俺の名前はエイリーク
一日の終わりを告げる、大聖堂の鐘の音が町に響いた。
ともすれば今度は酔っ払いどものたむろう時間でもあり、早速鼻の頭を赤くした中年や若者で、繁華街は賑わいだした。
「やけに騒がしいと思ったら、きょう、お祭りなんだね」
人々は飲めや歌えの、乱痴気騒ぎ。
さらには王や神々をかたどった大きな人形が、町全体を覆い尽くした。
「あれが北欧神オーディンだよ」
ひときわ大きくて目立つ被り物をゆびさし、ソラにささやくヘルマン。
ソラはいつもと違い、やさしさを帯びたヘルマンに対し、胸がいっぱいになって小躍りした。
「どうかした、顔が赤いけど」
「ううん、なんでもない」
ここはノルウェー。
一同はどうせなら北欧を回ろうということになって、一路このノルウェーやデンマルクなどを目指したのだった。
「今日のヘルマン、なんだか、やさしいからね。ちょっと、うれしいんだ」
ソラは自分の気持ちを正直に打ち明けた。
ヘルマンはその一言に緊張し、急に話しかけることに恥じらいを生じた。
「ね、ねえ。手をつないでいい?」
ソラが言うと、ヘルマンはあわてて上着で手をこすり、ソラの手を強く握り締めた。
ソラは痛みに顔をゆがめるものの、ヘルマンに悪いと、我慢していた。
コンラードは数歩後ろから街道を歩いていたが、じつは少し嫉妬していたりする。
コンはソラに対して、ある種の保護心というか、いつも守っていた、急にそれをヘルマンに奪われたような、くすんだ気持ちに襲われていた。
それでもじぶんは、笑顔でヘルマンを認めねばならない!
そこがコンには、突かれると苦しい急所であった。
あったのだが――。
ここにまで皇帝ユリアヌスの刺客があらわれており、コンは舌打ちすると、ヘルマンとソラを引き離し、敵兵を自分のほうに引きつけておいて、やっつけようと決め込んだ。
コンが囮になり、兵士も釣られて路地裏に引き込まれる。
しかしコンの姿はどこにもあらず、兵士ふたりは戸惑いを見せ、剣を持ったまま立ち往生していた。
「よう、ご苦労なこった」
コンは懐から最新式の回転銃を取り出し、兵士に撃ち込んだ。
「うっ!」
打たれた箇所を兵士は手で押さえ、ぶったおれる。
二発めを撃ち込むコン。
もうひとりもなすすべなく、ぶっ倒れた。
「ふう。これで片付いたかなぁ」
銃口から漂う白い煙を、コンは一気に息で吹き消した。
コンが仕事を終え、酒でもいっぱい引っ掛けようかというところで、きれいな娘とぶつかって、しりもちをついた。
「あぶねっ、そしてイタいっ」
「ごめんなさい、だいじょうぶ」
コンは彼女の美しさに思わず見惚れ、いっちょう口説こうかと口を開きかけたが、あとからどやどやと野獣のような男どもが一斉にやってきて、あっというまにコンと娘を取り囲んでしまった。
「おいおい、ねえちゃんよ。何で逃げたりするんだね」
「そうだよ、おいらたちゃ、何もとって食おうとしねえんだから」
げへへへ、と下卑た笑いをする男ども。
コンは物怖じせず、地面にぺっとつばを吐いた。
「何だ、いきがりやがって」
トロールのような化け物男が、くぐもった声でコンを脅す。
「てめえこそ、この俺が誰か、判って言ってるんだろうなぁ。あ?」
問答無用でコンとトロールたちとの激戦がはじま・・・・・・いえいえ、吾らがコンラード、じきに二秒ほどで、敵をねじ伏せてしまった。
「あうちちちち、す、すまねえ、助けてくれ」
「聞こえねえなあ。もう一度ききてえんだが。ていうか、何度でも聞かせろや」
コンはあくどそうに、にいっと笑って、男の腕を後ろに回し、勢いよく折り曲げた。
「もう許せって、あうっ!」
「これに懲りて、悪さするなよ」
腕を折られた男は、去ろうとするコンにすがりつき、
「兄貴、おれをぜひ、弟子にしてくれ!」
というのだった。
「はあ? 弟子って・・・・・・」
コンは目を丸くし、トロールを見下ろしていた。
「俺の名前は、エイリーク。昔は先祖がヴァイキングだったんだ」
「おお、どうりでね。バカ力なわけだ」
コンは鼻に手をやって、くすりと笑う。
「そうそう。だから兄貴、おいらたちをぜひ連れて行ってくれ。損はさせねえよ」
「おい、まさか、全員ついてくる気か・・・・・・!?」
あいあいさーと、男ども。
コンはなんてことだと、額に手をやり、しばし身動きする気にもなれずにいた。
なんか展開がとんでもなく進んでいく・・・・・・。汗
エイリークは海賊の中でも最強?
コンのボディガードってことで 笑