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欲望入手

作者: 五円玉

こんにちは!




春の短編祭り「春の3つの物語」第2弾を、今回はお届けします!!


今回は作者初の心理戦をテーマに、ちょっとシリアスな仕上がりになりました。


人間にとっての欲望と幸せとは何かを問う、ちょっとサスペンスな


「欲望入手」


です!


おやおや〜?


あんなところに、泣いているお嬢さんがいるよ?




その美しい飴色の瞳からは大粒の涙を流し。


きらびやかな金髪を震わせ、1人泣いているね。




「お嬢さん、どうしたの?」


僕は声をかけちゃった。


だって、あまりにも可愛そうだったから。




「……ぅ……っ」


お嬢さんは相変わらず泣き顔だね。


「大丈夫かいお嬢さん?何かあったのかい?」


「……うぅ……っ」




……泣きっぱなしのお嬢さん。


困ったなぁ。




……僕には見えるんだ。


「……お嬢さん、何か欲しい物はあるかい?」


彼女の泣いている理由が。


「……えっ?」


僕のその言葉に、ピクッと反応を示すお嬢さん。


「お嬢さん……君は、負けてしまったんだね」


「…………」




―――そう、彼女は負けてしまったんだ。




勝てば何でも欲望が叶う、奇跡のようなゲーム。


金でも名誉でも地位でも、はたまた時間でも人間関係でも宇宙でも。


勝てば何でも手に入れる事が出来る。




しかし、万が一そのゲームに負けてしまうと……


敗者の、一番大切な物が奪われてしまう。


家族、絆、財産、幸せ。


そして、人によってはその命すらも……














18世紀後半のイギリス


その時のイギリスでは産業革命が起き、まさに金が山のように溢れていた時代。


資産家達は裕福な生活を送り、毎日が幸福な日々を過ごしていた。


沢山の金で豪邸を買い、美味しい食べ物を買い、娯楽を楽しむ。


この時の世界の中心はイギリスにあった。






その反面、一般人の低賃金での労働、産業革命から溢れ出てしまった貧相なホームレス達。


産業革命のイギリスの影の存在となった、下々の人達。


毎日を生きていくのに必死で、命を掛けての危険な労働。

そのうえ賃金は安い。


ただ、ひときれのパンを求め、さまよい歩くホームレス達。




―――自分たちだって、勝ち組になりたい。




こんな貧相な生活は嫌だ。




皆がそう思いながらも、身分は変わらない。




ただただ、欲望だけが頭をよぎる。




その強い欲望が……彼らを後に支配するのだ。






そんな時、彼らはイギリスの裏にある世界へと招待される。


ごく一部の、抽選で選ばれた人。






イギリスの裏世界


future gamble


未来を掛けた博打。




ドリームカジノへ……














「ここは……どこ?」


彼女は目を覚ました。

先程まで、ボロい町外れの小屋で寝ていた少女。


しかし、今いるのは……




金色や赤色で装飾された、広い部屋。


とにかく広い。


その部屋には窓が無く、天井からぶら下がるシャンデリアと、


部屋の中央にある、小さな黒いテーブルが1つのみ。


そしてなにより……出入口がない。

どこにもドアと呼べるものがないのだ。


「なに……ここ?」


少女はゆっくりと立ち上がった。

辺りを見渡し、その小さな脳で現状を理解しようと試みる。


自分は確か……




その時






『貴女の求めるモノを与えんとす、欲望の赴くままに答え出せば、欲望は現実に叶う』


「えっ……」


部屋に響く、謎の低い声。


次の瞬間……


『ようこそ、ドリームカジノへ!!』


部屋の中央にある小さな黒いテーブル。


その向こうに、黒いマントを羽織った金髪の若者が立っていた。


「え……な、なに? 何なの?」


少女はただただ、戸惑うばかり。


そんな少女を見て、黒いマントの男はニッコリと微笑んだ。


『とりあえずゲームを始めたいから、そこの席に着いてもらえるかな?』


黒いマントの男はテーブルの向かい側の席に座り、少女を手招き。


少女はおっかなびっくりも、言われた通りに席へ。


……本当は、何故だか底知れぬ恐怖が少女の中に渦巻いていたのだが。


今は、これくらいしか行動出来る事がないと悟ったのだ。


ここがどこだか分からない。


窓やドアがないので、逃げようにも逃げられない。


少女は、恐る恐る席に着いた。


『よし、じゃあまず初めに……』


少女が席に着いたのを確認すると、黒いマントの男はゆっくりと席を立った。


『ようこそギャンブラー。ここは貴女の欲望を手に入れる事が出来る、ドリームカジノ!!』


男はゆっくりと会釈。


『私の名前は……まぁ、支配人とでも呼んで頂ければ』


「し、支配人?」


少女は男―――支配人の顔を見た。


全体的に整った顔立ちだった。


『はい……では先に、貴女の欲しいモノをお答え願います』


「ほ、欲しいモノ?」


『左様。モノでも良いですし、形無きモノでも結構。とにかく今、一番欲しいモノです』


支配人はまたニッコリと微笑んだ。


「…………」


一方の少女は、俯きながら黙りこむ。


『何でもいいんですよ? 美味しい料理、金、土地、名誉、権利、友達、愛、優しさ、世界、宇宙……何なら、2つ目の命でも構いません』


支配人はゆっくりと席に着く。


『さぁ、貴女の欲しいモノは、何ですか?』


すると、少女は顔を前に上げた。


「わ、私……その……し、幸せが欲しい……」


『幸せ……ですか?』


「は、はい……」




少女の家は、産業革命から落ちこぼれてしまった、貧しい家庭。


その日の食事すらも賄えず、おまけに母は病気。


父は出稼ぎにロンドンへと旅立って以来、連絡が一切ない。


家はボロく、すきま風や害虫がよく発生する。


そして……彼女自身も、もう限界にまで達していた。




不幸……




それを、みんなが笑って過ごせる幸運、幸せに変えたい……






『……分かりました。では、幸せを掛けてゲームといきましょうか』


「……え?」


少女には沢山の疑問が浮かんでいた。


『では只今より、欲望入手を掛けたギャンブルゲームのルールをご説明致しましょう』


すると支配人は、机をトントンとつついた。


『ルールは簡単。貴女が最後まで、その欲望を持ち続けていたら貴女の勝ち。実際にその欲望を叶えて差し上げましょう』


「欲望を……持ち続ける……?」


『はい。最後までその欲を持っていられたら貴女の勝ちです。つまり、幸せが欲しいとずっと願っているだけで、貴女は勝てるのです』


支配人は朗らかに笑う。


『しかし……万が一にもその欲望を無くしてしまったり、疑ったりしてしまったら、貴女の負けだ』


「……そ、それって?」


少女の問いかけに、支配人は少し真顔で答えた。


『つまり……少しでも本当に幸せが欲しいのか? とか思ってしまったら、貴女の負けなんです』


「負け……」


『はい……その場合、負けの代償として、今貴女が一番大切に思っているものを、こちらが頂きます』


その瞬間、少女の顔が曇った。


それは……


『……では、さっそくゲームを初めましょう。貴女はただ、私の質問に答えるだけで結構ですので』






質問に対する応答。


ただ、これだけのギャンブルが、今始まる……






『……貴女は今、幸せが欲しいのですよね?』


「……はい」


まだ、少女の瞳には力があった。


『その幸せとは……具体的にどんなモノなのですか? 貴女にとって』


「それは……み、みんなが笑って過ごせる世界……」


『……なるほど』


支配人はここで椅子に座り直す。


『では、どのような幸せが、皆を笑顔に出来ると考えているのですか?』


「それは……た、食べ物に困らなくて……家もしっかりしていて……友達と毎日遊べて……家族がいて……」


『ほぉ、それが貴女にとっての幸せなのですか』


「……はい」


少女はちょっと俯き出す。


『……それは、貴女だけの幸せですよね?』


「えっ……」


その言葉に、少女は目を見開いた。


『本当に……それで貴女は幸せなのですか? 本当に、皆が笑顔でいられる世界なのですか?』


支配人の顔は、にやけている。


それも……瞳だけは鋭く……


「し、幸せです。 だって生活になにも苦になる事がないし……」


『……まぁ、貴女はそれでいいのかもしれない』


支配人は足を組む。


少女はまた、俯き出す。


『……貴女にとっては、それで笑顔になれるかもしれない』


「………はい」


『……けど、それだけでしょ?』


その時、支配人の顔が一気に真顔になる。


『本当に……笑える事が幸せなのですか?』


「……は、はい」


『美味しい料理を食べて、暖かい布団で寝て、友達と遊んで……本当に笑顔になれるの?』


「な、なれます!」


『本当に……それで皆が幸せと感じ、笑顔でいられると思うのですか?』


「あ、当たり前です!」


『じゃあそれは、自分の都合で全てを押し付ける幸せだね』




「……え?」


その時、少女の顔が凍った。


『それは……貴女にとっての幸せでしょ?』


「…………」


『貴女が最初に願った欲望は何だ? みんなが笑って過ごせる世界でしょ?』


「…………」


『そんな貴女の望む幸せじゃあ、今その幸せの中にいる人はどう思う?』


「…………」


『突然下の分際の人間が裕福になり、自分達は対して生活が変わらない』


「そ、それは……」


『他にも、貴女の思うような事だけでは、幸せを感じずに笑顔になれない人だっているかもしれない』


「…………」


『幸せは人それぞれなんだよ。貴女の思う幸せだけで、全ての人が笑顔になれると思うのは大間違いだ』


支配人はゆっくりと笑い出す。


『自分の幸せだけが、全ての幸せだと思うなよ?』


「……でも」


その時、少女は小さな声で呟いた。


「……でも、本当にそれは幸せな事なんだと、私は思います」


『…………』


「みんなでご飯食べて、遊んで、一緒に寝て、たまにはれ、恋愛なんかもして……きっと、笑って過ごせると思う」


『…………』


「だ、だから私は……」














『……幸せってのは、不幸があるから幸せを感じる事が出来るモノなんだよ』


「……えっ」


『そんな夢話みないな幸運ばっかりしてたら、その幸せの有り難みを知ることはなくなる』


「…………」


『貴女が欲しているのは幸せだ。だが、幸せばかりな生活を送っていても、幸せの有り難みを忘れてしまう「不幸」な生活になってしまう事を、忘れるなよ』


「そ、それって……」


『幸せを手にしたヤツは、すぐにそれを当たり前だと思い込み、幸せってのを忘れてしまうんだ』


「…………」


『幸せを知らない不幸な世界に、笑顔はあると思うか?』


「そ、それは……」


『本当に……幸せだけを欲するか?』


「……うぅ」


『幸せだけで、不幸は一切いらないんだな? 幸せを手に入れて、幸せを忘れてもいいんだな?』


「………っ」






『……貴女にとって、幸せってのは何だ?』














「…………ずっと、幸せになるには……どうすれば……」




『……欲望に負けた少女は、やはり醜いモノだな』


放心状態の少女を尻目に、支配人はゆっくりと席から立ち上がった。


『このゲーム、私の勝ちだ』


支配人は笑った。


『では、貴女の一番大切にしているモノを、頂くとしよう』















少女は……希望を無くした。


いつかは父が帰ってくるかもしれない。


母の病気がいつかは治るかもしれない。




……いつか、自分達に幸せがやってくるかもしれない。













希望の無い少女は、ただただ泣く事しか出来なかった。














「……やっぱり、お嬢さんは負けてしまったんだね、ドリームカジノに」


「うぅ……」


ずっと泣いているお嬢さん。


やっぱり、希望を無くしてしまったんだね。


「……お嬢さん、今何か欲しいモノはないかい?」


僕は静かに聞いてみた。


「私……普通の幸せが欲しい……」


お嬢さんは泣きながらも、そう答えた。


「……そうかい。まだ、お嬢さんには欲望が残っているんだね」


僕はついつい笑ってしまった。




……また獲物が連れた。




僕は黒いマントを翻しながら、泣いてるお嬢さん―――少女を再び案内する。




さあ、その欲望を掛けたドリームカジノへ……












人間の欲望は、尽きる事など無い。

さてさて、いかがでしたでしょうか?


次回春の短編祭り「春の3つの物語」第3弾は、今回とは真逆のおバカ神様コメディー!!


「私の神社へいらっしゃい!」をお送りします!


お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 題名 なんだか惹かれるものを感じました。 [一言] 凄くいい話ですね。 幸せとは何かと僕も考えてしまいました。
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