつも言われてきた、

『俺の足手まといには、なるな』

 という言葉を、忠実に守ろうと、たったひとりで帝国へ向かった。

「決めたんだ。僕はお父さんの敵を、僕自身の手で討つ。コンの手は煩わせないよ」

 ヘルマンをひとりでいかせたことに腹を立てたソラは、泣きじゃくりながら、何度も、何度も、何度も・・・・・・コンの胸板をたたく。

 言葉にしようにも、ならないうめき声とともに。

「うう・・・・・・ヘルマンが・・・・・・ヘルマンが・・・・・・コンの、コンのバカッ・・・・・・」

 コンラードは自分がしたことに後悔はしていない。

 だから彼は、奇麗事を言った。

「あいつは、俺の手を煩わせないで皇帝を倒そうとしているんだ。邪魔してはならない」

 だがヘルマンは所詮、学者上がりの少年に過ぎず、戦術も理解せぬまま、皇帝の餌食にされた。

 コンラードの処刑命令を、これでちゃらにする、とお触れも出た。

 コンはこれを待っていたのだろうか?

 ソラはヘルマンが死んだことを知ると、コンにあるものをねだった。

「あれを出して。賢者の石!」

 コンは鼻で笑う。

「壊したって言ってるだろ」

「うそよ。私は知っているのよ。あなたが隠し持っているということを! さあ早く出して」

 コンは、その使い道を知っていたが、震える声で尋ねていた。

「何に使うつもりか、言ってみな・・・・・・」

「決まってるでしょ。ヘルマンを生き返らすの!」

 コンはできない、と一言叫んだ。

「どうして。あなたのお師匠様も絶賛したほどって、前に言ったじゃない」

「だけど、とっくに俺が壊したから。もうこの世にはない」

「そんな! 愛しているの・・・・・・」

 ソラは涙を連続で流しながら、コンになおも石をねだる。

「ヘルマンを、あの人を好きだから、失いたくない!」

 コンはとうとう根負けし、胃の府を乱暴にたたいて、きれいな青い石を吐き出した。

「これが俺の、賢者の石だ」

 それでソラの心が自分から離れなければいいと、コンは胸を痛めた。 

 それで、ソラに俺のそばから去らないでほしい、と願いを込めて。

 だが――。

 帝国でヘルマンの死体を見つけたソラは、突きつけられた現実に絶望する。

 ヘルマンの全身は、槍や剣がつきたてられて、遺骸とはいえないものと化していた。

 まるで武器の墓場だ・・・・・・ソラはこんなとき、出雲時代の先生から自分の表現力が豊かだといわれた記憶を思い出し、泣きじゃくった。

 ヘルマンは人間よ。武器じゃないわ。

 ソラはヘルマンの身体につきたてられた血にまみれた武器たちを、ときおり、グチャ、と肉がはがれる音がしたりするのさえ気にしないようにつとめながら、ひとつ残らず取り去る。

「ヘルマン・・・・・・私、あなたを愛したのに、あなたも思ってくれたかもしれなかったのに、手しか握ってもらえなかった・・・・・・、だからこれから、ふたりで思い出、作ろう。結婚したいし・・・・・・キスもしたい・・・・・・」

 ヘルマンの唇に、石をあてがった。

「娘」

 ソラは振り返った。

 声の主は、ユリアヌスである。

「よくもヘルマンを!」

「そいつが飛び込んできたのだ。父親と同じ、ろくな死に方をしなかったがな。コンラードはどうした。お前の連れであろう? なぜいない」

 ソラに近づくユリアヌス。

 ソラは、コンから預かった拳銃を、ユリアヌスや兵士たちに向けた。

「動かないで、それ以上きたら、撃つ!」

「脅しか」

 だがソラが撃っても弾は出なかった。

 ソラは冷や汗を流し、何度も引き金を引くが無駄に終わった。

 ユリアヌスが片目をつぶると、ソラは一斉に襲い掛かってきた兵隊に捕まってしまい、ヘルマンの死体も兵士らに踏みつけられて、粉々に砕けていくさまを、まざまざと見せ付けられていくのだった。

「やめて、ヘルマンを壊しちゃだめ!」

「ソラといったか。こいつは牢獄にぶち込んで置け。――あとで余が」

 ユリアヌスは狡猾そうに含み笑いした。


「コンラードめ、逃げたか。後悔するがいい。お前の大事な小娘は、余が捕らえたぞ」    

 コンラード、病的ですか(汗。

 しかも、やきもちって。

 ヘルマンはワシのお気に入りなんだから、こ〜ろ〜す〜な〜、といいたいところ・・・・・・。

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